黒と白の狭間でみつけたもの (10)
アロエが左側を指さした。
町の入り口の方だ。
アロエが、町のゲートの方を見張るらしい。
「そしてアンタ達!チェレンとベルは博物館に残ってちょうだい!」
突然、指示され、2人は困惑気味だが、頷いた。
そういえば、なんでこうなってるかもまだ説明してないもんね…。
後でちゃんと話すから!
「で、アーティとトウコはヤグルマの森を探しておくれよ。 いい?アーティ、アンタが案内してやんな。じゃ、たのんだよ!」
そうテキパキと早口に指示を残して、アロエは町の入り口ゲートへと、大急ぎで走っていった。
すごい…。
って、私が森の捜索!?
トウコが呆然としていると、アーティが肩をたたいてきた。
「さてさて……。君……トウコさんだっけ?」
「…はい」
「じゃあ行こうか、泥棒退治とやらにさ」
そう言って、アーティまでヤグルマの森へ駆けていく。
みんな行動が早い!
早い! 早いよ、アーティさん!
急がなきゃだけれど、準備が何もできてないよ!
さっきジム戦が終わって、みんなボロボロだし…、でもポケモンセンターに行く時間もない。
そんなことしてたら、逃げられちゃう!
でも、このまま行っても戦力として足を引っぱっちゃう気が……。
なんとかしなきゃ!
道具を使って…え~と、えっと……。
大急ぎで頭をフル回転させて、今、持っている道具を思い出した。
持ち物を考えながら、トウコが走り出そうとしたとき、ベルにぐいっと鞄を引っぱられた。
「ちょっとベル!」
急いでるのに…。
「トウコ、慌てないで!コレを持っていってよ」
そう言って、ベルは、鞄から取り出したいいキズぐすりを3つ渡してくれた。
「いいの?」
ポケモンセンターに行けないだけに、助け船だ。
「うん、だってなんか大変そうだし!」
にっこりと笑うベル。
「あとね、これも!マコモさんから預かってたの。渡し忘れちゃったんだって、ダウンジングマシンだよ!これを使うと、目には見えない隠れた道具がわかるんだって!」
トウコは、ダウジングマシンも受け取った。
マイペースなベル。
でも、そのおかげで落ち着きを取り戻せた。
そうだ。焦ってちゃ、だめだよね。
「ありがとう、ベル!」
優しいベル。いっつもその優しさに助けられちゃう。
ほんと、ベルが友達で良かった。
「とりあえず、僕たちは博物館を守ればいいんだね?」
チェレンが言った。
冷静沈着。状況の把握もはやい。そこがいつも頼りになるんだ。
こんなとき、すぐ動いてくれるのはチェレンだよね。
「早く行ってきなよ、トウコ。なんだかわからないけれど、大変なんだろ?」
そう言って、チェレンはいそいそと博物館の中に入っていく。
「あっ あたしも!」
ベルも急いで博物館の中へ入っていった。
2人ともすごく心強い。
ありがとう、ベル、チェレン。
ほんとに大好き!
私も頑張らなくちゃ!
「まかせて!絶対、取り返すから!」
トウコは、帽子をきゅっとかぶり直すと、アーティが向かったヤグルマの森へと走った。
夕暮れ時の森はもう薄暗くなっていた。
アーティは、その森の入り口でトウコを待っていた。
「この先が、ヤグルマの森だよ。確かに、ここに逃げられるとやっかいかもね」
そう言って歩いていく。
トウコも後に続いた。
確かに、やっかいだ。
だだでさえ、薄暗い森が日が沈むほど、見えづらくなる。
ましてや、迷いの森ともいわれるヤグルマの森。
格好の隠れ家な気がする。
プラズマ団。絶対に見つけてやる!
ヤグルマの森にはいると、意外にも、舗装された道路を真っ直ぐ歩くことになった。
歩きながら、アーティがトウコに話す。
「あのね、ヤグルマの森を抜けるには2通りあるんだ」
「2通りですか?」
「そうさ、まっすぐ行く道と、森を抜ける道。どちらもヒウンシティに向かってる」
プラズマ団は、どっちへ向かったのだろう。
アーティは話を続ける。
「ボクはこのまま、まっすぐ進んであいつらを追いかけようと思う。いなかったとしても、逃げられないよう出口を塞ぐつもりさ。ヒウンシティまで行かれたとしても、僕なら、あいつらを逃がさないよう、包囲網をつくることもできるからね」
確かに、ヒウンジムのジムリーダー、アーティさんなら、この辺りの土地勘もあるし、人脈だってある。
この先のルートを、探すなら一番の適任者だ。
「じゃあ、私が森のルートですね」
「お願いするよ。君はこっちのルートに、プラズマ団が隠れていないか探してくれ。トレーナーも多いけれど、基本一本道だから、迷うことはないよ、きっと」
そう言って、アーティは道の途中で立ち止まった。
舗装された道路から、それた道がある。
薄暗い森の中、大きな木々の間に、道ができている。
誰かが切り開いてできた道のようだけれど、特に整えられている様子もない。
わずかに夕日がさしこむ下には、生い茂った草むらがみえた。
ここが、森を抜ける、もう一つの道。
「わかりました」
トウコは頷いた。
「それじゃあ、アロエねえさんのため、やりますか!」
そっちは、頼んだよとアーティは、道路を真っ直ぐ駆けていった。
トウコも、森の道へと足を踏み入れた。
木の陰が覆っていく。
どんどん薄暗くなる。
夕日が射し込んでいる内に、なんとか見つけたい。
トウコは、ベルからもらった、いいキズぐすりをタッくん達に使うと、森の中を進み始めた。
草むらをガサガサと進む。
普通の草むらよりも、茂みが濃い。
よく人が歩いている草むらと、そうでない草むらの色がはっきり違う。
道は、アーティの説明通り、木の茂みに入りでもしない限り真っ直ぐだった。
急いで逃げるなら、道なりに進むはず。
ただ、隠れようとしているなら、茂みに隠れるのかも知れない。
途中、いきなり木から落ちてくる虫ポケモンたちに、驚かせられながら、トウコは草むらと木の茂みに注意しながら突き進んだ。
少し、じめじめした湿っぽい道が続く。
土の香り。
ぽきぽきと、小枝の折れる音が時々響く。
いつの間にか、すっかり森の中だ。
先程まで、街中にいたのをすっかり忘れてしまう。
辺りは妙な静寂に包まれているかと思えば、突然マメパトが鳴いたり、虫ポケモンが飛び出してきたり、草むらになりすました、チュリネやモンメンが驚いて逃げて行ったり。
トレーナーが話しかけてくることもあったが、丁寧にポケモンバトルを断った。
周囲が同じような木ばかりだからか、方向感覚が麻痺してきている。
切り開かれた、道なりに進まなかったら、戻れなくなりそうだ。
迷いの森と言われるだけはある。
「ちょっと、君!」
突然、声を掛けられてビクリとする。
振り返ると、赤い服に身を包んだレンジャーの男性が、がさがさと木々の合間の草むらから出てくるところだった。
森林の保護や警備を専門とする人だ。
木の茂みから出てきた?!
よくも迷わずに。
トウコが感心しながら男性をみた。
「君、トレーナーだね。もう日が暮れる!最近、そうやって森で遭難する人が多いんだ。早く出た方がいい」
作品名:黒と白の狭間でみつけたもの (10) 作家名:アズール湊