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IS  バニシングトルーパー 008

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 「確かに、クリスさんは親しみやすいし、女子での人気もあるから、他の子がこの部屋に遊びに来ることもあるのは知ってますが、でもそんなことって、そんなことって……!」
 「落ち着け! 誤解だ!」
 「これが落ち着いて居られますか! 信じてましたのに! それなのに!……あっ!」
 凄い勢いでクリスに迫るセシリアは、地面にある充電コードに足を引っ掛けてバランスが崩れて、抱き付くようにクリスにタックルした。
 「わあっ!」
 セシリアにぶつけられたクリスも倒れたが、幸い倒れた後ろにあるのはベッドだったので無事だった。
 「……大丈夫? セシリア」
 セシリアがクリスの体上に覆う形で、今の二人は体を密着してベッドに倒れている。自分の胸に顔を埋めているセシリアの頭に手を置いて、クリスは彼女の安否を聞いた。
 「……クリスさんは酷いです。無責任ですわ」
 いつもと違って、まるで子供が拗ねているような口調で、セシリアは顔をクリスの胸の埋めたまま、彼の服の胸元の部分を掴んでそう言った。
 「何を藪から棒に」
 「私に知れと仰っても、私が一番知りたいことは何も教えてくれません。挙句の果てに、他の子とそんな……」
 そこまで言って、セシリアは顔を上げてクリスの目を真っ直ぐに見た。そんな彼女の涙目から、クリスは寂しさを感じた気がした。
 「いや誤解だって。あれはこっちのシャワーを借りた織斑先生の忘れ物だ」
 「相手は織斑先生でしたの?そう言えば今日はクリスさんのこと、呼び捨てで呼びましたような……でも織斑先生が相手だと、私……」
 「いやいや違うから」
 手を振って、クリスがセシリアの早とちりを否定した。
 「自分の部屋のシャワーの調子が悪いから、こっちのシャワーを借りに来てただけだ」
 「本当……?」
 顎をクリスの胸元に乗せて、セシリアが上目遣いでクリスに聞いた。
 「本当だ。少しは俺を信用しろ」
 「でしたら、行動で信じさせてください」
 「行動?」
 「そう、行動ですわ」
 そう言って、セシリアは体を密着したまま、自分の顔をクリスの顔に合わせた位置に移動してきた。

 (こ、この感触は!)
 セシリアが密着状態で移動しているせいで、さっきまであまり意識しなかった二つの柔かい感触がクリスの腹部から胸板まで、しっかりと伝わってきた。
 そこに注目すると、見えたのはクリスの胸板に押し付けられて、ムニュリと形が変わっていたセシリアのボリューム感満点の胸だった。
 (やばい、これはやばすぎる!さすがにハードボイルド(?)な俺でもこのままでは……!)
 自分に警告しつつも、視線がそこから離れないクリスの頭の中では、既に理性が崩れ始めた。

 「クリスさん……」
 「はっ、はい!」
 視線を戻すと、セシリアの顔は既に目の前まで来ていた。

 長い睫毛、大きな瞳、薄い唇、そして小さくて可愛い鼻。
 至近距離で彼女の精巧な顔立ちを見て、クリスは改め可愛い女の子であることを。
 「私を、信じさせてください……」
 そう言って、切ない表情をしたセシリアはただ潤んだ瞳でクリスの目を見つめ、ゆっくりと顔を近づいてきた。
 「どどど、どういう意味だ……」
 「……」
 言葉を発するクリスの唇に、セシリアは目を瞑って自分の唇にを近づいた。相手の吐息を感じられる距離で、二人は互いの心臓が高鳴っていることが分かる。
 そして、二人の唇が触れ合おうとしたその瞬間に……

 「よっ! クリス! シャワーを借りに来たぜ!……って、うわっ!」
 「「あっ」」
 突然にドアを開けたのは、シャワーを借りに来た一年一組クラス代表様だった。
 「いやその……」
 鍵が開いているから、いつも通り勝手にドアを開けたが、まさか部屋の中にクラスメイト二人がベッドの上で抱き合っているとは思わなかった。
 そして、二人の顔の距離からして、キスしている最中にしか見えない。
 しかも片方はバニーガール姿。

 「ごめん! 俺、誰にも言わないから!」
 そう叫びながら、一夏は逃げるように走り去った。
 「ま、待って! 誤解だ!! ていうか大声出すな!」
 「きゃっ!」
  自分の上にいるセシリアを退かして、クリスはベッドから身を起こした。
 「セシリアはさっさと着替えて! 俺はあいつを追うから!」
 そう言って、クリスも部屋から飛び出した。

 「クリスさん……」
 廊下で段々遠くなっていく足音を聞いて、セシリアはさっきの曖昧な感触を確かめるように自分の指を唇に触れて、うっとりした表情で呟いた。


 「と言う訳で織斑君、クラス代表就任おめでとー!」
 予定通り、夜には食堂に織斑一夏のクラス代表就任パーティーが開催された。
 夕食の時間が過ぎたため料理は無いが、クリスから提供された大量のお菓子と飲み物が運び込まれている。
 「こんなに祝って貰えるなんて。皆、有難うな」
 盛り上がっているクラスメイトの拍手の中、ジュースを持った一夏は皆に礼を言った。
 「ふんっ。人気者だな、一夏」
 嬉しそうに笑っている一夏を見て、彼の隣に座っている箒は鼻を鳴らして不機嫌顔をしていた。

 この時、一夏と箒のと別のテーブルに、クリスとセシリアが座っていた。
 「いや~クレマン君のお菓子ストックが凄いって本音から聞いたけど、まさかこんなに大量だとはね~」
 「しかもパーティーのためにただで提供してくれるなんて、太っ腹ですね」
 「今度部屋に遊びに行ってもいいかな?」
 お菓子とジュースを味わいながら、クリスと同じテーブルを囲んで座っている女子達が話しかけてきた。
 「べつにいいけど……程々にな。太っても責任取れないぞ」
 「やだ~あはは」
 クリスが冗談で返すと、女子達が皆笑った。
 「む~やっぱり信用できませんわ」
 そんな光景を見て、クリスの隣に座っているセシリアも不機嫌そうに頬を膨らませていた。


 「はいはーい。新聞部でーす」
 一年一組の生徒達が楽しく歓談している時に、カメラを持っている女子一人が食堂に入ってきた。
 「話題の新入生達にインタビューに来ましたー!」
 すたすたと一夏のいるテーブルまで歩いて、一枚の紙を彼に渡した。
 「君が一夏君ですね。私は新聞部副部長、二年生の黛薫子です。これ名刺ね」
 「はっ、どうも」
 新聞部副部長黛薫子、と簡潔に書かれた名刺を受け取り、一夏はとりあえず返事をした。
 「それと~」
 周囲に見渡して、薫子は別のテーブルにいるクリスの存在を気付いた。
 「新聞部の黛薫子です。はい、名刺です」
 クリスの前まで言って、彼にも名刺を渡した。
 「ああ、これはどうも」
 薫子の名刺を受け取ったクリスも、両手で自分の名刺を差し出した。
 「……何か高そうですね。その名刺入れ」
 「あっ、それはうちのオーダーメイド品だ。社長から職員まで同じものを使っている」
 「おおっ、さすが大企業」

 「サラリーマンかよお前ら……」
 クリス達の遣り取りを注目している一夏から突っ込みが入った。

 「んじゃ、写真を撮っていいてすか」
 名刺の交換を終え、薫子は首に下げているカメラを持ち上げた。
 「あれ、インタビューはしないんですか?」