IS バニシング・トルーパー 009-010
stage-10 セカンドもファーストも似たもの同士
「篠ノ之」
「……何だ」
「そんな気になるなら、一夏達のテーブルに行け」
「わ、私は別に気になってなど……!」
クリスに図星を突かれて、箒は少し離れているところへ向けた視線を正面に戻し、やや甲高い声でそう否定した。
朝に宣言した通り、昼休みになった途端に、鈴はまだ一組に来て一夏に昼食を誘った。そして快諾した一夏は今、鈴と同じテーブルで昼食を取っている。
二人の間に入るのに気が引くのか、なぜか箒はいつものように一夏と同じテーブルではなく、クリスとセシリア達のテーブルに座った。
「そうか? なら言わせて貰うけど、箸が上下逆してるぞ」
「うっ、こ、これは……!」
「いいよ、言い訳しなくても。見れば分ることだから」
クリスの発言に、同じテーブルに座っている女子達が暖かい視線で箒を見て頷いた。
「というか何でこっちに座ったんだ?いつも通り一夏と一緒に座ればいいだろう」
「べ、別に何時も一夏と一緒にいる訳では……!」
赤くなった顔で、箒は力説して否定するが、勿論説得力が皆無だった。
「そうか? なら別にいいけど。あの二人も積った話があるだろうし」
「クリスさんは知ってらっしゃるのですか?あの転入生の事を」
クリスの隣に座っているセシリアが興味有りげに聞いてきた。
「俺も昨日一夏達から聞いたばかりの話だが、中学二年の頃まで一夏と一緒に遊んでいた友達だったらしい」
「友達か……」
箸を持ち直して料理を口に運ぶ箒は興味無さそうな顔しているが、どうやら耳はしっかり立っているようだ。
「あっ、でもそれは一夏の中学クラスメイトが言ってただけだから、一夏とあの子が互いにどう思っているかは知らないがな」
そんな強がりな箒を見て、クリスの加虐心がぐっと湧いて来た。
「……」
「そう言えばあの子、織斑先生の事を“千冬さん”って呼んだだろう? 聞いた話では、中学の頃はしょっちゅう一夏の部屋に出入りしてたし、一夏もよくあの子の家で食事をしに行ったらしいから、もしかして既に双方の家族こうに……」
「……っ!!」
クリスがまだ話している途中に、箒は突如に立ち上がった。
「……どうした? 篠ノ之」
「うるさい!」
一言残して、箒は自分のトレーを持ち上げて一夏達のテーブルに行って、ふんっと鼻を鳴らして強引に一夏の隣に座った。
「……やれやれ、どこまで不器用だか」
軽いため息をついて、クリスは自分の食事を再開した。
「いや~クレマン君って、そういう所は意外と大人だな」
同席の女子達がクリスの行動に感心していた。
「篠ノ之は一途だが、どうも不器用すぎる。大方、一夏と知らない女子と仲良くしているのを見て、自分と一夏との時間のブランクを実感して戸惑っていたのだろう」
「おぉ~!何が恋愛経験豊富って感じ?」
「ないよ、恋愛経験なんて。仕事に出張も多いし、そういうのをやっている余裕なかったよ」
女子達の冗談に対して、クリスは薄く笑いながら軽く手を振って否定する。
「ええ~そうかな……出張先に出会った子との短い恋とかも有り得そうじゃない?」
「あはは、まさか。そんな三流恋愛映画みたいな」
「じゃファーストキスもまだ経験してないとか?」
「……ノーコメント」
「クレマン君、何で目を逸らすのかな?」
「クリスさん!?」
一瞬視線が泳いだクリスに、セシリアが声を張り上げて詰めてきた。
「いや本当だって。恋人を作る余裕なかったし」
「今まで余裕なかったけど、今ならあるでしょう~?」
さっきまで黙って傍観していた本音が突然に口を開けた。その一言で周囲の女子達の目線が肉食獣のものに変わった。
「そうね、三年間くらい余裕あるわよね」
「うんうん。というわけでクレマン君、今夜遊びにいくから」
「直球で来たわね! なんて恐ろしい子!」
「だ、ダメですわよ! よ、夜の遊びだなんて!」
「わあ……セシリアは何か凄いことを想像してる~!」
女子達が半分冗談な口調で騒ぎ始めた。
「あっ、俺もう食べ終わったから、先に教室に戻るよ」
これ以上付き合うと面倒なことになりそうま予感がして、クリスは手早く食器を片付けて逃げるように食堂から去っていた。
午後の授業も無事に終わり、あっという間に放課後になった。いつも通りクリス、セシリアそして一夏は訓練場に集まって特訓を始めていたが、今日は箒も特訓に参加していた。
「打鉄を借りてきたのか、篠ノ之」
「そうだ。今日の訓練は参加させてもらう」
既にエクスバインを展開したクリスは、量産機の打鉄を起動している箒に話かけた。少し離れたグラウンドの隅で一夏は基礎動作のトレーニングをしていて、セシリアはクリスに言われて一夏の監督をしていた。
「まあ参加したいなら歓迎するけどさ」
「そうか。ところでその……すまなかったな」
「なぜ詫びる」
「いや、これはその……昼休みの時のお詫びだ。あの時はちょっと混乱して乱暴な態度を取ったが、後でよく考えたら……」
「ああ、あれくらいのことは気にするな。友達だろう?」
「友達……か」
クリスの言葉を反芻するように、箒が呟いた。
「あれ、もしかして違った?」
「いや、そういう意味じゃないんだ。誤解しないでくれ」
一旦溜めて、箒はもう一度口を開けた。
「私の姉のことは……知ってるか?」
「篠ノ之束博士のことか?知ってる」
ISを開発して世間に開示した科学者であり、そして篠ノ之箒の姉でもある篠ノ之束博士。ISに関わるものに、知らない人はいないが、今は行方をくらましており、各国から追われている。
「ここ数年は姉のせいで色々あったから、それで周りのことに過敏になっていてな、どうも周囲を敵視しすぎる傾向があって、友達とかそういう存在は作れなかったんだ」
「でもここは今までの環境とは違うだろう?」
「それはそうだが、どうも長年のくせでな……」
「そうか? まあ、ゆっくりやって行けばいい。三年間あるし」
「そう……だな。ありがとう、クレマン」
「……」
感懐深そうに、僅か顔が赤くなった箒は微笑んだ。
普段の箒は鈍感な一夏のせいでいつも不機嫌顔と刺々しい態度をデフォに装備しているが、元々はかなりの美少女。僅かに微笑んだだけで絵になりそうな可愛さがあって、クリスも思わず見とれていた。
「……はっ!!」
ヒューン!!
箒の笑顔に見惚れている途中に横から殺気を感じてしまい、咄嗟に一歩引いたが、間一髪のタイミングでさっきまで立っていた場所に一筋のビームが通って行った。
「……鼻の下を伸ばすのはそれ位にして頂きましょうか、クリスさん」
片目でスターライトMK-IIIのスコープ越しにクリスを睨みながら、セシリアは無感情な声でクリスに話しかけた。
「……とりあえずライフルを降ろしてくれないか?セシリア」
「それはクリスさんの態度次第ですわね」
「お、おい、クレマン……」
微妙に申し訳なさそうな表情で、箒がクリスの方へ一歩近づいた。
「……篠ノ之は一夏の接近戦相手になってくれ。こっちは自分が何とかするから」
作品名:IS バニシング・トルーパー 009-010 作家名:こもも