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IS  バニシングトルーパー 015-016

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stage-16 食通、来日 後編



車を一旦道端に泊めて、レーツェルとゼンガーは駐車場を探すと言って、車から降りた学生組三人とそのまま別れた。黒い車が街角に消えるまで見送った後、三人は百メートルほど歩いて、道路側にある一軒のラーメン屋に入った。
 隆聖がバイトしている店、「ラーメン北村」。結構古風に見える店構えで、中の空間はそれほど広くないが、店の内部はかなり清潔に感じる。

 「今月の営業成績トップも頂いたな、これが」
 「創造と破壊、破壊と創造……」
 「どうした? 頭がいかれたか? って、俺のつけ汁にビールを入れんじゃねぇ!」
 どこかで会ったことあるような客二人が居るが、気にすることはない。

 「おいっ、こっちだ」
 一夏達が店に入ってた途端に、奥のテーブルに座っている弾に声をかけられた。

 「すまんな、遅くなって」
 「いや、俺も来たばっかりで、注文もまだだ……って、鈴?」
 男二人の後ろに居るツインテール少女の存在に気付いて、弾は笑いかける。
 「ひ、久しぶり」
 「いつ帰ってきたんだよ。連絡くらいしろよ」
 「一夏のせいで取れなかったのよ」
 「俺のせいかよ!?」

 「久しぶりです、一夏くん。あれ? 鈴……ちゃん?」
 IS学園組の三人に冷やしを持ってきたウェイトレスが一夏に挨拶した後、隣に座っている鈴を見て驚の声を上げた。

 「久しぶりね、楠葉。この間はメールで連絡したでしょ……って」
 旧友と挨拶している途中に、鈴の声のトーンが明らかに落ちてきた。

 「……うん? どうしたの? 何で私の胸元を見るの?」
 自分の胸元を凝視して震えている鈴を見て、ウェイトレスは反応に困っていた。

 「裏切り者! 中一の時はあたしと大差なかったのに!」
 「えぇ――!!」
 大声を上げて、鈴が飛び上がってウェイトレスに襲い掛かった。

 「この子が君達が言ってた水羽楠葉って子か?」
 鈴と楠葉って子がじゃれ合っている間に、クリスは隣の弾に小声で耳打ちした。
 「ああ、そうだ」
 「何が……凄いな」
 「ああ、かなり凄いぞ。学校での人気も凄まじい。隆聖のせいで誰も手出しできないけど」

 青いショートヘアをしている水羽楠葉という女の子は、そのややベビーフェイスに見える可愛いらしい顔立ちと裏腹に、かなりグラマラスなプロポーションを持っている。今はTシャツとジーンズの上に店ロゴの入ったエプロンをつけた格好をしているが、その豊満な胸と細い腰は一目で確認できる。
 ある意味、顔から体型までお子様仕様の鈴にとっては天敵と言えるだろう。

 「何が凄いんだ?」
 二人の会話が聞こえたのか、一夏も男二人の会話に割り込んできたが、
 「「お子様はメニューでも見てろ!」」
 二人の見事にシンクロしたセリフに一蹴された。

 「誰がお子様なのよ!!」
 この単語が神経に触った、楠葉に絡んでいる鈴がこっちに怒鳴ってきた。
 ランチにはちょっと早い時間帯で、客も少ないので、店の迷惑になってないのが幸いだった。

 「まあ、落ち着け。ミルクでも飲んで大人になれ」
 「えっと、当店のメニューにミルクは……」
 クリスが鈴への冗談めいた言葉に、楠葉は真に受けて返事をしたが、それが鈴に更なるダメージを与えた。
 「余裕か! それが勝者の余裕か!」

