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アズール湊
アズール湊
novelistID. 39418
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黒と白の狭間でみつけたもの (10)

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トウコが口調を強めて迫ると、男はくやしがりながらも、素直に盗んだドラゴンの骨を渡してきた。

「……わかった。盗んだ骨は返す!」

ドラゴンの頭の骨。

男から受け取ったそれは、トウコが腕で抱え込むほど大きいかったし、何より重さがあった。

う…重い!

トウコは取り返した骨をゆっくりと、地面に置いた。

テリムががっしりと、両腕でホネをおさえる。

取られないように見張ってるみたいだ。

「これで我らの……そして王さまの望みが叶わなくなるのか……」

プラズマ団の男が、落胆しながら、その場で膝を折った。

王様?

プラズマ団の…王様? そんな人がいるの?

プラズマ団のボスは、すっかりカラクサタウンでみかけたゲーチスではないかと思っていたから、その言葉は衝撃だった。

あの男以外に、ボスがいる!?

男の言葉にトウコが驚いているときだった、突然声が響いた。

「大丈夫ですか。王様に忠誠を誓った仲間よ」

そう言いながら、暗い脇道から現れたのは、派手なローブに身を包んだ年老いた男だった。

似たような姿なら、見たことがある。

カラクサタウンでみかけたゲーチスと、似た雰囲気をしていた。

「シチケンジン 様! せっかく手に入れた骨を、みすみす奪われるとは無念です」

プラズマ団の男が、ローブの老人をみるなり、嘆き悲しみながら訴えた。

シチケンジン?

まるでこっちが悪者みたいだ。

「いいのです。ドラゴンの骨ですが今回は諦めましょう。調査の結果、我々プラズマ団が探し求めている伝説のポケモンとは無関係でしたからね」

伝説のポケモン?

ふと、Nの言葉を思い出した。

『伝説のポケモン、ゼクロム』

まさかね…。

ただ、少し嫌な感じがした。

シチケンジンと言われる老人は、プラズマ団員をなだめるなり、トウコの方をみた。

なんて冷たい目。人を蔑むひとが、する目をしていた。

「ドラゴンの骨はもう良いのです。…ですが、我々への妨害は見逃せません。二度と邪魔できないよう、痛い目にあってもらいましょう」

ボールを手に、ローブを着た老人が迫った。

気迫がすごい。

ボールの中のみんなは、もう限界。

テリムだって…。

第一、この怪我じゃ、テリムに側を離れられたら身動きが取れない。

これ以上、みんなに無理もさせられない!

戦えるポケモンがいない?!

私が逃げることも!?

どうすれば! 迫られるトウコは焦った。

その時、側に駆けてくる音が聞こえた。

「トウコさん!」

アーティさんだ。

やっぱり、ここは舗装された外の道路から近かったようだ。

助かった…。

アーティが駆けてきてくれて、トウコは心の中でほっとため息をついていた。

ひどい怪我だね、大丈夫かい?、とアーティは声を掛けた。

トウコは黙って頷いた。

「ああ、よかった!虫ポケモンが騒ぐからきたら、なんだか偉そうな人がいるし。さっきボクが倒しちゃった仲間を助けにきたの?」

アーティがそう言ってモンスターボールを見せつけると、シチケンジンの男もボールを構えた。

戦闘が始まる!

そう思ったとき、アロエの声までしてきた。

後ろから急いで駆けてくる。

どうやらトウコの後で、アロエさんは遅れて森のルートを通ってきたらしい。

「トウコ! アーティ!他の連中はなんにも持ってなくてさ」

ローブの男と、プラズマ団。

そこに向かいあうトウコとアーティ。

状況をみるなり、アロエも、アーティとトウコの隣に、ボールを構えて立った。

「……で、なんだい。こいつが親玉かい?」

3人がプラズマ団に向かい合う。

2人のジムリーダーに囲まれて、シチケンジンという、プラズマ団の男も困ったようだった。

気迫負けしたのか、構えていたボールを突然、しまい込んだ。

「私はアスラ。プラズマ団、七賢人の一人です。同じ七賢人のゲーチスは、言葉を使いポケモンを解き放せる。残りの七賢人は、仲間に命令して実力でポケモンを奪い取らせる!だが、これは、ちと、分が悪いですな」

自らを七賢人だと名乗る、アスラが言った。

言葉を使い、暴力を使い、ポケモン達を…!?

解放するなんて、良さそうな言葉を使って、やっていることはただの暴力。

紛れもない悪者だ。

プラズマ団という団体が、ただの暴力組織だと、はっきりわかった瞬間だった。

ひどい…こんな勝手な言い分があるの?

「七賢人? 随分、たいそうな名前じゃないか!賢人様が盗みなんかしていいのかい?!」

アロエが言った。

「虫ポケモン使いのアーティに、ノーマルポケモン使いのアロエ。敵を知り、己を知れば、百戦にして危うからず……。ここは、素直に引きましょう」

七賢人のアスラが気にする様子もなく、静かに言った。

そして、トウコを冷たく見て、アロエとアーティをも蔑むような目で見つめた。

「ですが、我々はポケモンを解放するため、トレーナーからポケモンを奪う!ジムリーダーといえど、これ以上の妨害は許しませんよ。いずれ決着をつけるでしょう。では、その時をお楽しみに……」

そう言い残すと、七賢人と側にいたプラズマ団の男の姿は、たちまち暗闇に消えるようにして、見えなくなってしまった。

消えた?!

一瞬で逃げられた。煙幕もない。

もしかしたら、近くにまだ仲間が潜んでいて、ポケモンの技でも使ったのかもしれない。

「素早い連中だね。どうするアーティ、追いかけるかい?」

アロエが言った。

「いやぁ……。盗まれた骨は取り返したし、あんまり追いつめると、何をしでかすかわかんないです」

「それもそうだね…」

黙り込むアロエに、アーティは言った。

「じゃあ、アロエねえさん、ボクは戻りますから……。ジムを開けっぱなしで来ちゃったんで、何も連絡していないから、きっとみんな待ってると思うしね」

「そうかい。色々ありがとよ、アーティ」

「どういたしまして!」

アロエとの挨拶が終わると、アーティはトウコに向かい合った。

「それじゃあさ、ヒウンシティのポケモンジムで、君の挑戦を待っているよ。その怪我、早く直しておいでよ!」

「はい、もちろん。伺わせていただきます!」

トウコの返事に、アーティは嬉しそうだった。

「うん! 楽しみ、楽しみ!」

トウコとアロエさんにさっそうと手を振って、アーティさんは元気にヒウンシティの方へ駆けて行ってしまった。

ずっと動いていたはずなのに、あれだけ体力が余ってるみたい。

すごいなぁと感心しながら、背中を見送ったが、走るアーティの姿はすぐに見えなくなった。

あ…もう、見えないや。

呆然としているトウコに、アロエが声をかける。

「トウコ! アンタの持っているそれが、必死になって取り返してくれたドラゴンのホネなんだね」

テリムが抱えている骨をみて、アロエさんに笑顔が戻った。

「はい、なんとか取り返せました」

アロエの嬉しそうな笑顔を見て、トウコは安堵した。

大事な物、戻ってきてほんとに良かった。

「アンタもありがとね!」

そう言って、アロエさんはテリムをなでると、テリムが抱えていたドラゴンの頭の骨を軽々と持ち上げた。