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IS  バニシング・トルーパー 009-010

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 散々悩んだ後、蘭はぱっと見て良さそうな本を手に取った。
 「……その本、初心者にはあまりお勧めできないぞ」
 「わっ!」
 本を選ぶ最中に後ろから男の声が聞こえてきて、蘭は慌てて振り返った。
 「よっ、久しぶりだな」
 「クリスさん……」
 後ろに立っていたのは、一ヶ月前に出会った銀髪の少年だった。

 「今日は本を選んでくれて、有難う御座いました」
 電車の中で、蘭は満足した顔でクリスに礼を言った。
 「いえいえ、どういたしまして」
 「しかし、まさかクリスさんがISに詳しいとは思いませんでしたよ。凄く助かりました」
 「まあな。俺としては、蘭がISに興味を持ってるのは意外だったな」
 蘭が持っている本屋のビニル袋を見て、クリスはさっきから気になっていたことを口にした。
 「あっ、はい。IS学園を目指してますよ」
 「へえ~」
 目の前で爽やかに笑っている少女を見て、クリスは感心したように唸った。だがこの前自分の兄を沈めたあのパンチを見ると、なんとなく納得できた。
 (プラズマステークとか、似合いそうだな……)

 「そう言えば、クリスさんは何で本屋に居たんですか?」
 「ああ……いや、限定ケーキが買いたくて、朝早くその店の前に行ったけどな、臨時休業だとさ」
 両手を広げて、クリスは残念そうな表情をした。
 「そうですか……」
 「折角の外出だし、遊んでから帰ろうと思って適当に歩いたら、丁度本屋で君の姿が見えて、それで声をかけたという訳」
 「そうですか……」
 「それより、後で君の家に案内してくれないか?昼飯をそこで食べようと思ってな」
 「いいですよ。本選びのお礼もしたいし」
 「いや、たいしたこともしてないし、さすがに今回は払わせてもらうよ」
 「ええ~遠慮することないのに~」
 前回は何となくお礼として受け取ったが、さすがに毎回ただで飯を喰うのは気が引いてしまう。

 電車を降りて、駅から出て十分程歩いた二人は、五反田食堂に辿り着いた。
 「ただいま~」
 「お邪魔します」
 蘭と二人で中へ入る。食堂の中には厳さん以外に、数人の客が居た。

 「敏腕だが何だが知らんが、調子に乗るなよ。売り込みの速度なら負けん!」
 「甘いな。この業界でものを言うのはCDの売り上げだ。これがな!」
 昼食を食べに来た社会人の客二人をとりあえず放っておいて、クリスは別のテーブルに座っている男二人の中から、知り合いの顔を発見した。

 「一夏?」
 「あれ、クリス? 」
 クリスに名を呼ばれて、目の前の料理から顔を上げた少年は、クラスメイトの一夏だった。そして一夏が返事したと同時に、同じテーブルに座っているもう一人の少年も振り返ってクリスを見る。
 あの時に一瞬でKOされた蘭の兄、五反田弾だった。
 「どうしてクリスがここに?……あっ、まさか」
 一瞬驚いた顔した後、クリスの隣にいる蘭の存在に気付いた一夏は、納得したように笑った。
 「……知らなかったな。蘭と知り合いで、しかもそういう関係だったなんて」
 「ちが……」
 「ち、違います!!!」
 クリスの返事より先に、赤くなった蘭は必死で一夏の誤解を否定した。
 厨房に中華鍋が何かとぶつかった大音がしたが、今の彼女はそんなこと気にする余裕はなかった。

 その後、ひとまず事情を説明して誤解を解いた蘭は着替えるために一旦自分の部屋に戻り、クリスは出し巻き定食を注文した後、一夏達のテーブルに座った。
 一夏達は既に料理を食べ終って、お茶を啜っていた。クリスが座ってきたのを見て、弾の方から先に話をかけた。
 「よっ、一夏の知り合いだろう?俺は一夏の中学クラスメイトの五反田弾だ、よろしくな」
 前に一回会っているが、どうやら記憶はシスターパンチで飛ばされたようだ。
 「ああ、俺はクリストフ・クレマンだ、クリスと呼んでくれ。一夏の高校クラスメイトだ」
 「えっ?!」
 クリスと一夏の関係を聞いた弾は驚きの表情を見せた。
 「……高校の?」
 「ああ」
 「マジで? あの女だらけのIS学園の?」
 「まあ、信じられないのは分るけど、本当だよ」
 黙って茶を啜っていた一夏が会話に交えてきて、クリスの言葉を証言した。
 「マジかよ……ニュース言ってねえじゃん」
 「まあっ、細かいこと気にするな。何も特例は一人だけだと決まった訳ではない」
 「……それいうもんかね」
 浮かない顔して、弾は何とか自分を納得させる。
 「そういやクリスは蘭と知り合い何て知らなかったな。いつ知り合ったんだ?」
 「そこは俺も気になるな。あいつが男と一緒に帰ってくるなんてかなりレアな出来ことだぞ」
 「入学式の二日前でちょっとな。それにここに来るのは昼飯食べるためだ、変な誤解をよせ」
 「お待たせ~」
 丁度その時、着替え終わった蘭はクリスが注文した料理を持ってきた。箸を手に取り、クリスは会話を止めて料理に集中することにした。

 「すまん、遅くなった!」
 一夏と弾が談笑し、クリスが注文した料理を食べている最中に、店の入り口の方から陽気な男声が聞こえた。 
 振り返ると、そこに立っているのは手に大きなビニル袋を持っている、クリス達の同じ年頃の少年だった。
 「遅いぜ、隆聖」
 「悪い悪い、バイトの帰りに予約した物を取りに行ったのでな」
 一夏に詫びながら、少年はクリス達のテーブルに近づいてきた。
 「そういえば、今日は楠葉と一緒じゃないのか?」
 「ああ、あいつは今日午後からバイトが入っているから、来れないってさ」
 「んで、お前は何を予約したんだ?」
 弾も隆聖と呼ばれる少年と親しいようで、彼が持っているビニル袋を覗きこむ。
 「良くぞ聞いた、弾よ」
 自慢げな表情で、隆聖は袋から大きなボックスを取り出して、テーブルに置いた。
 「これだ!」
 そのボックスの表面には、「超合金DX バーンブレイド3」という文字とロボットの絵がプリントされていた。
 「やはりロボットのおもちゃか……」
 「大体予想はついたけどね」
 しかし自慢げな顔している隆聖に対して、一夏と弾は呆れた顔になった。
 「んだよお前ら。価値分ってんのか!?」
 二人の淡白な態度に、隆聖が愚痴を零した。

 「……ほう、第三形態・ブレイクブレイドのブラックメタルコーティングバージョンか。いいもの持ってるな」 
 料理を平らげて、ティッシュで口元を拭いているクリスは、超合金のボックスを見て呟いた。
 「おおお、君はこれの価値が分るのか!」
 やっと味方を見つけた隆聖は嬉しさのあまり、両手でクリスの左手を握った。

 (うっ! なんだこれは……?!)
 隆聖に手を握られた途端、クリスの頭に一瞬、激痛が走った。

 「友よ! 俺は伊達隆聖だ、隆聖って呼んでくれ!」
 隆聖はなんとも無いようで、ハイテンションの口調で自分の名を名乗った。
 「こいつも、中学の頃からダチだ。見ての通り重度のロボットマニアだけど」
 一夏が補足した。
 「あっ、ああ。俺はクリストフ・クレマンだ。クリスと呼んでくれ」
 頭痛が一瞬で治まり、クリスも自分の名を相手に教えた。