IS バニシング・トルーパー 006-007
「遠慮なんて、最初からする気ありませんわ!」
素手なろうと、容赦はしない。そう思って、レオナは照準をゼンガーに合わせて、素早く引き金を引いた。
「ふんっ……!」
スラスターを噴いて、ゼンガーは横へ移動して銃撃をかわした後、そのまま推力を最大にしてレオナへ突進した。
「なにっ!」
一瞬で、ゼンガーはレオナの至近距離までを詰めてきた。突然に自分の目の前まで迫ってきたグルンガスト参式の巨大な影に、レオナは反射的銃撃を止め、後ろへ引いた。
「これは……!!」
ゼンガー自身もグルンガスト参式の推力に驚いた。しかし、その一瞬の愕然で、ゼンガーは攻撃のチャンスを見逃した。
「しまった!」
フッと意識が戻ると、レオナは既に自分の間合いから抜けた。
「テストの時と段違いだ……グルンガスト参式が俺に馴染んだということか!!」
今日はゼンガーの初陣だが、ISの装着は既に先日で済ませていた。あのときは試しに練習したが、今日のようなスピードは出せなかった。
「なら!!」
身を転じて、再びレオナへ突進した。
しかし、二度目の接近を許すほど、レオナは甘くなかった。
「重装甲の上になんという突進力! ……しかし!!」
もの凄い勢いで突っ込んでくるゼンガーだが、レオナは慌てずにスラスターを噴かして、的確な動きでゼンガーの突進路線を避けて、ブレードレールガンを撃ち続ける。
「動きが直線すぎですわ!!」
「くっ! やはりこの機体、小回りは効かんか!」
銃弾が見えていても、突進中のグルンガスト参式はそれを避けるほどの器用さはなく、そのまま食らってしまう。グルンガストの防御力に銃撃のダメージは小さいが、それもいつまで耐えられるようなものではない。
「なら、まずはこれを!!」
二度目の接近を失敗したゼンガーは立ち止って、背中にある二つの巨大なドリルを手に取り、レオナに向けて掲げた。
「貫け!! ドリルブーストナックル!!」
ゼンガーの叫びと共に、回転を始めたドリルの後端が点火して、目に止まらぬ速度で一直線に飛んでいく。
「弾道が見えてますわよ!!」
同時に襲ってくる二つのドリルに向って、レオナは冷静な表情を崩さずに回避して、体勢を整えて再びブレードレールガンを構える。
「まだまだ!!」
ドリルは簡単に回避されたが、それはあくまで牽制。ドリルが撃ちだされた瞬間、ゼンガーは既にスラスターを噴かして接近しながら、別の武器を作動させた。
両腕を広げて、ゼンガーの胸部装甲のクリアブルーの部分のパーツが光りはじめた。
「オメガ・ブラスター!!」
一瞬、グルンガスト参式の胸部から、極太のビームが洪水のように迸り出し、レオナを飲み込むような勢いで襲う。
照準など要らない。この距離で、土砂降りのように降り注ぐビームの雨から逃れる場所などない。
「拡散式荷電粒子砲!?」
まさか胸部のパーツはそんな武装になっているとは思わず、レオナは内心で一瞬驚いた。しかしそれくらいのこと、彼女を動揺させるには足りなかった。
「なら!」
迫ってくるビーム砲に、レオナは最後の防御手段を使った。
「G-ウォール!!」
ヒュッケバインMK-IIから受け継いだ、重力の盾。ドイツ軍がヒュッケバインMK-IIのグラビコンシステムを解析して得た少ない技術の一つだった。
やがて荒々しいビームの流れが過ぎ去り、ゼンガーの目の前には、ほぼ無傷なレオナが立っていた。
「これも通用しない、か。流石だな、レオナ」
「いえ、かなり危なかったです。G-ウォールがなければ、負ける所でした」
砲撃を見事に凌げたレオナに、ゼンガーは話をかけた。自分の攻撃が悉く捌かれたが、ゼンガーの顔から焦りの一つも見えず、逆に口元がふっと少し上がって、楽しそうに見えた。
「ゼンガー少佐?」
滅多に笑わないゼンガーの笑みを見て、レオナは首を傾けた。
「斬艦刀に頼らず、どこまでやれるか試したかったが……結局、俺はいつも通りにやっていくしかないということか」
自分に言い聞かせるように呟いて、ゼンガーは右手を掲げて、光の粒子が集中させた。
「やはり、これを握っていないと調子が狂うな」
粒子が形成を終え、ゼンガーの手に現れたのは、一振りの日本刀だった。
「それは……!!」
それを見て、レオナの今まで崩さなかった冷静な表情が変わった。
「刮目せよ!」
両手で刀を構えたゼンガーの叫びと共に、刀の鍔の部分が展開して、刀柄の部分から液体金属が噴出され、その真の姿へ形成していく。
「あれは……!!」
観戦室に居るギリアムは思わずソファから立ち上がった。
「……ああ、あれはゼンガーが前々から軍の開発部に注文したもので、刀柄内部に仕込まれている液体金属によって刀身を変換できる優れものだ。本来ゼンガーは生身で使うつもりだったらしいがな」
まったく我が友ながらなんて非常識な、と言わんばかりな表情で、エルザムは説明を入れた。
「なんという大きさだ……」
まるで信じられないように、ギリアムが目の前の光景――ゼンガーの手が握っているあの、八メートルまで及ぶ巨大な剣を凝視する。
「ふん。この重さ、気に入った」
斬艦刀を構える両腕に力を篭めて、ゼンガーはレオナを真っ直ぐに見据える。
「そんなものをっ……!」
その巨大すぎた剣に脅威を感じて、レオナは武器を近中距離のブレードレールガンから遠距離用にバーストレールガンに切り替え、すぐに距離を取りながら銃撃を再開するが、グルンガスト参式は銃撃をそのまま受け止めて、一歩も動じない。
「奥義!!」
腰を少し落として、ゼンガーはスラスターを全開にして、
「斬艦刀! 疾風怒濤!!」
一瞬で爆発的に加速して、渾身の一撃を篭った必殺技の名を叫んだゼンガーは雷光となり、レオナに向って疾走した。
「イグニッション・ブースト!?」
視認できない速さで迫ってきたゼンガーがまさかそんなテクニックを使ってくるのとは思わず、レオナは格闘用のアサルトブレードを構えて、なんとか斬撃を受け止めようとする。
しかし、ゼンガーの前で、そんなものは無いに等しかった。
瞬きの間で、接近してきたゼンガーは斬艦刀を振り翳して、
「チェストォォォ!!」
レオナの動態視力を遥かに超えた早さで、その剣を振り下ろした。
本来なら決して接近戦をやる距離ではないが、そんな常識もゼンガーの剣の前では無意味だった。
「きゃああ!!」
たったの一撃で、ほぼ無傷のズィーガーのエネルギーシールドが一気でゼロになった。
「我に……断てぬものなし!」
レオナに背を向けて、ゼンガーは自分の勝利を確信して言い放った。
「そこまでだ。二人とも、着替えたら私の勤務室に来てくれ」
演習場のスピーカーから、エルザムの声が響いた。
二十分後、レオナ、ゼンガー、ギリアムそしてエルザムの四人は、エルザムの勤務室に集まった。
「ご苦労だったな、二人とも。感想はどうだ?」
ゼンガーとレオナの飲み物をテーブルに置いて、エルザムはソファに座っている二人に問いかけた。
作品名:IS バニシング・トルーパー 006-007 作家名:こもも