IS バニシング・トルーパー 011-012
stage-12 唸る鉄拳、貫く巨剣
「何なんだあれは?!」
メインモニターに映っているものを見て、千冬はまるで信じられないように、目を大きく開けた。
破られたシールドの穴から降りてきたのは、もう一機の全身装甲タイプISだった。
刺々しいヘルメットの正面中央に赤く光るV字型センサー、左肩装甲から突き出している五本の刀、背部にあるブレード状のウィング、そして両手に持っている大型シールドと西洋風の実体剣。
鋭角なフォームを持つ凶悪な姿とその全身に纏う殺気との相俟って、まさに蒼い悪鬼の様だった。
「システムの復元はどうなっている!?」
そのISから本能的に危機感を感じたか、冷静な表情が崩れた千冬の焦った声がモニター室に響く。
「はっ、はい! 現在の復元率、23%です!」
「私は突入班と何とか外に出て外部から突入できないか検討してみる。復元作業が終わったらすぐに各通路のシャッターを開けろ!」
「はい!」
真耶はキーボードを叩く指スピードを更に上げて、千冬は通信機を取って突入班と通信を取ろうとする。
「先生! 私に出撃許可を!ピットと繋ぐ通路のシャッターを破壊すれば……」
「ダメだ。ここからは子供が出る幕ではない。我々大人に任せろ」
セシリアは再び出撃許可を求めるが、言葉が終る前に千冬に一蹴された。
「しかし私は……」
「何度も言わせるな!!」
まだ納得できないセシリアが説得しようとするが、千冬は怒鳴るに近い口調で叫んだ。その剣幕に飲まれて、セシリアも言葉を失った。
「……すまない。だが出撃は許可できん。分ってくれ」
少し落ち着いた千冬はセシリアに謝った後、通信機の手に取った。
クリスは砲撃を食らって安否不明で、残りの二人も恐らくあのISに対応できない。生徒たちが心配で気が気じゃないが、だからこそ自分は大人として行動しなければならん。
(頼む、無事で居てくれ……!)
心の中で生徒たちの無事を祈りながら、千冬は通信ボタンを押す。
「何なの、あいつは……!」
アリーナの中、鈴は新たに登場した敵ISと対峙していた。
後ろには倒れているクリスと彼の状態を確認しに行った一夏が居る。ここで自分が引けば、後に居る二人は敵の前に晒されることになる。
一夏のエネルギー残量は少ないし、クリスもさっきの砲撃を受けてかなりのダメージを負ったはず。ここは自分が敵を撃退しなげればどうなるか、想像もつかない。
そう思って、鈴は神経を研ぎ澄まして相手を睨みながら、双天牙月を握った手に力を入れた。
敵はまるで余裕満々のようにゆっくりと静かに歩くが、その身から放たれている肌で直接感じられる程の威圧感に、鈴は戦慄を覚えてしまう。
「ち、近づかないで!」
まるで自分の震えを隠すように、敵に向かって叫ぶ。
しかし、相手は微塵も反応することなく、その足運びを止めない。
「近づかないでって言ってるでしょ! こ、これ以上は……!」
「声が震えてるぞ」
鈴の二度目の警告が言い終わる前に、後ろから声が聞こえた。
「あんたっ……!!」
敵に向かっているので後ろへ振り返れないが、甲龍のハイパーセンサーを使って、鈴は声の主を確認した。
「無理するな。ここは俺に任せろ」
心配そうな目で見ている一夏の手を振り払って、エクスバインとクリスは立ち上がた。
「む、無理してないわよ! あんたこそ直撃喰らったくせに、引込んでなさいよ!」
「心配いらん」
クリスは前に出て敵ISと対峙するが、間近で鈴が見たエクスバインの装甲表面には所々に破損の痕跡が見られ、一部の装甲は既に黒く焼かれていた。
「実戦じゃここからが本番だ。一夏、こいつを連れて下がれ」
「でも今のお前の状態では!!」
「いいから下がれよ。……ここに居ても邪魔なだけだ」
一夏と鈴にとってはキツイ言い方だが、同時にそれが事実であることもふたりは理解していた。
「……わかったよ。だけど、本当にやばくなったら勝手にやらせて貰うからな」
「ならないよ」
一夏と鈴が下がったのを確認した後、クリスは二丁のM950マシンガンを手に握って、銃口を敵ISに向けて構えた。
「待たせたな。不意打ち野郎」
「……いいってことよ」
「通信……?!」
意外なことに、エクスバインのプライベートチャンネルから若い男の声が聞こえた。発信源を確認すると、なんと目の前に居る敵からのものだった。
「……亡国機業(ファントム・タスク)か?それとも……『来訪者』か?」
「所属を明かせなくて悪いが、代わりに俺の名を教えてやるよ。俺はメキボス、そしてこの機体は俺の相棒『グレイターキン』だ」
「ご丁寧にどうも。何しに来た?」
「何でも聞いたら返事が帰ってくると思うなよ」
「なら、ISから引っ張り出して拷問するまでだ」
そう言って、クリスはマシンガンのトリガーに置いている指に力を篭める。
「はは、そいつは楽しみだ」
ふざけた口調で返事をすると、メキボスも剣を構えてその先をクリスに向ける。
「ああ、俺も楽しみだ!」
「来い!!」
トリガーを引かれたマシンガンの銃口が火を噴き、銃弾がメキボスへ飛んでいくが、メキボスは横へ移動してそれを回避した後、空中へ上昇して距離を取りグレイターキンの腹部装甲の一部を開いた。
そこに現れたのは、大きな砲口だった。
「吹っ飛んじまいな! フォトンビーム!!」
ビシャァー!!
砲口が咆哮し、そこからビームが撃ち出された。
「当るかっ!」
マシンガンの掃射を止め、クリスはテスラドライブを展開してそれを回避した後、再び照準を合わせるが、相手の方が既に至近距離まで詰めてきた。
「遅い!」
「……!!」
クリスの目の前まで迫ったメキボスはその実体剣を振って斬りかかり、クリスは咄嗟に肘に付いている収納状態のファングスラッシャーでそれを受け止めた。
「なるほど、反応速度は及第点だな。しかし……!」
予想を遥かに上回る重い斬撃を辛うじて受け止めた後、クリスは直ぐに右手の武器をコールドメタルナイフに替えてメキボスの頭部に突き刺すが、それが届く前にメキボスは既に蹴りを追加して来た。
「パワーの方は足りねぇな!」
「うわぁっ!!」
胴体に蹴りを食らって、クリスは地面に叩きつけられる。そしてそれを見たメキボスはスラスターを噴かして追討をかけようとする。
「調子に乗るな! チャクラム!」
地面にいるクリスは直ぐ体勢を立て直して、右腕を上げてチャクラムシューターを発射する。
「ワイヤーなんざ、俺には通用しねぇぞ!」
チャクラムシューターの軌道も簡単に見切られ、メキボスは剣を振ってワイヤーを切断した。しかし、メキボスがワイヤーを対応している僅かの間、クリスは既に上空へ移動して、フォトンライフルSを呼び出してメキボスに照準を合わせてトリガーを引いた。
「おっと、射撃の腕も中々だが、生憎運動性はちょいと自信があってね!」
クリスの狙いは正確で、常に相手の回避位置を先読みして銃弾をばら撒く。普通の相手なら当っていたが、メキボスはそれを上回ったの反応速度と敏捷な動きでそれを容易く回避して、再度腹部の砲口を開く。
作品名:IS バニシング・トルーパー 011-012 作家名:こもも