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IS  バニシングトルーパー 017-018

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 教壇の上にいるシャルルと対視して、互いに笑い返す。ありがたいことに、どうやらクリスさっきの奇行はあまり気にしてないらしい。

 「ではSHRはここまで。午前は二組との合同授業でISの実習だ、速やかに着替えて第二グラウンドに集合するように。それと、ISスーツがまだ届いてない奴は必ず学園指定の物を着ろよ」
 IS学園は生徒にISスーツの自由選択権を容認している。そのため女子達にとって好きなデザインと仕様のISスーツを選ぶことは楽しみの一つになっている。所謂制服の可愛さで学校を選ぶ女子高生と同じ。

 「一夏、ちょっと」
 SHRが終わり、第二アリーナの更衣室へ向かうために教室から出ようとする一夏を、クリスが呼び止めた。

 「何だ? 早くしないと千冬姉に怒られるぞ」
 「すまんが、ちょっと二組に行って来い。あいつも多分場所が分からない」
 「二組?」
 「さっき聞いただろう? 二組も転入生が居る。恐らくうちの新人だ」
 「そうなのか? でも何故俺?」
 「実はその新人……お前の知り合いだ」
 「えぇ!? 誰だ?」
 「行けば分かるよ。俺はデュノアを第二アリーナに連れていくから、お前はちょっと二組の様子をみてきてくれ」
 「分かったよ」
 クリスに言われた通り、一夏は教室を出た後二組の方向へ向かった。彼を見送った後、クリスは教室の引き戸を閉めて、耳を立てて廊下の様子を窺う。

 「あの……」
 後ろにいるシャルルはクリスの行動の意味を理解できずに質問しようとするが、突如廊下に大量の足音が響き渡り始めた。
 「織斑君、発見よ!」
 「転入生も一緒にいる! 今度は陽気系よ!」

 まるで建物全体を揺らしてるような怒濤、正式名称「転入生の男の子を見に来た別クラスの女子達」が廊下を通っていく。そして震動が一分ほど続くと、段々遠くなっていく。
 どうやら、囮役の一夏は転入生を連れて別のところに逃げたらしい。

 「あの……今のは?」
 「男子は珍しいからな、見に来たのだろう。それより急ごう、男は第二アリーナの更衣室で着替えなきゃならんから」
 「あ、はい。でも織斑君は……」
 「大丈夫だよあいつらは。タフだし」
 教室から顔出して廊下を様子を確認したあと、クリスはシャルルの手を握った。女子達の黄色い悲鳴を無視して、二人は第二アリーナへ急行することにした。幸い一夏が好奇心満ちた女子達を惹き付けてくれたようで、二人は無事に第二アリーナに到着した。

 更衣室に入った時、時間はもうそれほど残ってない。しかし次の授業は千冬の担当、集合に遅れたら制裁を食らうことになる。急ごうとクリスはさっさと服を脱ぎ捨てて、自分の専用ISスーツに着替える。

 「SHRの時は変なことを言って、すまなかったな、デュノア」
 「いえいえ、気にしてないよ。それと、僕のことはシャルルでいいよ」
 「そうか、なら俺もクリスでいいよ。それでちょっと聞きたいのだが、シャルルってあのデュノア社の関係者?」
 背を向けたまま、クリスはさっきからずっと気になっていることを二人きりのこの時間を機に聞いてみることにした。
 一応ハースタル機関の本社もフランスに設けており、世界規模で有名なIS関連企業であるデュノア社とそれなりのお付き合いしている。とは言え、ハースタル機関は今まで技術とワンオフ機を売り物にしているため、ライバル関係という訳でもない。

 「えっ! あっ、はい……父の会社です」
 後ろから、シャルルのやや慌てたような返事が聞こえた。

 「へえ~御曹司ってことか。まっ、振る舞いに気品があるしな」
 着替えを終えて、クリスは制服をロッカーに仕舞いながらシャルルの方に視線を向ける。何時の間にかシャルルの方はとっくに着替えを終えて、微笑みながらクリスを待っていた。
 なぜか顔がやや赤くなっているが。

 「そんな風に……見えるのかな」
ま るで触れられたくない所が触れられたようで、シャルルは微妙な顔して目を逸らした。

 「とりあえずグラウンドに行こう。時間もギリギリだし」
 ロッカーのドアをバタンと音を立てて閉めて、クリスは更衣室から出ようとする。シャルルも彼の後を追うように歩き出した。
 「織斑君はまだ来てないけど、大丈夫かな」
 「……悲しいけど、これがこの学園なのよね」
 「はっ?」
 意味不明な言葉を呟きながら、クリスはシャルルを連れてグラウンドに向った。

 クリスも一応ハースタル機関の看板役を務めているので、関連企業のパーティーへの出席でデュノア社の社長と何回か挨拶したことはあるが、息子がいるなんて話を聞いてことがない。それなのにいきなりISを動かせる息子が、しかもこの時期で現れるなんておかしい過ぎる。ほぼ調べてくれと言ってるようなもの。
 (帰ったら調べてみるか)
 頭の中でそう考えなら、クリスはシャルルと一緒にグラウンドで並んでいるクラスメイト達の所へ向かった。

 時間ギリギリだが、幸い何とか鬼軍曹千冬にセーブにして貰えて、二人は行列の後ろの方に並んだ。丁度セシリアと鈴は二人の近くに居た。
 そして予想通り、鈴は浮かない顔をしていた。

 「す、すみません!」
 「お、遅くなりました!」
 クリスたちが並んだ後三分ほど経つと、息を切らして呼吸が荒れている男子二人がグラウンドに現れた。
 片方は見事に囮役をこなした織斑一夏君、今は恨めしそうな目線でクリスを睨んでいながら千冬に謝っている。
 そして一夏と一緒に頭を下げているもう片方の少年は二組の転入生にして、一夏のダチである伊達隆聖君だった。
 こっちは先日に会ったときの全然変わらない、本物だ。

 「初日の授業でいきなり遅刻してくるとはいい度胸だな、伊達。織斑も、新入生に案内したいのはいいが、一緒に遅刻しては本末転倒だぞ」
 処刑具の出席薄を握って、千冬は二人の前に立つ。
 「「す、すみませんでした!」」
 一夏は勿論として、どうやら隆聖も千冬の恐ろしさを知っているようで、声が裏返っていた。そういう所はちょっと鈴みたい。
 「まったく……今回だけは転入初日に免じて許してやる。さっさと列に並べ!」

 「「はい!」」
 意外とあっさり許された二人は、逃げるようにクリスとシャルルの後ろに並んだ。なんだかんだで千冬も事情をある程度理解しているのだろ。

 「よっ、案内ご苦労」
 「クリス、謀ったな! クリス!」
 「君はいい友人であるよ、フフフ、ハハハハ」
 一夏の恨み言に、クリスは小声で赤い彗星のように笑って誤魔化す。二人の隣にいる隆聖は初めてのIS学園授業に新鮮感を感じたのか、目をギョロギョロして周りを観察している。

 「まさかバカ隆聖がISを動かせるなんてね~」
 「あれ、どこから声が? まさかISスーツに光学迷彩機能が!?……って鈴か。すまん小さくて気付かなかった」
 「アンタわざとやってるでしょ!」
 神経が図太いのか、それとも本当に度胸があるのか、隆聖はさっそく鈴と軽口を叩き始めた。それを見たセシリアは呆れたような顔で二人を注意した。
 「まったく騒がしい人達ですわね、少し静かにできませんの?」

 「個性的な人達ですね……」