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こらぼでほすと ニート16

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「そう言われても、怪我してるのは、気になるよ。こういう性分なんだ。」
「でも、僕は、ママの子供じゃないし、ただの知り合いだ。」
「知り合いだけど、ティエリアのお兄さんってことは、かなり近しい知り合いだし、一緒に生活している人間だからな。うちは、誰も怪我なんてしないから、久しぶりに怪我人を見たから・・・・心配するんだ。」
 現役マイスターの時は、小さな怪我は日常茶飯事だったので、自ら応急処置したりドクターのところへ運んだりしていた。『吉祥富貴』に居着いてから、ほとんど、そういうことがなかったので、すっかり忘れていた。たまにラクスが熱を出したりはするが、それだって大したものではない。こんなふうに血が流れるのを見ると、ついつい刹那たちが、そうだった時が思い出されて怖くなる。再始動の後で、マイスターたちは、しばらく医療ポッドで治療されていた。その時は、それほど気にならなかったのだが、生々しい怪我を目にしてまうと、刹那たちはどうだったんだろうと考えてしまう。些細な怪我で、こんなに動転してしまったのも、それが原因だ。
「僕はイノベイドだから、素体が壊れても新しくできる。だから、この怪我を見たくないっていうなら、取り替えてくる。大した痛みじゃないんだよ? ママ。リボンズに殺された時に比べたら楽勝だ。」
 リジェネには可能なことだ。そんなふうに顔を歪められるのは、リジェネにとってもイヤだ。それぐらいなら、取り替えてくるほうがいい。そう言ったら、もっとママの顔は歪んだ。そして、顔色も悪くなる。
「おい、ママニャン? 」
 ハイネが慌てて、ふらついたニールの身体を支える。
「・・・そんなふうに身体を粗末にしないでくれ、リジェネ。その身体の取替えがきくのは、ティエリアからも聞いてる。でもな・・・・何もなかったことにできるわけじゃない。リジェネが体験した痛みは、そのまま記憶されるんだろ? ティエリアは再生できないほどに身体を壊して新しくしたって言ってた。でも、それってことはさ、死ぬほどの痛みも感じたってことだ。そんな、何度も何度も死ぬ痛みを感じるなんて・・・そんな酷いことを何度も体験するなんて・・・やめてくれ。怪我ぐらいなら治る。俺が痛くないように世話をするから・・・取り替えるなんて言わないで欲しい。」
 人間には一度しか体験できないことだ。だから、痛みはあっても一瞬のことだ。それを何度も何度も体験して、また死ぬほどの痛みを感じるなんて、イノベイドというのは、なんて辛いことをさせられるのだろう。ティエリアも、痛みには強くなった、と、言ったが、ニールには、それこそが堪らないことだ。そんなことを何度も体験させられるなんて、人間なら狂うかもしれない。階段から落ちた些細な怪我でも痛いのは痛いのだ。死ぬ痛みよりマシなんて言われるほうが辛い。外見的に何もなかった素体に取り替えても、ニールの記憶にも、リジェネの記憶にも怪我したことは残るのだから。
「ママ? 僕は・・・大丈夫。」
「でも、痛いだろ? 今は鎮痛剤で痛くないかもしれないけど、痛いものなんだ。それと死ぬ痛みを比べて、大したことはないなんて言うな。」
「・・うん・・・」
「そんなものは慣れちゃいけないものだ。怪我はしないほうがいいし、死ぬのも一度でいい。」
「・・うん・・・」
「怪我をしたら痛いのだと理解してくれ。そうすれば、身体も大事にできるはずだ。そのために怪我は治したほうがいい。」
「・・うん・・・でも、ママが辛そうなのは、僕、イヤなんだ。」
「ごめん、ちょっと、刹那たちのことを思い出してた。あいつらも怪我したからさ。」
「刹那たちも大したことはなかったよ? 全然、平気。」
「うん、そうなんだけど・・・怖くなった。もしかしたら、あいつらも死んでたかもしれないから。」
 人間は死ぬ。イノベイドのように素体の取替えはできない。マイスターたちの怪我は深刻なものではなかったが、少し状況が変わっていたら、死んでいたかもしれない。それを、リジェネの怪我で想像してしまった、と、ニールは苦笑している。
「ごめん・・なさい。僕、ママを悲しませてる。」
「いいや、俺が勝手に暴走してんだ。なんでもないんだ。あいつらは生きててくれた。」
「うん、みんな、元気で働いてるよ? 」
「そうだよな。ごめんごめん、リジェネ。」
 ニールは精神的に脆くなっているのだと、ハイネが説明してくれたが、こういうところが、そうらしい。大丈夫、と、リジェネがニールの胸の辺りを擦ってみる。きっと、心が痛いのだろうから、擦れば楽になるのかもしれない、と、思った。すると、ニールがガバリとリジェネを抱き締めた。
「うん、大丈夫だ。ありがとさん、リジェネ。」
「もう、絶対に怪我なんかしない。」
「そうしてくれると有り難いな。俺も気をつけるから。」
「僕の怪我が治るまで、僕のお世話をよろしくね? ママ。その代わり、ママの看病は僕がする。」
「はいはい、たっぷり世話させてもらうぜ。」
 ぎゅっぎゅっとハグしあって笑い出したら、ニールの顔色もよくなった。よかった、と、安堵する気持ちがくすぐったい。こんなふうに思いあえる相手は、リジェネにはなかったからだ。怪我をすれば素体を変える。そんなふうに生きているリジェネにとって、身体なんてものは部品のような感覚だ。それを大切に考えてくれるニールに、かなり嬉しい気持ちになった。




「・・・ったく、万死に値するぞ、リジェネ・レジェッタ。」
 その夜、全員が寝静まってからヴェーダとリンクしたら、ティエリアが待っていた。それも、目が吊り上がっている怒り心頭状態だ。開口一番、定番の叱責だった。
「ニールの目の前で怪我をするなど・・・愚かにも程がある。あの人は、僕らの怪我に敏感だ。痛みを追体験してしまうんだ。だから、あの人にも痛い思いをさせてしまう。・・・・怪我は? 」
「打撲と左手の爪を三本剥がした。」
「大怪我じゃなくてよかった。」
「心配してくれるの? ティエリア。」
「当たり前だ。骨折でもしていたら、あの人は落ち込むじゃないかっっ。ただでさえ、情緒不安定になるんだ。きみがいれば、少しはマシだろうと許可したのに、意味が無くなる。」
 リジェネを心配しているわけじゃない。ニールを心配しているのだと、ティエリアは慇懃に答えるが、リジェネには、ティエリアが怪我の具合で安堵した気持ちも少し伝わった。相手から気持ちを向けられるなんて、なかったことだ。
「うん、ごめん。ママにも、すごく心配させてしまった。これからは気をつけるよ。ママは、僕の身体が傷つくのも見たくないんだって。それは嬉しかったよ。」
 だから、素直に謝れた。いつもなら、反論するところだが、ここはしなくていい。ティエリアも心配してくれているのだから、それには答えるべきだ。
「俺も、そう言われた。何度も死ぬ痛みは感じてはいけないと叱られた。・・・二度と、ニールには言わない。おまえもそうしろ。」