 「ところで、ウェイトレスさん?」
 店の中を一通り見回ったが、自分をここに誘った張本人の姿が見えないので、クリスは楠葉に聞いてみることにした。

 「あっ、楠葉でいいよ。貴方がクリストフ君でしょ? 隆聖君から話を聞いたの」
 なんとか鈴から解放される楠葉は、伝票とボールペンを持ち直して返事をした。

 「ああ、じゃ俺の事もクリスっていいよ。隆聖のやつは中の方?」
 「隆聖君なら厨房の中にいるよ。まだ仕事中ですから」
 「そうか。なら先ず注文を決めよう」
 そういって、テーブルに囲んでいる四人は壁に掛けているメニューを読む。

 「うん……俺、塩ラーメンと味付け玉子」
 「醤油つけ麺で野菜をトッピング」
 「あたし、チャーシュー麺でいい」
 中学からの仲良し三人組は直ぐに決めた。
 「えっと、俺はこの究極!豚骨ラーメンをねぎ増量で、あと木耳、もやし、チャーシュー、それと餃子な。……うん?」
 注文を呪文のように唱えている途中に、クリスはメニューの最後に書いてあった文字に目を止めた。

 「……健康ドリンク? しかもこの値段って」
 ドリンクとしてはかなり高い値段になっている。
 「あっ、それは私の手作りです。材料費がちょっと高いからそういう値段になってますけど、健康に凄くいいですよ?」

 「「「……!!」」」
 同席の三人が楠葉の言葉を聞いた途端、顔色が青くなって体がぷるぷると震え始めた。
 「?どうしたんだお前ら」
 「「「べ、別に」」」
 「……なぜ全員目を逸らす」

 「あの、注文して……くれますよね?」
 「ああ……折角だし、それも頼んでおくよ」
 楠葉の不安に満ちた視線を向けられて、さすが彼女を断れるだけの器量はクリスになかった。

 「有難う! じゃ、ご注文を繰り返しますね、えっと……」
 自分の手作りドリンクが注文されたのが余程嬉しいのか、楠葉がにっこりと笑って注文を繰り返したあと、すぐ厨房に入って行った。

 「アンタの事、忘れないわよ」
 「俺もだ」
 「右に同じ」
 楠葉が厨房の中に消えたのを見た後、三人が急に意味不明な言葉をクリスにかけてきた。
 「何なんだ、一体……」
 「直ぐに分かるわよ」

 「頼もう」
 三人の謎な態度に首を傾けているときに、店の入り口からさっきまで耳にしていた声が聞こえた。
 「あれ、ゼンガー少佐にレーツェルさん?」
 振り返ってみると、そこに立っているのは、さっき別れたばっかりの二人だった。

 「クリストフ君……?そうか、此処が君の友人がアルバイトしている店か」
 奥の四人の存在に気付いて、レーツェルが近づいてきた。
 「あっ、はい。レーツェルさんたちはここでお昼飯ですか?」
 「ここに店主にちょっとな。ついてに昼飯もここで済ませておこうかと」

 「おや、聞き覚えのある声だと思ったら、ゼンガーとエルザムじゃないか」
 クリスとレーツェルが会話している間に、渋いおっさんの声が厨房の方から響いた。目を向けると、そこには頭にタオルを巻いて、厳しそうな目をしている髭親父が立っていた。ゼンガー程ではないが、かなり引き締った筋肉質な体をしている。

 「お無沙汰しております、開さん」
 「お久しぶりです。それと私の名はレーツェル・ファインシュメッカーです、エルザムなどではありません」
 開と呼ばれる男を見たゼンガーとレーツェルは、丁寧に頭を下げて挨拶した。

 「そうか。好きのところに座ってくれ、エルザム。ゼンガーもな」
 「はい」
 厨房に近いカウンター席に腰をかけたゼンガーとレーツェルは、メニューを読み始めた。

 「凄い、あの親父さんは何者だ……」
 「さあ……ここの店主の北村開さんだ。元軍人だとさ」
 レーツェルとゼンガーの言葉から察するに、確かにいかにも軍人の感じがする。三人が楽しく雑談している様子を見ると、かなり親しい間柄らしい。