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IS  バニシング・トルーパー 011-012

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 無力の自分を守るために、友人は傷付いた。悔しさと怒りが心の底から一気に湧き上がり、クリスは自分の内に何かが切れたような感じがした。

 「やれやれ、狭い場所だから10%の出力で撃ったのに。脆いな」
  メキボスは足の爪先で一夏を軽く蹴ったが、一夏はまったく反応しない。
 「まっ、サンダークラッシュの直前に俺に切り掛った度胸だけは「黙れ!」……っ!」
 低い声で威圧感満点のクリスの一言で、メキボスはその傲慢な言葉を止めて口を篭った。

 「……本来なら、拷問が終わったらすぐに楽にしてやるつもりだったが」
 膝を押して、傷だらけのエクスバインで立ち上がる。体中にあちこちで悲鳴が上がっているが、今のクリスはそんなことを気にしていられない。
 「気が変わったよ」
 破損したバイザーを外して、地面に捨てる。真っ直ぐにメキボスを睨むクリスの目に、憤怒が静かに燃えていた。
 「一瞬で死ねると思うなよ……!」
 その時、ハイパーセンサー越しのクリスの視界が一瞬で赤い色に染まり、エクスバインのAIからメッセージが表示された。

 <URANUS SYSTEM BOOT UP>


 「くっ、うう…!! うあああああっ!!」
 メッセージが表示された途端に、さっきのと比べにならないほど頭が割れそうな激痛が走り、クリスが頭を抱えて苦しそうに叫ぶ。
 「これは……?!」 
 クリスの叫びを耳にしたメキボスは、全身の震えが止まらない。だがそれは物理的な力によるものではない、もっと直接に脳に入り込んで来る思念のようなものだった。
 「……コアが、共鳴している!?」 
 高鳴っているグレイターキンのコアから、自分の中に滔々と流れ込む底が見えない殺意と怒りに、獣のような本能を持つメキボスも恐怖を感じてしまう。
 そして、その思念の中に、断片的なビジョンが見えてきた。
 上から見下ろす狂気に満ちた目。
 血の海に倒れている死体。
 血塗られた壁。
 女性の悲鳴と銃撃音。
 地面に倒れて喚いてる男達。
 そしてどこから聞こえてくる子供の泣き声。
 「これは、あいつから受信したものだってんのか!」
 「何なの?! この気味の悪い光景は一体何なのよ!?」
 隅の方にいる鈴もこのビジョンが見えたようで、嫌そうな顔して大声で叫ぶ。
 「一体何なんだ、この現象は……!?」
 理解しがたい現象を目当りにして、メキボスが戸惑う。

 「メガバスターキャノン、照射!!」
 ビシャァー!!
 どこから響いた声と同時に、上空からビームの砲撃がメキボスを襲う。
 「くっ……!」
 スラスターを噴かして、メキボスは回避運動を取りながら、心の中に残る迷いを振り払う。
 ドクンッ!
 砲撃の後、大きなコンテナが上空からグラウンドの地面に落ちた。


 「何だ……?!」
 頭を押さえて頭痛を耐えながら、クリスは上空を確認すると、そこには長いビーム砲を構えているもう一機の全身装甲タイプ機体があった。
 黄色のラインが入っている全身の黒い装甲、頭部両側にある長い耳状ブレードアンテナ、左腕にある三本の棒状パーツ、そして背部の大型推進ユニット。
 ギリアムの愛機の新たな姿、ゲシュペンスト・タイプRVだった。
 (ゲシュペンスト?! しかしフルスキンタイプがあるなんて話は……!)

