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IS  バニシング・トルーパー 011-012

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 早いテンポでハイヒールの爪先で地面を叩いた後、千冬は突然何かを思い出したように、セシリアに問いかけた。
 「クリスさんですか? 避難の前にゴミを捨てに行くとか言っていて、戻って来ていませんが……ってまさか!?」 
 「……ハア」
 クリスの行方を大体予想できた千冬は盛大のため息をついて、側にある椅子に座った後再びメインモニターを凝視した。しかし、千冬の横顔を覗いた真耶は、千冬のきつく寄せていた眉が幾分緩めた気がした。

 第二アリーナ内で、一夏と鈴は相変わらず逃げ回っていた。
 「クソッ!ちょこまかと!」
 「何なのよ! あのIS!」
 所属不明のISの狙いはかなり正確で、回避するだけで一苦労だった。たまに反撃に転じてみても、相手に容易く回避され、今のところは碌なダメージを与えていない。
 「このままじゃ、エネルギーシールドが持たねぇ!」
 白式のハイパーセンサーからの提示情報では、もう二割のエネルギーしか残ってない。
 扉がロックされ、アリーナのエネルギーシールドも強化されて強制突破できない。今の一夏と鈴は完全の孤立された状態にある。
 敵の撃退が難しいなら、何とか時間を稼いで救援隊の突入を待つ。二人で決めた方針だが、如何せん相手の狙いが精確無比のため、二人のエネルギーシールドが段々削られていく。

 「もう少し堪えて! 直に救援が来るはずだから!」
 一夏を庇う様に、鈴は一夏の前に立って所属不明ISと対峙する。
 「ふん、お前に守られる日が来るとはな。小五の頃はあんな泣き虫だったのに」
 鈴の背中を見て、情けない自分の無力さを感じながら一夏はそう言った。
 「い、何時の話よ! あんただって、中学一年の時に隆聖と喧嘩して負けたくせに!」
 「あんな非常識なやつとまともにやってられるか! 」
 互いの古傷を突きあった二人は目の前の脅威を忘れて睨み合う。そして所属不明ISもまるでそんな二人に興味がある様に、一旦攻撃を止めて二人を観察していた。

 「なんて薄情なやつ! うちで何回ただ飯食ったか覚えてるの?!」
 「お前が料理を試食して欲しいって言うからだろうか! お前こそ、引越し前に貸したCDを今すぐ返せ!」
 「返すわよ! 返してやるわよ! 大体何よ! あたしが好きな歌手をあんだけ馬鹿にしといて、何であのCD買ったのさ!」
 「お前が欲しいけどお小遣いが足りないって言うから、替わりに俺が買っただろうか! お陰で何日の昼を抜いたか覚えてんのか!」
 「む~~!」
 「くっ!」
 睨みあいながらも、口喧嘩を止めない。だが、憎まれ口を言い合っている内に、昔の記憶が鮮明に蘇えり、二人の間の蟠りはすでに何処かへ消え去った。
 
 「……やっぱあのCD、返してあげない」
 二振りの青龍刀・双天牙月を構えて、鈴はそう呟いた。彼女の瞳には、既に転入初日に見せた活気が戻っていた。
 「別にいらねぇよ。俺、あの歌手嫌いだし」
 一夏も吹っ切れた様に微笑んで、雪片弐型を握り直した。
 「それより、先ずは目の前の問題を片付かなきゃな……って!」
 再び所属不明ISへ向き直した瞬間と同時に、それを戦闘再開の合図と理解したの敵が、再び野太い ビームを飛ばしてきた。
 「しまった!!」
 鈴との会話に気が取られて反応を遅れた一夏は、既に回避する時間がない。このまま直撃を受けたら、残り僅かのエネルギーシールドが一瞬で消え、ダメージが一夏の本体が来てしまう。
 「一夏!」
 「うわっ!!」
 ダメージを覚悟して、一夏は目を閉じて両腕を前方に構えて衝撃の到来を待つ。

 しかし、予期した衝撃が来ることは来なかった。
 「あれっ?」
 薄目を開けて、状況を確認する。
 
 「……まったく、戦闘中の痴話喧嘩は上級テクニックだぞ。初心者が真似するな」
 耳に入ってきたのは、爆発音ではなくお馴染みの少年の声だった。
 「クリス!」
 視界に映っているのは、蒼いIS・エクスバインを纏った少年の背中だった。

 「よく持ったな。お二人とも」
 一夏を襲う一撃をグラビティウォールで防ぎ、背を見せるままにクリスは一夏たちの無事を確認して、一先ず放心した。
 「お前、どこから入ってきたんだ?」
 「ピットのシャッターを破壊した。時間が掛かったがな。お前らもあそこまで退避しろ。アリーナからは出られんが、ここよりは安全だ」
 「アンタは?」
 一夏と後退しつづ、鈴はクリスに聞いてきた。
 展開したファングスラッシャーを握って所属不明ISを睨みあっているクリスは、どう見ても引く気皆無だった。

 「俺はこれから、あれを始末する」
 トーンの低い声でクリスはそう言い放った。
 「一人じゃ無理よ! 手強いわよ!」
 せめて自分達が加勢しようと、一夏と鈴が後退を止めてクリスの隣に並ぼうとしたが、クリスは手で彼らを制止した。
 「……どうしても引かないなら、せめて離れてくれ。こっちはすぐに済む」
 バイザーで隠している彼の目線は見えないが、そのいつもと比べて明らかに違う真剣な口調から、一夏と鈴は思わず言おうとした言葉を飲み込んだ。
 「ここに残ると決めた以上、気を抜くなよ」
 一夏と鈴に忠告だけ残して、クリスは前へ出て所属不明ISと対峙した。

 「……久しぶりの実戦だ、荒っぽく行くぞ。T-LINKコンタクト、レベル4に固定」
 展開したファングスラッシャーを握り締めて、目の前の所属不明ISと対峙しているうちに、久しぶりの実戦でクリスの戦意も高ぶって、システムの稼働率をいつもより高めに設定していた。
 (うっ?これは……視線?誰かが俺を見ている……?)
 感度が高められたハイパーセンサーは何も探知出来ていないが、クリスの“念”は確かにそう感じ取っていた。
 まるで闇に潜んでいる野獣が自分を狙っているような感じだった。

 「まずは雑魚を始末しないと出てこないって事か」
 視線の事は気になるが、今は目の前のISを始末しなければならん。
 「なら悪いが、速攻で片付けさせてもらうぞ。ファングスラッシャー!!」
 先手必勝とクリスは手に持ったファングスラッシャーを力いっぱいで相手へ投げる。十字形に展開したファングスラッシャーが鋭い牙となり、変幻自在の軌道で所属不明ISへ襲い、大柄の割りに相手は敏捷な動きでファングスラッシャーの軌道に合わせてそれを回避する。
 しかし、一度避けたファングスラッシャーはまるで意識があるように、何回も空中で軌道を変えて敵にしつこく付き纏う。敵の装甲を切り裂けることはないが、牽制としては十分だった。ファングスラッシャーを投げた瞬間に既に次の武器を起動させたクリスは腕を大きく振って、光の戦輪の名を叫ぶ。
 「チャクラムシューター、行け!!」
 射出されたチャクラムがトリッキーな動きで所属不明ISへ襲い掛かり、ワイヤーを相手の巨大な右腕に巻き付けたが、所属不明ISはこれを逆手に取り、腕部に力を篭めて力ずくでクリスを引き寄せようとする。
 しかし、それはクリスにとって予想内だった。