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アズール湊
アズール湊
novelistID. 39418
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黒と白の狭間でみつけたもの (10)

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見えづらくなってきた周囲に、目を凝らしながら歩く。

草むらの間に、途中、途中、見つけられる足跡。

走ったのか、力強く踏み込んだあとが残っている。

足跡を追いかけると、ようやく道らしい場所に出た。

草むらに四方を囲まれた高台。

そこに向かって、巨大な古木が橋のようにかけられている。

空洞のあいた、古木の中を懐中電灯で照らすと、まだ濡れた泥の付いた足跡が残っていた。

きっとここを通ってる。

中に入り、トウコも急いでよじ登ると、空洞を抜けた出口で、待ちかまえている人影があった。

高台の上で待っていたのは、プラズマ団の男だった。

「ここまで来たか!ほめてやるぜ。だがな、仲間が逃げられるよう、ここで足止めしてやるよ!」

ミネズミをくりだしてきた。

また勝負…。

先を行っているプラズマ団を考えると焦ってきていた。

「ヒヤリン!おねがい!」

「ヒヤー!」

「ヒヤリン、いわくだき!」

ノーマルタイプのミネズミに、すぐ勝負をつけるつもりだった。

しかし、ヒヤリンの攻撃は防がれた。

けらけらと笑うミネズミ。

「みきりだ。知らないのか?」

得意げに言うプラズマ団。

トウコは息を吸いなおした。

焦っちゃダメだ。

「ミネズミ、かみつけ!」

「ヒヤリン、避けてみずでっぽう!」

「ヒヤヤー!」

先走ったミネズミの攻撃を上手く避け、ヒヤリンが相手の後ろを取った。

力を込めたみずでっぽうが当たる!

ミネズミは、そのままプラズマ団の男につっこんだ!

ミネズミは目を回し、男は尻もちをつく。

「何て奴だ!我らとお前とではルールが違うのだ。あのホネはすでに我々の物。なぜそこまでして奪い返そうとする?」

本当に勝手なことをいう。

「何が、ルールが違うよ! 人の物を盗んでいいはずがないでしょ!」

眠そうなヒヤリンをボールに戻し、トウコは言った。

「盗んだ物はどこ?」

「さぁな」

「まだ、とぼける気なの!?」

苛立つトウコに、団員は笑い始めた。

「おれは時間稼ぎのためだけにここにいたのだ。おまえとの勝負で、仲間を逃がせられた。早く追いかけないと、俺達の仲間、逃げちまうぜ!」

嘲笑うプラズマ団。

こんな奴らに翻弄されているかと思うと、腹が立つ。

プラズマ団の男の先には、高台をつなぐもう一つ橋となった古木がかかっていた。

向こう岸の高台とを真っ直ぐ結んでいて、空に浮かんだ倒木が不思議な感じだ。

この男も持っていないのならば、この先の男が盗んだ骨を持っているはずだ。

早く行かなくちゃ!

すっかり辺りも暗い。

トウコは、笑う男を無視して歩み出した。

そして、もう一つの巨木の空洞に入ろうとした瞬間、背中に衝撃を感じた!

「おっと、悪いがそっちには行かせられないな!!」

男の声が響く!

トウコの体は、傾いて、道から逸れた足場のない場所に浮かんでいた。

「!?」

押された!?

声を出す間もなく、地面が迫った!

