黒と白の狭間でみつけたもの (9)
はしゃぐトウコが、向かいのお店に入り込む。しばらくたってもお店の外に出ようとしないトウコを見て、徐々にタッくん、テリム、ヒヤリンの3匹顔は見合わせた。
「タジャ?」
「テリテリ…」
「ヒヤー?」
町の雑貨に夢中になっているトウコを見つめつつ、その後を追いかけた。
おしゃれなケーキ屋さん、月単位で毎回変わるという、アーティストの個展。
1点ものだけを売っているという洋服屋さん。ビーズで出来たポケモンのキーホルダー。
転々と、お店のはしごを続けていくトウコに戸惑って、3匹は集まりながら、何かを話していた。
「タジャ、タジャジャータ…?」
「テリリ…」
「ヒヤー? ヒヤヤーヤ」
そして、トウコがついにジムの近くまできた。
でも動かない。
ジムには背を向けて、またまた雑貨屋さんの前で、かわいい髪留めをみつけて、トウコが目を輝かせている。
ジムのことをすっかり忘れているらしいトウコを見て、我慢できなくなったのか、イライラしたタッくんがとうとう訴えた!
「タージャ! タジャタジャ!?」
気迫のこもった声に、トウコはビクリと身体を震わせた。
振り返ると、タッくんが明らかに怒っていた。恐い顔。
心なんか読まなくても、言いたいことはわかった。
『はやくジムに行くんじゃないの?!』って言っているだろう。
すっかり町の虜になっていたのに気づいて、ハッとした。ジムに向かうつもりが、いつの間にかただの買い物になっている。
そうだね、脱線した私が悪かったよ、タッくん。
「ごめんなさい、ちょっと、夢中になっちゃって…」
「タジャジャ!」
わかればよろしい!そんな様子のタッくん。
テリムとヒヤリンはくすくす笑っている。
ポケモンに怒られる私って…。
反省しながらトウコは大きく息を吸いなおした。
よーし気合い入れなきゃ!
「そうね、早く行こう!せっかく頑張ったもんね!」
トウコの言葉に、タッくんもテリムも、ヒヤリンも大きく頷いていた。
オシャレなシッポウシティ。誘惑に負けてたら、進めないわ。
トウコ達は、町の中央にあるポケモンジムへと向かった。
シッポウシティのジムは博物館。
真っ白な大きい建物だ。
博物館なんて、古くて貴重なものも多いのに、どういう風にジムになっているのだろうか。
町の中央にある、目立つ博物館の前に立ちながら、トウコは中の内装を考えていた。
まわりが化石なんかで、囲まれていたら、壊してしまいそうで気になってしまう。
まぁ、きっとそんな造りにはなっていないんだろうけれど。
入場券、いるのかしら?
そんなことを考えながら、入り口に入ったところで、誰かと急に鉢合わせになった。
あれ?この黒い球体のネックレス…。
トウコが顔を上げると、その人物は笑った。
若草色の長い髪、綺麗な青い瞳。
「やっぱり、トウコか」
笑顔で言われ、思わずどきりとした。
わかっていたような口ぶり。
まさか、本当にまた会えるなんて…。
「N…また会えたね!」
トウコは嬉しくてにっこりと微笑んだ。
Nの近くに、この前見かけたゾロアはいない。
「あれ、ゾロアは?」
「今は預けている。ゾロアは戦いが嫌いだからね」
「そうなんだ…。あ、もしかして、Nはジムに?」
博物館からでてきたN。
ここに入る人は、博物館を見るか、ジムに行くかの2通りくらいしか、いないはずだ。
「ああ、ポケモンバトルには勝ってきたよ」
そう言って、2つ目のジムのバッジをみせてくれた。
バッジを手に入れてるってことは、Nも相当な実力者なんだ。
優しそうに見えて、案外切れ者なのかもしれない。
「君もこのジムに挑むのか?」
「ええ、そうよ。そのために特訓もしたしね。 でも、知らなかったわ、Nもジムに挑んでいたなんて。あなたもポケモンリーグを目指すのね?」
同じ目標に、トウコは嬉しくなったが、Nは首を横に振った。
え?違うの?
意外な返答にトウコは戸惑った。
「ボクがやりたいことは、チャンピオンではない。世界を変えたいんだ。トウコ」
「世界を変える?」
笑顔で、また突拍子もないことをNは言っていた。
でも嘘には見えない。
純粋な、子供のような笑顔だった。
「ボクは、誰にもみえないものがみたいんだ。ボールの中のポケモンたちの理想。トレーナーというあり方の真実。そして、ポケモンが完全となった未来……。君もみたいだろう?」
早口で語られたNの夢。
どういうこと?
ポケモンたちの理想?
トレーナーの真実?
ポケモンが完全になった未来?
Nはいったい、何を考えているの?
不思議なNの言葉に、どう答えて良いか、トウコはわからなかった。
「よく、わからないわ…」
「……ふうん、期待はずれだな。トウコはわかってくれる気がしていた」
「…?」
Nの目指すもの。
頭で考えるけれど、見つからない。捉えられない。
冷めた青色の目。
いったいあなたは、何を考えているの?
ぐるぐると頭が混乱した。
「トウコ。 ボクとボクのトモダチで未来をみることができるか、君で確かめさせてもらうよ」
Nが腰のボールに手を掛けた。
バトルがはじまる。
混乱した頭が追いつかない。
めまいがしてくるような中、Nはマメパトをボールからはなった!
「ハッポー!」
マメパトの声で、頭を切り換える。
集中!
今は、バトル中よ!
「お願い!テリム!」
「テリテリー!」
トウコの後ろに控えていた、テリムが飛び出した!
マメパトが、空中からテリムに襲いかかる!
テリムが逃げまどう。
マメパトのでんこうせっかが直撃した!
「テリー!」
ひっくり返るテリム!
起きあがるテリムに、マメパトは空中でもう一度体勢を立て直す!
このままじゃ…!
考えろ!
不利な状況をどうするか!
「マメパト!でんこうせっか!」
急激に向かう攻撃!
トウコは叫んだ!
「テリム!とっしん!」
「テリィ!」
迫るマメパトの爪先に、テリムは思い切り飛び込んだ!
お互いの攻撃がぶつかり合う!
押し合う2匹。
マメパトが徐々に勢いを増す!
「負けないで!テリム!」
トウコが声を張り上げた瞬間、テリムの体に変化が起きた!
丸い体が大きく伸びる。
縦長に、スマートに。
体の毛色が黒っぽく変化していく。
「進化?!」
トウコが驚く目の前で、テリムはマメパトの体をぐいっと押さえ込むと、地面に叩きつけた!
目を回すマメパト。
「デリィー!」
ハーデリアに進化したテリムが誇らしそうに、トウコを見て笑った。
「すごいよ、テリム!」
駆け寄ってきたテリムを抱きしめた。
「トウコ、勝負はまだついていないよ」
Nは次はドッコラーを出してきた。
「ララー!」
格闘ポケモン。
迷わずテリムをボールに引っ込めた。
次は…。
「ヒヤリン!まかせたわ!」
「ヒヤリ~!」
ヒヤリンが、ドッコラーとにらみ合う。
先手を打ったのはヒヤリン。
お得意の、みずでっぽうをお見舞いする!
ドッコラーはがまんしている。
まずい!
作品名:黒と白の狭間でみつけたもの (9) 作家名:アズール湊