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IS  バニシング・トルーパー 009-010

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 「調査の途中で爆発したが、その前に出来るだけ採集したデータはここにまとめてある。」
 持っている資料から数枚のプリントを出して、イングラムの前に置いたヴィレッタは、浮かない顔をしていた。
 「イングラム、今回は……」
 隕石の調査はIS技術企業のあるハースタル機関にとって明らかに業務外。だか今の二人は、かなり深刻そうな顔をしていた。
 「分かっている。MK-IIIのシステム見直しを急がせる」
 「……はい」
 「クリスが心配か?」
 平然な顔をしているが、ヴィレッタと長年付き合ってきたイングラムは、彼女の口調から僅かな焦りを感じた。
 「もし“来訪者”なら、クリスが……」
 「それなら、むしろ彼の素質を試す絶好なチャンスかもしれん」
 「しかし、例え覚醒できたとしても……」
 「分っている。私も分の悪い賭けをする気はない。手を打っておくさ」
 「……わかったわ。貴方がそう言うなら、信じましょう」
 寄せた眉はまだ戻していないが、ヴィレッタはとりあえずイングラムを信じることにして、書類のページをもう一度めくった。
 「後もう一つの用件だが、実はアメリカのラングレー研究所から、以前我が社が数年前のデモンストレーションで展示したゲシュペンストを買い取りたいと交渉してきた」
 「ゲシュペンストを?」
 イングラムは意外の表情でヴィレッタを見る。
 ゲシュペンストはハースタル機関が最初に開発した汎用型ISであり、コア流用のために機体も既にパーツ状態に分解されている。いまさら買い取りたいなんて、実に妙な話だ。
 「はい。なんても開発プランのベース機に使いたいそうです。責任者はその……マリオン・ラドム博士です」
 「ああ……なるほど。道理でゲシュペンストを選ぶわけだ」
 イングラムがスカウトされてハースタル機関に入社したマリオン・ラドム博士にとって、ゲシュペンストは初めて開発して完成したISだった。しかしゲシュペンストが完成した後彼女は提出した新型開発案が却下されたことが気に入らなかったらしく、何年前に退社した。ゲシュペンストを新型のベース機に使いたいのは彼女なら、十分に納得できる話だ。
 「どうする?」
 「実機はもうないが、パーツとデータだけなら売ってもいいと、彼女に返事しておけ」
 「わかったわ」
 指示を出した後、イングラムはふっと何かを思い出したように、ヴィレッタに問いかけた。
 「……ゲシュペンストと言えば、私が指示した例のあれの進捗具合はどうなっている?」
 「あれなら、既に昨日の夜に仕上がりました」
 「そうか。よくやったな」
 「MK-IIIのシステム見直しはまだ終わっていないので、パーツの組み立て作業だけなら整備員の人手は十分にある」
 「丁度いい。せっかくの客人への手土産、間に合って何よりだ」
 「はい。報告事項は以上で全部だ」
 「ご苦労」
 ヴィレッタが報告を終えた途端に、イングラムの机にある電話が鳴った。それを見たヴィレッタはイングラムの机に報告書を置いて、すぐに退室した。
 「社長。会見を予約した客人が到着しました」
 「分かった。来客室へ案内しろ」

 「やっと来てくれたか、放浪者」
 口元に薄い笑みを浮かばせて、コーヒーを一気に飲み終わったイングラムは席から立って、隣の来客室に入った。
 「待たせたな」
 「いいえ。こっちこそ仕事の邪魔をして、申し訳なく思いますよ」
 イングラムの入室を見て、ソファに座っている黒いコートを着て、紫色の長髪で顔の半分を隠している男が立ち上がって、名刺を差し出した。
 「お初にお目にかかります。国際IS委員会所属の、ギリアム・イェーガーです」
 「……知っているよ。君のこと」
 「ほう……ハースタル機関の社長が私のようなしがない工作員をご存知とは、驚きましたよ」
 口ではそう言っているが、ギリアムは表情一つ変えない。しかし、ギリアムのその言葉を聴いたイングラムは、不敵な笑いをした。
 「ええ、よく知っているさ……贖罪の旅に彷徨う君のことをな」