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IS  バニシングトルーパー 015-016

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 話が決まって、全員が車に入っていく。ゼンガー、一夏と鈴は後ろの席に、クリスは助手席に、そしてレーツェルは運転席に座った。
 後ろ席にあるクッションは全部ブランシュタインの家紋が入っているが、突っ込まないことにした。

 「トロンベよ! 駆け抜けろ!」
 全員のシートベルトの着用を確認したあと、レーツェルはレバーを引いてアクセルを踏んで、車が走り出す。
 「安全運転を心掛けてくれ」
 「ふん、承知しているよ、我が友」
 「……」
 トロンベとは、エルザムがドイツの実家で飼っている黒き愛馬の事だ。偽名を使っているくせに、車を愛馬の名で呼ぶとか、本当は隠す気ないんじゃないかと疑いたくなる。

 「学園生活はどうだ?」
 ナビゲーターの指示に従って運転しながら、レーツェルはラジオのボリュームを少し下げて、隣のクリスにしか聞こえない声で彼に話をかけた。
 「えっと、それなりにうまくやってますよ」
 後ろにいる三人を一瞥した後、クリスは無難な返事をした。
 後ろの席では、ゼンガーと一夏が雑談していた。ジト目で一夏を睨んで不機嫌オーラを発散している鈴の顔から察するに、どうやら男二人の話題は千冬のようだ。

 「男子生徒は織斑一夏君と君しかないなら、色々と大変だろう」
 「いえ、そんなことは」
 「そうか。そういえば新型のヒュッケバインを使ってるそうだな」
 「はい。一応データ採集が目的ですからね」
 「MK-IIIも既にロールアウトしたのに?」

 このセリフを口にした時、レーツェルは片手をハンドルから離れて、サングラスを指で押し上げた。その時クリスが気付いたのは、そのサングラスのテンブル部にハースタル機関のロゴが入ってたことだった。

 ハースタル機関がサングラスを販売している訳がない。
 つまりそのサングラスは、待機状態のIS・ヒュッケバインMK-IIIタイプRだ。

 「そういうことですか……タイプRのパイロットって」
 「凶鳥乗りなら君の方が先輩だな。いつかお手合わせ願おう」
 「はい。機会があれば、是非」
 MK-IIIの納品時期から考えれば、レーツェルのIS経験もそれ程長くないはずだが、戦闘機乗りとしての空中戦経験とエルザムの高い射撃能力から考えれば、決して侮れる相手ではない。

 「織斑君も日本政府から専用機を受け取ったって話だったな」
 「政府としても、背景の簡単な彼の方が色々とやり易いということでしょ。初心者にはちょっと不向きな機体ですが、本人は偉く気に入ってますよ。姉と同じ武器を使えるからって」
 「姉弟仲睦まじくて、結構なことだ」
 「当たり前ですよ」
 「……そうだな」
 何か思う所があったようで、レーツェルは感懐深げな口調で呟いた。

 「でも、特別な所は何もありませんよ。あいつは」
 「まあ、今となっては、些細のことだよ」
 ISコアの性別制限問題を解決したいのなら、そんな先が見えない調査を進むより、イングラムと交渉したほうが余程建設的だ。

 「ところで、ハースタル機関のあのゲシュペンストってIS、後継機の開発プランがあったのか?」
 「ゲシュペンストですか……パーツとデータはすでにアメリカに売り渡しましたよ。後継機の開発プランなんてうちにはありません」
 情報は全部押さえたのに、まさかタイプRVのことにカマをかけているのではないかと疑いつつも、クリスはポーカーフェイスを貫く。
 タイプRVについてはクリスも詳しく知らないが、自分の会社と関連しているのは確かだ。

 「アメリカ?」
 レーツェルは意外そうな顔をしていた。
 「はい。だからゲシュペンストが欲しいなら、ラングレー研究所のマリオン博士に掛け合ってください。量産仕様の試作品も既に完成したって聞いてますし」
 「そうか、知らなかったよ。最近は訓練に打ちこんでて、そういう情報にちょっと疎いのでね」
 
 「しかし意外ですね。この情報を知らないでゲシュペンストに興味を持つなんて。ラファール・リヴァイヴに不満があるんですか?」

 「いや、そういうことではない。ただ、友人にゲシュペンストの良さを力説されたのでな」
 「そうですね。操縦者の技量をダイレクトに反映する機体ですから、使い手次第ではとんな相手とでも渡り合えますよ」
 「ああ、帰ったら情報を集めてみるよ」
 軽く頷いて、レーツェルはレバーを操作して、車のスピードを落とした。
 
 「ついたな。君達はこの辺で大丈夫か?」
 「はい。所で、レーツェルさん」
 「うん?」
 「えっとその……レーツェルさんの従妹の……」
 「気になるなら、自分から連絡を取ればいい」
 「……」
 歯切りが悪そうなクリスの言葉に、レーツェルはやや低い声で言い捨てるようなそう返した。それを聞いたクリスは、続きの言葉を出せなかった。