黒と白の狭間でみつけたもの (10)
それでも恐くないのは、Nと一緒だからだろう。
彼の鼓動を感じる。温かい体温も。
Nは何も話さない。ずっと黙っていた。
Nの表情は暗くて見えない。
安心感さえ感じるのに、なぜだろう、心がもやもやと気持ち悪かった。
不安を感じた。
近くにいるNが、手の届かない遠くへ行ってしまうような。
なんでそんなことを感じるのか、彼と離れてしまうのが恐いと思うのか、よくわからないけれど。
目指している先に進むのが、少し恐く感じた。
空洞を抜けた先、そこも暗くはあったけれど、古木の中と比べたら随分と明るかった。
それに、さきほどの森の中とは、景色が変わってきている。
草むらはあるが、わりと整えられた所が多い。
もしかしたら、森の出口が近いのかも知れないと思った。
Nは黙って進む。
トウコが顔を見上げても、ただまっすぐ前を見ているだけだ。
話しかけようと思ったのに、言葉を喉から出せなかった。
Nに抱えられたまま、まっすぐ進むと、整った草むらを抜けた先に、芝生が整った小さな壇上になっている場所が見えてきた。
その近くで立ち止まると、Nはトウコに言った。
「君のポケモンを出して」
「え?」
突然のことで、トウコは戸惑った。
「ボクは人を待たせている。ここまでしか行けない」
あとは、君のポケモンにつかまって、歩いていって欲しいとNは言った。
人を待たせてたの?
そんなこと、一言も言っていなかったのに…。
ほんとは迷惑だったのかな。もっと早く言ってくれれば良かったのに…。
トウコは、Nに言われるがままテリムをボールから出した。
たぶん、仲間の中では一番、今、背が高いと思う。
「デリデリィ!」
テリムはボールから出るなり、Nはトウコをゆっくりと下ろし、立てるようにしてくれた。
Nはテリムに言う。
「いいかい?君は、トウコの足を支えるように歩くんだ」
Nの言葉に、テリムは頷いて見せた。
タッタカと歩いて、トウコの左側に立った。
「トウコ、この子につかまりながら歩けば、歩きやすいはずなんだ。後は、1人でできるよね?」
Nの言うとおり、テリムにつかまってみると、思った以上に歩きやすかった。
テリムも左足を気づかってくれている。
ほとんど左足をのせてくれているようなものだった。
歩調もそろえてくれる。
「うん…これなら大丈夫そう。ごめんなさい。人を待たせているなんて、知らなかったわ」
はじめに、聞くべきだったのかもしれない。
Nを頼りにしすぎてしまった。
「いいんだ、すぐ近くにいるはずだから。足の怪我、早く誰かに見てもらうんだよ」
Nは笑顔でそう言った。
いつもと変わらない笑顔。
それでもなぜだろう。
「うん…色々、ありがとう」
トウコも笑ってみせる。
お礼を言いながら、不思議と胸がそわそわしていた。
なんだろう、今日のN、何かが違う。
「じゃあね、トウコ」
違和感の消えないまま、Nが離れていく。
なぜか、この先へ行くことなく、元きた道へ帰って行くNとゾロア。
暗い森。
あんな中で、人と待ち合わせ?
いつもと違う、わだかまりが胸の中にもやもやと残った。
「デリー?」
浮かない顔のトウコを、テリムが心配そうにのぞき見た。
「ありがとう、テリム。行こっか!」
「デリー!」
明るく頷くテリムに、トウコも笑顔でかえす。
そこから、まっすぐトウコはテリムに支えられて進んだ。
小さな壇上をのりこえた。
芝生が整っていて、小さな広場みたいになっていた。
その周りに木が生い茂っているから森らしさをのこしているが、この場所だけを見たら自然公園の一角みたい。
そこに、周りをきょろきょろと見渡しながらいたのは、プラズマ団員の男だった。
盗んだドラゴンの骨を持っている。
トウコの姿を見つけるなり、慌てふためいている。
逃げる様子もない。
もしかすると、アーティーさんやアロエさんが、道路を塞いだおかげで逃げられずに、行き場がなくなって、戸惑っていたのかも知れない。
博物館で見かけた、他の団員を統括していた団員。
今回の事件のリーダーと思われる男だ。
「あなたね、盗んだホネをもっていたのは!」
「追っ手だと? まさか仲間が倒されたのか、こんな子供に!?」
突然、現れたトウコに、男は動揺していた。
トウコに他の団員が倒されたことが納得できないようだった。
ボールをつかんで睨み付けてくる。
「仕方ない、オレが相手だ!」
男はミネズミをくりだしてきた。
やっぱり、こうなるか……。
トウコはボールを握りしめた。
体半分、テリムに預けているせいか、いつもより、どうしても動作が遅くなった。
「お願い!タッくん!」
「ジャノノ!」
飛び出したタッくんは、それでもトウコの遅さをカバーするくらい、素早く移動した。
ミネズミの動きを見て、せいちょうを始めている。
トウコの怪我を気遣ってか、自分で判断しているようだった。
ここはタッくんの様子をみよう。
トウコは見守りながら、指示を出すことにした。
ミネズミは、みきりで技を封じようとしていただけに、空振りする。
「タッくん、グラスミキサー!」
タッくんは、大きな緑のつむじ風を起こした。
「ズミミ!」
はじき出されて、ミネズミは倒れた。
「くそ!このままですむと思うなよ!」
プラズマ団の男は、急いで2匹目を繰り出す。
次に現れたのは、メグロコだった。いかくをしてきたメグロコに、タッくんがにらみつける!
すかさず、素早い動きでつるのムチをはなつと、メグロコは目を回して倒れてしまった。
タッくんは、息が切れている。
「タッくん、無理はしないで!」
ボールを示すと、タッくんは首を横に振った。
戻る気はないみたい。
タッくんのいじっぱり!
仕方なく見守る。
「くっそー!これでどうだ!」
男が3匹目のポケモンを出す!
ミネズミが登場した!
タッくんは、そのまま決着をつけようとつっこんでいく!
疲れてるせいか、バトルを早く終わらせようと焦ってる。
そんな行動は、相手の思うつぼだ。
「それじゃだめ!タッくん!せいちょうよ!」
トウコの声に、タッくんは一瞬戸惑ったが、なんとかスピードを殺し止まった。
いつもより遅れてタッくんがせいちょうを始めた。
技を防ごうとした、ミネズミは、またまた技が失敗して、プラズマ団の男が慌てている。
「か、かみつけ!ミネズミ!」
「タッくん、グラスミキサーよ!」
大きな緑のつむじ風!
飛び込んできたミネズミをまきこみ、宙へと放り出す!
目を回してミネズミは倒れた。
「プラーズマー!これではポケモン達を救えない!」
男が嘆いた。
戦闘が終わって、ぐったりしているタッくんを、トウコは急いでボールに戻した。
もう戦闘は無理だ。
「もう、無茶して!」
タッくんは、ボールの中でもぐったりと寝そべっている。
トウコはため息をついた。
でも、タッくんのおかげで助かった。
犯人は追いつめられた。
「早く、盗んだ物を返してください!」
作品名:黒と白の狭間でみつけたもの (10) 作家名:アズール湊