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IS  バニシング・トルーパー 009-010

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 「おお、クリスか。さっきの発言から察するに、バーンブレイド3に詳しいのか?」
 「まあ、詳しいと言えるかどうか分らんが、DVD全巻は鑑賞済みだ。お陰で入学式をサポったがな」
 「おおお~何と言う心意気!今日は共にバーンブレイドについて語り合おうではないか!」
 「クリスのせいで、隆聖は変なスイッチが入ったよ!」

 「しかし、この面子が集まるのは久しぶりだな。あと楠葉と鈴も居れば、あの頃の全員が揃うな」
 騒いでいる三人を見て、感懐深そうな口調で弾はそう言った。
 「そうだな。そう言えば鈴のやつ、今頃どうしてるんだろうな」
 「あいつの事だ、元気にやってるだろうよ」
 弾の言葉を聞いて、隆聖と一夏も懐かしそうな表情をした。
 「今言った楠葉と鈴も、中学のクラスメイトか?」
 一人だけ蚊帳の外気味なクリスは、気になった疑問を口にした。
 「まあな。あの二人も俺達と、よく一緒に遊んでたな」
 クリスの疑問に答えたのは、一夏だった。
 「楠葉は俺の幼馴染で、俺達と同じ藍越学園に入学してるからいつでも会えるが、鈴のやつは中学二年の時に、家の都合で引越しちまってさ、あれ以後は会ってないんだ」
 一夏の言葉を補足するように、隆聖がさらに詳しく説明した。
 「……そういえばあの頃、鈴と隆聖はよく口喧嘩してたな。それでいつも楠葉が仲介に入って……」
 「いや~あの頃の俺って大人げなかったからな、あはは」
 「今も大して変わってないと思うぜ」
 「うるせえよ、シスコンの分際で」
 「お前だってマザコンのくせに!」
 一夏の首を絞めようと、襲い掛かった隆聖に対して、一夏は全力で抵抗する。
 「やれやれ~」
 二人がじゃれ合い始めたのを見て、思い出に耽る気が失せた弾はため息をついて、クリスに話をかけた。
 「午後に用事ないなら、俺の部屋に来ないか?一緒にゲームやろうぜ」
 「ああ、お言葉に甘えさせてもらうよ」
 そう言って、二人は椅子から立ち上がって奥の階段に向った。

 その後、隆聖は弾の部屋で「超機合神バーンブレイド3」の鑑賞会を開こうと言い出したが、すぐに一夏達に却下されて、結局男四人は対戦ゲームとマンガで休日の午後を過ごしていた。
 因みに、夕方で学校に戻ると、クリスに対してセシリアは完全に拗ねていた。


~翌日~

 「織斑くん、クレマンくん、セシリア、おはよー。ねえ、二組の転校生の噂聞いた?」
 三人が教室に入ったあと、クラスメイトの女子達がいきなり話題を振ってきた。
 「おはよう」
 「お早う御座いますわ」
 「おはよう。んて転校生?今の時期にか?」

 入学ではなく、転入という形でこの時期にIS学園に来るということは、どこの国家又は企業の推薦を受けたということ。
 「うん、何でも中国の代表候補生だってさ」
 「つまり専用機持ちの可能性が大か」
 「あら、わたくしの存在を今更ながらに危ぶんでの転入かしら」
 クリスの隣に居るセシリアが冗談の口調でそう言った。クリスとの試合の後大分丸くなった彼女なら、そんなことを本気で思っていることは無いだろう。 

 「別のクラスに入るのだろう?騒ぐほどの事ではあるまい」
 いつの間にか、篠ノ乃も一夏の隣に立っていた、会話に参加してきた。
 「どんな人なんだろうな」
 「む~気になるのか?」
 「ん、一応」
 「ふん」
 一夏の態度が気に入らないようで、箒は鼻を鳴らしてむくれてしまった。
 「今のお前に女子を気にしている余裕があるのか? 来月にはクラス対抗戦があるんだぞ」
 別の女に興味を抱くのに気に食わないのは分るが、さすがに過敏すぎるのではないかとクリスは思った。

