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アズール湊
アズール湊
novelistID. 39418
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黒と白の狭間でみつけたもの (9)

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「ヒヤリン、ふるいたてる!」

ヒヤリンは次の攻撃に備えて、力を蓄えた!

ここで、ドッコラーのがまんが弾ける!

「ドッコラー攻撃だ!」

Nのかけ声とともに、ヒヤリンめげけて、ドッコラーの強力な攻撃が当たった!

ヒヤリンはふらふらになりながら、なんとか立ち上がる。

「もう一度、みずでっぽうよ!」

「ヒヤー!」

勢いよく当たったみずでっぽうが、ドッコラーに当たり、体力を弱める。

しかし、体力が減っていたヒヤリンの攻撃は弱くなっていたようだ。

ドッコラーは、最後の力を振り絞って、ヒヤリンにけたぐりを当てた!

「ヒヤン!」

くるくる目を回して、ヒヤリンが倒れた。

「よく頑張ったわヒヤリン。ありがとう」

ヒヤリンがボールに戻ると、ドッコラーも尻もちをついた。

すでにふらふらだ。

どうやら相打ち。

つかさず、Nがボールに戻し、次のポケモンをはなつ!

「オタマロ!」

「マロマロ~!」

トウコも後ろのタッくんと目を会わせた。

「いっけ~!タッくん」

オタマロは水ポケモン。

一気に決めてみせる!

「タッくん!グラスミキサー!」

「タジャ!」

緑のつむじ風。

植物と風の刃が炸裂する!

「マロ~!」

オタマロはあっという間に、倒れた。

タッくんは、ガッツポーズだ。

「お疲れ様、タッくん」

ボールに戻して、Nを見ると、彼もオタマロをボールに戻しているところだった。

「君の勝ちだ」

そう言ってトウコを、憂いに満ちた瞳で見つめた。

あの時と同じだ。

カラクサタウンの時と同じ。あの瞳。

今にも泣きそうな、思いつめた顔をしていた。

どうして、こんなにポケモンバトルをした後のNは苦しそうなのだろう。

こっちまで、勝ったというのに悲しくなる。

「まだ未来はみえない……。世界は決まっていない……」

Nはそう言う。

未来…?

Nは未来が見えるとでもいうのだろうか。

世界を変えたいって、なんでそんなことを思うの?

あなたは何に悩んでいるの?

「Nは、なんで世界を変えたいの?」

ふと、でた疑問。

あなたがそんなに悲しい顔をする理由は何?

トウコの言葉に、Nは言った。

「人はポケモンを傷つける。それをなんとも思わない。ボクはそれが許せない!傷つけられた君ならわかるだろう? 人間がどんなに傲慢で愚かなことか。ボクはそれをやめさせたい。そんなことがない世界をつくりたいんだ!」

はじめてきく、少し口調が強まった、Nの声。

悲しい言葉。

Nは、人間を憎んでいるの?

どうして?

人間は、そんな人ばかりではないのに!!

胸の中がぎゅっと締め付けられる。

熱くなった思いが、頬にこぼれた。

「……どうして泣くの?」

Nの言葉に、涙がぽろぽろとこぼれ落ちた。

止めようと思っても、止まらなかった。

泣き出すトウコに、Nは困った様子だった。

「君を泣かすつもりじゃなかったのに…。泣きやんでよ、トウコ」

Nはトウコをぎゅっと抱きしめた。

慰めようとしてくれてる。

こんなに優しい人なのに…。

温かいNのぬくもりに、よけいに涙が止まらなくなる。

Nはきっと、知らないんだ。

チェレンやベルみたいに、優しい人がいることを知らないんだ。

いくらポケモンと話せても、大好きなポケモンに囲まれていても、優しい人間を知らないんだ。

そう思うと、悲しくて仕方がなかった。

「Nは、かわいそう…」

「かわいそう?」

Nは、トウコの言葉の意味がわからないようだった。

まっすぐな瞳からは、困惑の色が見えるだけ。

わかってほしい。

そんな人ばかりじゃないって…!

「確かにポケモンを傷つける人間もいる。でも、大事にしてくれる人だっている。優しい人間は、いるよ。私を助けてくれた友達だって……」

「…そんな人間は、いない。人はみんな嘘つきだ」

トウコの言葉を遮るように、Nが言った。

頑なな、寂しい心。

Nには届かないのだろうか。

溢れ出した涙が、ポタリと、また頬を伝った。

Nがその涙を指でぬぐった。

「君に泣かれると、嫌な気持ちになる」

泣かないでと言われても、心が痛い。

人を信じられない…それを寂しいと、Nは思わないの?

「トウコ、ボクは世界を変えてみせるよ。でも、今のボクのトモダチとでは、ポケモンを救い出せない……世界を変えるための数式は解けない……。ボクには力が必要だ……誰もが納得する力……。君にもわかってもらえるような……」

Nがわからない。

ポケモンを救い出す力…。

それを求めてどうするのだろう。

彼が求める力って…。

「必要な力はわかっているんだ。英雄と共にこのイッシュ地方をつくった伝説のポケモン、…ゼクロム!ボクは英雄になり、キミとトモダチになる!」

Nの声が静かに響いた。

ゼクロム…?

英雄…?

嘘や偽りのない、まっすぐな眼差しを空に向ける、N。

あなたは何を見ているの?

Nの目指すもの……私にはやっぱりよくわからない。

涙はいつの間にか止まっていた。

けれど、悲しい気持ちは消えない。

胸の中にわだかまりをつくる。

「もう、大丈夫みたいだね」

トウコが泣きやんだ様子を見て、Nが安堵したように微笑んだ。

優しい笑顔。

純粋で、まっすぐな、小さな少年みたい。世の中の罪とされることを何も知らないような。

本当に、わからないのだろうか。

こんなに優しくて、温かい人なのに、Nは人間を信じていない。

きっと、誰からも愛されるような人なのに、どうしてそんな悲しい考えなのだろう。

何を背負い込んでいるんだろう。あの悲しい顔をみると、胸が締め付けられる。

この人が苦しんでいると思うと、ひどく切なくなるのはどうしてだろう。

「N…」

少しでも、あなたが苦しく思うことを、軽くできたらいいのに…。

「そんな顔をしないで……トウコは笑っていた方がいい」

再び泣いてしまいそうなトウコを見て、Nは言った。そして、トウコを引きよせると、頬をすり寄せた。

ぎゅっときつく抱きしめられる。

Nの鼓動が聞こえる。

温かさも伝わってきて、トウコはふと我に返った。

Nが近い。

というか、こんなにくっついて…!?

そういえば、いつの間にか抱きしめられていた。

いつから!? いつだっけ?

自覚した瞬間、パニックになった。

「うわぁあ!?」

一気に顔が熱くなる。

あわててNから離れようとするが、しっかり抱きついていて離れない!

なんでこんなに密着してるの!?わたしー!!

「トウコ?」

「わぁーっ!もう、離れてー!」

トウコの取り乱しように驚いて、Nが腕の力を緩めた。目をパチパチさせている。

なぜトウコが取り乱したのか、よくわかっていないみたいだった。

初めて会った時もそうだった。Nはなんというか、大胆だ。

動悸が……、おかしくなりそう。

Nの腕から逃げ出すように飛び出したトウコは、必死で気持ちを落ち着かせた。

そんなトウコの様子をみて、Nはくすりと笑っている。

「トウコは、おもしろいね。元気になってくれてよかった」

元気になったわけじゃないのー!