 「君の荷物だ、受け取りたまえ!」
 エクスバインの通信チャンネルから、聞き覚えのない男性が聞こえた。彼の言葉と同時に、ゴロロっと音を立ちながらコンテナがゆっくりと開いてゆく。
 「時間は俺が稼ぐ!」
 左腕に付いている棒状パーツを引き抜いて、そこからプラズマの刀身を形成させた後、ギリアムはエネルギーシールドの穴から入ってメキボスへ突進する。
 「あれは……!」
 コンテナの中から現れたのは、巨大な腕と足をついたパワードスーツのような機械だった。

 「何者だてめえは?」
 ギリアムのメガプラズマカッターを受け止めて、メキボスが目の前の乱入者に問いかける。戦闘中は周囲に気を配っているつもりだったが、まさか砲撃が来るまでこの黒いゲシュペンストをまったく探知できなかった。
 だがメキボスの問いに、ギリアムから何の反応もしない。
 「……だんまりか、なら!」
 メガプラズマカッターを押し返して、距離をとって砲口を展開して砲撃しようとする。しかしその瞬間に、疾走する蒼い巨影が割り込んで来た。
 「貴様の相手は、俺だ!」
 「くっ!」
 別方向から迫ってくる大きな影に気付き、メキボスは砲撃を中止してシールドで防御体勢を取るが、
 「砕けろ! ガイスト・ナックル!!」
 「何っ?!」
 ドンっ!
 迅速で猛烈な一撃で、シールドが微塵に砕けられ、衝撃がグレイターキンの本体にまで届いた。
 「くっ!!」
 相手の姿すら確認できずに重い一撃を食らって、数メートル後ずさったメキボスは、ダメージを受けて火花を散らしている腕部に残るシールドの破片を捨てて、相手を見定める。
 「何なんだこれは!?」
 メキボスの目の前に立っているのは、巨大な手足が付いた、AMボクサーと呼ばれる接近戦用強化パーツを装着したエクスバインの姿だった。
 「今から引導を渡してやるよ、メキボス」
 ドスの効いた声で、少年は言い放つ。メキボスを睨むその蒼い瞳は、果てしない闘志に満ちていた。
 「この、エクスバインボクサーでな!!」

 「ジェネレータの出力も上がってきた。これで念動力を全力でぶつけられる。流石だ」
 初撃の後、クリスは外腕部のグリップを握ってボクサーの拳を握ったり開いたりして、機体のコンテンションを確認する。
 「ちっ。強化パーツを付けたくらいで、調子に乗るなよ!」
 不意打ちとは言え、一撃で退けられたのは気に入らない。少々頭に来てたメキボスは再び両手で剣を構える。
 「貴様こそ覚悟しろ。凶鳥の怒りを買った者はどうなるか、思い知るがいい」
 巨大な外腕部の拳を握り締めて、エクスバインボクサーの両拳が光って唸る。

 「ほざけ!!」
 「そんなもの、俺の拳を貫けると思うな!」
 メキボスが突き出した剣に対して、クリスはただ正面から拳でぶつける。
 パキィィィィィン!!
 念動力で包んだ拳の一撃で、メキボスの高周波ソードはシールドと同じ運命に辿った。
 「くっ! なら!!」
 両手の武器を失ったメキボスは腹部の砲口を開く。だが、それもクリスの予想内だった。
 「させるか!!」
 メキボスの腹部に膝蹴りで蹴り上げて、
 「ぶっ飛べ!」
 「くわっ!!」
 右ストレートでメキボスをグラウンドの壁際まで殴り飛ばした。

 「まだまだ終わりじゃないぞ!!」
 メキボスが飛ばされた場所へ跳び込んで、まだ立ち上がってない彼を掴んで地面に押し付ける。
 「パンチ地獄は、これからだ!!」
 左右の拳を目に留まらぬスピードで振り出して、地面にクレーターが出来てしまいそうな勢いでメキボスに絶えない爆打を浴びさせる。

 そして爆打の後、深く地面に埋もれたグレイターキンの頭部を掴んで引き攣り出して、
 「ラストスパート行くぞ!」
 抵抗する気力も失ったメキボスをアッパーで空中に打ち上げて、
 「落ちろ!」