IS バニシング・トルーパー 011-012
「ほらよ! もっと盛り上げようぜ!!」
「またか!」
メキボスの方向が光り始めた瞬間、クリスは迷わず射撃を止めて射線軸から離れた。避けられたビームがクリスの後ろのエネルギーシールドに当り、風穴を開ける。
「まだまだ終わりじゃねぇぞ!」
そう叫びながら、メキボスは素早く腹部砲口の角度を変えてクリスが回避した方向へ向けて、その砲口から放たれたビームも途絶えることなくクリスへ追っていき、アリーナを覆っているバリアにもその砲撃軌道に沿って大きな開口部が出来ていく。
「くっ!!」
スピードを上げて砲撃から逃れながら、クリスはグラビトンライフルを呼び出す。
「そういうのは、こっちもある!!」
長時間の照射砲撃を終えたメキボスの隙を狙って、グラビトンライフルのトリガーを引く。
「照射モード、マキシマムシュート!!」
「ふんっ」
銃口から重力子の激流が噴出されてメキボスへ襲うが、彼はただ不敵な笑い声して、その大型シールドを自分の前方に構える。
「馬鹿な……!!」
直撃しているはずの重力子が、その大型シールドの表面に沿って幾筋に拡散され滑って行く。
「この程度か」
グラビトンライフルの照射を防ぎ切った後、シールドを退けたグレイターキン本体は装甲表面に傷一つ付いていない。メキボスは余裕そうに剣を持っている手を上げて、指をくいくいっと曲げて挑発する。
エクスバインの最大威力を持つ射撃武器、グラビトンライフルの照射モードもメキボスの実体シールド一つで防がれてしまったとなると、後は接近戦で挑むしかない。メキボスもそれをわからないはずがないが、それでも挑発してくるということは、接近戦でもクリスを圧倒できる自信があるということだ。
「舐めるな! ……くっ!」
T-LINKシステムの出力を上げると、強烈な頭痛がクリスの頭に走る。しかし今はそんなことを気にしている場合ではない。
「うおぉぉぉぉ!!」
両手の武器をロシュセイバーに変え、クリスはメキボスへ突撃する。
相手が挑発しているのは明白だが、射撃では有効な打撃を与えられないなら、誘いに乗って接近戦を仕掛けるしかない。
「はっ!」
二本のロシュセイバーを振って何度もメキボスに切り掛かるが、彼の実体剣によって簡単に捌かれてしまう。
「パワーは少しマシになったか。しかし焦ってるな? 動きを見れば分かるぞ!」
「黙れ!!」
今まで強敵との戦闘経験はそれなりに積んできたつもりだったが、まったく相手にダメージを与えられない状況は初めてだ。追い詰められていく自分の焦りを無理矢理押さえて冷静なふりをしても、メキボスにはすぐに見破られた。
「格闘戦に焦りは禁物だぞ!」
「くわっ!!」
ドカァァァ!!
メキボスの重い回転蹴りで、クリスは蹴り飛ばされてコンクリートの壁にぶつかった。
「これで分かっただろう」
あくまで余裕な姿勢で、メキボスは剣を下ろしてゆっくりとクリスが倒れている場所へ歩く。
「機体性能と戦闘経験。どっちにおいて俺の方が上だ。ヒュッケバインの後継機だから少しは期待してたが、やはりはブラックホールエンジンなしの駄作か」
「くっ……!」
ブラックホールエンジンのことは高度な機密情報、一般人では決して知りえない。それを知っているということは、相手はかなり特別な立場にいる人間だということ。
しかし今はそんなことを考えている余裕は無い。ふらふらする頭を振って、クリスは手を壁につけて何とか立ち上がる。
(T-LINKシステム機能停止、ジェネレーター出力低下……!?)
そんなことを気にしていられない程大きなトラブルが、今に発生した。
(無理やりシステムのリンクレベルを上げたせいか?)
プログラムを起動してシステムチェックしたい所だが、敵を前にしてそれもできない。
僅か数分も立たないうちに、クリスは完全に相手に追い詰められた。
「やれやれ、とんだ期待外れだ。もういい、その機体を破壊させてもらうぞ」
クリスとエクスバインへの興味を失ったメキボスは、もう一度グレイターキンの腹部砲口を開き、そこにエネルギーを集中させる。
「さよならだ! 出来損ないが!!」
「……っ!!」
直撃を食らったら大破は絶対に免れないし、下手すればクリス本人も重傷所じゃ済まない。
「今よ! 一夏!!」
「ああ!」
ドォーン! ドォーン!
突然、鈴の声と共に龍砲の砲撃音が響き、それに反応したメキボスは地面を蹴って後ろへ飛んで避けて、衝撃弾が彼が居た地面に当って塵土が飛び上がる。
「ちっ、外した!」
「十分だ!」
メキボスが回避行動を取った瞬間、真っ白な閃光が走った。
「うおぉぉぉ!!」
「見え透いた手だな!」
メキボスの背後から奇襲をかけた一夏は全力で雪片弐型を振り下ろしたが、メキボスは背を向けたまま腕だけ動かして一夏の斬撃を実体剣で受け止めた。
「くそっ!」
悔しそうに言い捨てて、一夏は両手にさらに力を篭めるが、相手は一センチも動かない。相手が油断している隙を狙って奇襲をかけたつもりだったが、まさかまったく通用しないとは思わなかった。
「何をやっているお前ら! 直ぐに下がれ!」
「嫌だね。いったろう?やばくなったら勝手にやらせて貰うって」
「やめろ! お前が対抗できる相手ではない!」
「アンタこそ、あたし達をあまり見縊らないでよね! こんな奴、あたし達で十分なの!」
一夏に続いて、鈴も青龍刀を構えてメキボスに切りかかるが、メキボスはそれをシールドで受け止めた。
「友達の忠告は聞くもんだぜ、お二人さんよ!!」
メキボスの言葉と同時に、グレイターキンの左肩から突き出している五本の刀が光り始めた。
「何かをする気だ! 逃げろ!!」
「えっ?!」
「何っ? 何なの?!」
グレイターキンの行動に危険を感じたクリスは一夏と鈴に警告するが、時は既に遅かった。
「逃げてももう遅いぜ! サンダークラッシュ!!」
グレイターキンの肩部から雷光が煌き、そこから発生した大量のプラズマが拡散していく。
「うわぁぁぁっ」
「くわぁぁぁぁぁ!」
「くうっ!!」
グレイターキンの広範囲攻撃を食らった三人の全身に灼熱の痛みが走り、一夏達が悲鳴を上げる。
「はぁ、はぁ……一夏! 凰! 大丈夫か!!」
雷鳴が収まった後、サンダークラッシュが起こした煙霧の中で辛うじて攻撃を耐え凌げたクリスは真っ先に二人の安全を心配して呼びかける。
「あ、あたしは何とか……」
グラウンドの隅まで吹っ飛ばされた鈴は片膝を地面についたままクリスに返事した。
「一夏! 返事をしろ!!」
鈴を安全を確認して一安心したところ、クリスは再び一夏を呼びかける。
「一夏って、こいつのことかい?」
「い、一夏!!」
鈴は悲鳴に近い呼び声を上げて、それを聞いたクリスは彼女の視線を追ってその先を辿る。そしてそこに見えるのは、依然に無傷のメキボスと、彼の足元に倒れている一夏だった。
「……っ!!」
作品名:IS バニシング・トルーパー 011-012 作家名:こもも