とっさに頭を抱え込んだ。

衝撃と共にザザッと滑り出す音が聞こえた。

高台の木々に体を打ち付けながら転がり、気づくとトウコは草むらの中に寝そべっていた。

渡ろうとしていた大きな木の橋が、暗い影になって空に見えた。

あんなところから落ちたんだ。

なんてことしてくれたんだろう。

まさか、突き落とすなんて…。

「もう…信じられない…」

体中が痛い…。

ゆっくりと上体を起こして、座り込む。

木や、草がクッションとなったのか、ぬかるんでいた土がよかったのか、そこら中にすりきずはあるけれど、骨は折れていないみたいだ。

他に怪我もなさそう。

鞄も無事。

タッくん達のボールも無事。

泥だらけなのは最悪だけれど、あそこから落ちた以外、無くしたものはなくてほっとした。

「絶対許さないんだから!」

ここは、さっき来た、高台へ続く道の途中みたいだ。草むらを回り込んでいけば、またあの高台の場所にたどり着けるはずだ。

これ以上、逃げられるのはゴメンだわ。追いかけなくちゃ!

トウコが立ち上がろうとした瞬間、激痛が走った!

「いった…!」

立ち上がれずに座り込む。

左足がおかしい。落ちたときに捻ったのかも知れない。

何度か、立ち上がろうとするが、足に力が入らなかった。

「どうしよう……」

くやしさで、目に涙がじわりと浮かんだ。

ガサリ…、ガサリ…。

カサ、…ガサガサ…。

何かが、草むらをかき分ける音がした。

虫ポケモンだろうか。

森には、どくのあるポケモンもいる。

縄張り意識の強い野生ポケモンは、人を襲うこともある。

緊張が走った。

トウコは息をひそめ、懐中電灯を片手に、ボールに手を伸ばしながら、音の正体を待った。

がさり…、がさり…。

…ガサガサ。

草をかき分けて出てきたのは、青い2つの眼光。

近づいてくるその目に襲われるかとギクリとしたが、すぐに見慣れた姿だとわかった。

真っ黒な小さな体に、赤い手足と毛先。

「ゾロア…」

トウコが声をかけると、ビクリと身体を震わせた。

臆病なゾロア。Nと一緒にいたあの時のゾロアだ。

トウコを目の前にして、戸惑っているようだった。

近くにNの姿は見えない。

でも、ゾロアがいるってことは、近くにいるはずだ。

足がこうなった以上、プラズマ団を追いかけるのは1人じゃ難しい。

Nなら助けてくれるかもしれない!

「ゾロア、お願いがあるの! Nを呼んできてほしいの! 足を怪我して動けなくて…、図々しいかもしれないけれど…助けて欲しい」

必死で呼びかけるトウコ。

ゾロアは逃げはしないが、トウコと距離をあけて、座り込んでいる。

こちらの様子を伺っているようだった。

「お願い!ゾロア!」

「ガウゥ…」

ゾロアは小さく鳴いて、トウコをじっと見つめた。

もしかして、何か言ってる?

でも、私はNみたいにわからない。どうすればいいだろう。

トウコが黙りこんでいると、ゾロアは小さくため息をついた。

そして、ジャンプする。

ゾロアの姿が消えたと思った瞬間、トウコの頭上に衝撃が来た!

どうやらゾロアが頭に飛び乗ってきたらしい。

帽子がとれて、髪の毛がくしゃくしゃになる。

ちょっとやめてほしい…。

「ちょっと、ゾロア!?」

頭の上でもぞもぞするゾロアに戸惑うが、ふと何かが聞こえてくる感覚がした。

これは…何かを伝えようとしている?

トウコは目を閉じた。

『話せないとは面倒だ。こうすれば、おまえでもわかるんだろ? 1回だけだぞ、おまえの言うことを聞いてやるのは。物を頼むんだから、何か礼をくれ。この前の食べ物は美味しかった。あれがいい』

少し偉そうな、ゾロアの声が聞こえた。

私の声を聞いてくれた!

「ありがとう、ゾロア! 今は少ししかないけれど…」

鞄から取り出したポケモンフードを取り出すと、ゾロアは地面に降り立った。

袋ごと出したポケモンフードを、ゾロアは口でくわえると、草むらをかき分けて走っていく。

音は遠くなり、聞こえなくなる。

Nのところまで、たどり着いただろうか…。

辺りはほとんど暗闇で、何も見えない。