黒と白の狭間でみつけたもの (10)
レンジャーの男性は、真剣な表情でトウコを注意した。
もっともな意見。
でも、できない。
「ごめんなさい。私、ジムリーダーから頼まれているの。シッポウシティ博物館の、ドラゴンの骨が盗まれて、プラズマ団を捜しているんです」
「プラズマ団? 最近、演説をやってる連中じゃないか」
「この辺りで、見ていないですか?」
レンジャーの男性は黙って、考え込んだ。
「……そういえば、そこの道を進んだ先で、人影が見えたっけ。注意する前に逃げられちゃったけれどね。プラズマ団かどうかはわからないな…」
「本当ですか!?」
もしかしたら、この道の先にいるのかもしれない。
行ってみないと…。
トウコがお礼を言って、歩き始めようとすると、レンジャーの男性が呼び止めた。
「待った。話は聞いていただろ?最近、遭難が多いって」
「でも私…」
「君、森に入るために何か持ってきた?準備はした?」
「……してないですけど…」
する暇もなかった。
レンジャーの男性は、これ以上進ませないつもりなんじゃないかと、トウコは不安になった。
「じゃあ、仕方ない。事情が、事情みたいだし、僕のお古だけれど、持っていきな!」
渡されたのは、使い古した折りたたみのナイフと、懐中電灯、おいしい水1本。
「いいんですか?」
「予備があるからかまわないよ。無理はしないようにね。もし、遭難することがあったら、朝まで動かずその場所にいてくれ。僕の仲間が、毎日パトロールしているからね。動かないでいてくれた方が、早く見つけられる」
「ありがとうございます」
「ただし、次に森に入るときには、しっかり準備をしておくように!」
レンジャーに念を押され、トウコは大きく頷いた。
もらった物を鞄にしまい、お礼を言うと、レンジャーの男性と別れて、先へ進む。
濃い草むらの茂みを抜けて、その先へ。
左側へ続く道へ足を踏み入れようとした時だった。
がさりと、前の方で物音がした。
とっさに、木の茂みに身を隠した。
声が聞こえた。
「なんてしつこい連中だ。ヒウンシティまでの橋は封鎖されちまうし、カラクサタウンまでのゲートもダメだって連絡があった」
「どうすればいいのよ!」
「どうにも、こうにも、これを届けないと我々の計画が!」
話しているのは、銀色のコスチュームの4人。
プラズマ団だ。
見つけた!
盗まれた骨を抱えている男もいる。
トウコは、木の茂みから飛び出した!
「見つけたわ!盗んだホネを返しなさい!」
勢いよく飛び出したトウコに驚いて、4人は慌てふためいていた。
「なに!?追っ手!」
「なんなのよ!早すぎるわ!」
プラズマ団が走り出す。
逃げ足だけは速い!
「待ちなさい!」
追いかけるトウコに、プラズマ団の1人が立ち止まった。
あとの3人が逃げていく!
「しつこい子供め! 追いかけられないよう、ここで痛みつけてやる!」
プラズマ団の男がボールを放り出した。
メグロコが唸りながら飛び出してきた!
勝負で足止めする気だ。
「タッくん、おねがい!」
ジャノビーに進化した、タッくんが飛び出した!
「ジャノー!」
メグロコが、いかくをはなってきたが、タッくんは負けじとにらみ返している。
すばやいタッくんが、先制を取った!
「グラスミキサー!」
緑のつむじ風。
植物の多い、森の力を借りてか、大きくなっている。
メグロコの体を刻む!
「グロロゥッ!」
はじき出されるように、地面に叩きつけられたメグロコが倒れた。
「なんだよ!子供のくせに!!しゃらくさいんだよ!!!」
負けて吠えるプラズマ団の男。
一撃できめたものの、タッくんは息が上がっていた。
キズを薬で治しただけ。体力はそこまでもどっていないんだ。
「ありがとう、タッくん」
無理させられない。
急いでボールに戻した。
「残念! 俺は何も持っていない。とりかえすつもりなら、仲間を捜すことだな!」
プラズマ団の男は、トウコにそう言い放った。
「言われなくたって、そうするわ!」
イライラしながら、他の団員が逃げていった森の奥へと走る!
姿は見えない。
でも、そこまで遠くには行けていないはずだ。
辺りはすっかり暗くなってきた。
まだわずかに空が明るいのと、目が暗さに慣れたせいで、懐中電灯をつけるまではない。
でも、それも時間の問題。
静けさの増した草むらを、かき分けて進むと、森の道にしては珍しく視界の良い、すっきりとした道にたどり着いた。
そこで待っていたのは、女のプラズマ団員。
ボール片手に、息を切らしたトウコに言う。
「あら? 何かお探しかしら?」
白々しい。
「盗んだホネはどこ?」
「さぁね、あたしを倒したら、教えてあげてもいいかもね」
プラズマ団の女は、チョロネコをくりだしてきた!
「チョロチョロロ~!」
トウコもボールを投げる!
タッくんは休ませたい。次は…。
「テリム!おねがい!」
「デリリィー!」
ハーデリアに進化したテリム。
チョロネコをいかくした!
怖じ気づきながらも、チョロネコはみだれひっかきで攻撃してきた!
持ち前の技術で、器用によけるテリム。
しかし、だんだん動きが鈍くなり、4回目のひっかき攻撃を背中に受けてしまった!
テリムもやっぱり本調子じゃない。
早く決めないと!
「テリム!いわくだき!」
「デリリ!」
チョロネコの攻撃をすり抜けて、テリムが頭で思い切りつっこむ!
お腹に衝撃を受けたチョロネコが、悶えながら後退する。
「チョロネコ!おいうち!」
「テリム!たいあたり!」
2匹が同時に走り出す!
ほぼ同時に攻撃がぶつかり合った!
地面に降りたって、倒れたのはチョロネコだった。
「ちょ、ちょっと!立ちなさいよ!」
ボールに戻るチョロネコに向かって、プラズマ団の女が喚いた。
「デリ~…」
ふうと、息をつくテリム。
明らかに疲れている。
「ありがと、テリム。休んでてね」
ボールに戻すと、トウコは、プラズマ団員に迫った。
「ほら、教えなさいよ!盗んだものはどこ!」
「そんなに、怒らなくてもいいじゃない…。ゴメンね、あたし手ぶらなのよね。だってほら…女の子は重い物を持たないでしょ?」
とぼけるプラズマ団員にトウコはイラッとした。
誤魔化そうたってそうはいかないわ!
「どっちに行ったの!?」
じりじりと迫るトウコに、プラズマ団の女はたじたじだった。
「ああ…、もう来ないでってば!あっちよ、あっち!! なので、他をあたってね!」
そう言って、この先につながる道を指さした。
自然にできた森の段差との間に、古びた巨木が倒れて橋のようにかかっていた。
中をなんとか人が通れるくらいの、大きな空洞が空いた木。
その奥に、林が続いている。
あそこを登っていくの? でも、他に道もなさそう。
トウコは、プラズマ団の女を置いて、先へと走った!
大きな木の空洞を抜けて、さらに森の奥へとたどり着いた。
ぬかるんだ地面に、まだ新しそうな足跡が付いている。
作品名:黒と白の狭間でみつけたもの (10) 作家名:アズール湊