 「そうですわよ、織斑くん。偶然とは言え、クリスさんに勝ってクラス代表になったのですから、クラス対抗戦には頑張っていただきませんと」
 「俺達のフリーパスのためにもな。今日から練習のメニューを追加しておく」
 「……もう慣れたよ。どうにでもしてくれ」
 「いい覚悟だ。放課後が楽しみだな」
 クリスのサド的な笑みを見て、一夏の目は死んだ魚の目みたいになった。

 「でもさ、今の所専用機もっているクラス代表は一組と四組だけだから、織斑くんは余裕に勝てるだよ」
 「性能に頼りすぎるのは危険だ。量産機だからって甘く見ていたら、痛い目を見る。とくに一夏の経験も浅いしな」
 「手厳しいな。というか、うちのクラスに専用機持ちは三人も居るのに、他のクラスには意外と少ないんだな」
 「その情報、古いよ」
 一夏が安直な感想を口にした途端、教室の入り口から声が聞こえてきた。
 「二組のクラス代表も専用機持ちになったから、そう簡単には優勝できないよ」
 クラスが一斉にそちらを向くと、扉のところにツインテールの小柄少女が手を腰に当てて仁王立ちをしていた。

 「おまえ、鈴?鈴なのか?」
 一夏はその少女のことを知っているようで、彼女を名前を呼んだ。
 「そうよ。中国代表候補生、凰 鈴音。今日は宣戦布告に来たってわけ」
 少女はフッとツインテールを軽く揺らしながらそう言った。
 「なにカッコつけてんだ。すげえ似合わないぞ」
 「んなっ!?なんて事言うのよ、あんたは!」
 一夏に笑われ、怒った鈴の顔がやや赤くなった。

 「おい」
 いつの間にか、一組の担任先生千冬が鈴音の背後に立っていた。
 「なによ!?」
 パッ!!
 「うわっ!」
 出席簿叩きが鈴の頭に炸裂した。
 「もうホームルームの時間だ。教室に戻れ」
 「ち、千冬さん……」
 千冬の姿を見た途端、鈴のさっきまでの勢いは一瞬で萎えた。
 「織斑先生だ、さっさと自分の教室に戻れ、そして入り口を塞ぐな。邪魔だ」
 「は、はいっ!」
 怯えながらも、一歩退いた鈴音は一夏に向けて叫んだ。
 「また来るからね!逃げないでよ、一夏!」
 「さっさと戻れ」
 「は、はい!」
 千冬に催促されて、鈴音は逃げるように去っていた。
 「あいつか?昨日お前達が言っていた鈴って」
 「まあな。言った通りだろう」
 「……そうだな」


 チャイナ娘が一組に宣戦布告している頃に、フランスのハースタル機関本社の社長室で、イングラムはコーヒーを啜っていた。
 ただ数年でこの技術企業のトップまで登った彼は常に繁忙な業務に追われていて、ゆっくり休める時間も中々取れないが、今日は朝から客人の来訪が予定されているため、なんとか朝のコーヒータイムを確保できた。

 しかしこの静かなひと時の終わりを告げるように、ドアを叩く音がした。
 「私だ」
 ドアの向こうから聞こえたのはイングラムの補佐役、ヴィレッタ・バティムの声だった。
 「入ってくれ」
 「はい」

 入室許可を得たヴィレッタは、書類を持って入ってきた。
 「申し訳ないな。せっかくの休憩時間に」
 「いや、気にするな。それより用件は手短に済ませてくれ。来訪の予約が入っている」
 「分かったわ」
 イングラムの机の前に立って、ヴィレッタは書類のページをめくり始めた。
 「例の隕石について、マオからの報告が来ました」
 「……結果は?」
 「“当り”だそうだ」
 「……やはりか」
 報告の結果を聞いたイングラムは、考え込む仕草をした。