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IS  バニシングトルーパー 019

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 確かに、イルムの強さはクリスが熟知している。イングラムも彼の実力を認めているから、一人で行かせたのだろう。

 「暇してるくせに。本でも読んで見てはどうですか? 品性が身に付きますよ?」
 「てめえ、師匠に向かってなんて口の効き方だ。女だらけの学園に居るからって、調子に乗るなよ」
 イルムはクリスにとって、会社の中でも特に仲のいい先輩だった。普段から互いに軽口を叩いて、「クリスに変なことを教えるなよ!」とリンからよく釘が刺されるが、イルムはまったく気にすることなく、よくクリスを連れて会社近くの街でナンパする(主にまだショタだったクリスを餌に使うが)。

 「まさか。イルムさんみたいになりたくありませんので、そういうのはもう卒業しましたよ。イルムさんもいい年ですし、そろそろどうですか? マオさんもきっとイルムさんを待ってますよ?」
 「バカ言え。リンは確かに俺のエンジェルだが、俺には世の中すべての女性の幸せを見守る義務があるんだよ! 彼女達が幸せになるのを見届けるまで、諦められるか!」
 「……今の発言、録音しました。これはイルムさんの弱みを握ったと言ってもいいのだろうか」
 「てめえ! 何をする気だ!」

 「いいえ、どうもしませんよ。ただ、弱みは握った方が気持ちいいじゃないですか」
 「今度休暇取ったら日本に行くから、首を洗って待ってろよ」
 「はいはい、待ってますよ。因みにIS学園に入りたいなら、何か仕事的な理由を付けてください。多分マオさんには知られますが」

 「お前、本当いい性格になったな」
 「イルムさんのお陰じゃないですか」
 「ふん、生意気なやつめ。学園生活はどうだ? あっ、女だらけだから、部屋も女の子と相部屋だったりする?」
 「違いますよ。新しく入ってきた男の子だ」
 イルムに言われて、クリスは自分のベッドで荷物整理しているシャルルに視線を向ける。クリスの視線に気付いたシャルルも「うん?」と顔を上げて、彼を見返す。
 簡単な仕草だが、なぜかシャルルの無邪気な瞳にクリスの悪戯心をくすぐられて、意地悪な言葉を口にした。

 「……でも、女の子みたいに可愛い。これで本当に女の子だったら、今頃ベッドに押し倒して、優しく抱きしめて耳元に甘い言葉を囁いてる所だ」
 「なっ!」
 普段のクリスから考えられない発言だが、やはりイルムと久しぶりの電話で、昔のことを色々と思い出して浮き足立っているのだろう。

 しかしこの言葉を聴いて顔が一瞬で真っ赤なリンゴみたいになり頭から湯気が立ち上がってきたシャルルは、荷物の整理を中断して枕を抱えたままベッドの上で身悶えた。

 「クリスよ、先輩として忠告しておく。男に走っちゃいけません。どんなに可愛く見えても、最後は必ず脚や腕の体毛が凄いことになる」
 「……分かってますよ。何その実体験みたいな忠告。オカマに騙された経験でもあるんですか?」
 「な、何バカなことを! っと、カップ麺が出来た。今日の所はここまでな。いい暇潰しになったぜ」
 「それは何よりだ。録音データは後でコピーを送りますので、ご確認を」
 「なんの嫌がらせだよ!」

 「やれやれ、イルムさんも相変わらずだな」
 携帯電話を机に置いて、既にメンテを終えた義手のパーツを組み立てて、再び手袋をつける。
 結構物騒な任務中って話だが、イルムの実力は信頼している。それよりも久しぶりに仲良しの兄貴分と話ができて、クリスは結構嬉しかった。

 「さて、こっちの方は終わったな。シャルルの方はどうだ? クローゼットのスペースは足りてる?……って」
 荷物整理を手伝おうとシャルルの方に近づいてみると、なぜかベッドに座ってるシャルルは顔を枕に埋めて、そのさらさらの前髪の奥から上目遣いでやや恨めしい視線を向けてきた。

 「どうした? さっきの事が気になるのか? 悪かったって。軽いジョークだろう? 男ならこれくらいのことは笑い流してくれ」
 「も、もう知らない! クリスの変態!」
 軽くシャルルの肩を触れようとするが、その前にクリスの視界は白くてふわふわとしたものに塞がれた。
 シャルルが投げた枕だった。

 「ふん!」
 枕をどけると、シャルルは既に布団の中に入って横になった。背をクリスに向けたまま、表情も見せない。

 「変態って……俺が悪かったよ、機嫌を直してくれ。今度美味しい店に連れて行くからさ。俺の奢りで」
 枕をシャルルの側に置いて、クリスは苦笑いしながら謝り続けるしかない。反省はまったくしてないが。

 「ま、抹茶カフェに連れて行ってケーキを奢ってくれたら、許してあげる」
 ケーキの奢りで何とか妥協してくれた。さすがに初日でルームメイトに嫌われたら手に負えない。

 「はいはい、仰せのままに」
 シャルルの機嫌が直るなら、ケーキの奢りなんて安いもんだ。そう思って、クリスは歯磨きを済ませて電気を消した後、自分のベッドに潜り込んだ。最近は学年別トーナメントに備えてハードな授業が増えてきたので、あまり夜更かしできない。

 「なっ、クリス。まだ起きてる?」
 暗い部屋の中、シャルルは沈黙を打破した。
 「なに?」
 「さっき携帯を渡す時に偶然見えちゃったけど、あの待ち受け画面の人って……」
 「ああ、凪沙さんだ。綺麗な人だろう?」
 「……女の敵」
 「はっ?」
 「奢りのケーキ、二個! ドーナツもつける!」
 「太るよ?」
 「大丈夫なの! 太らない体質なの!」
 「……はいはい、二個でも三個でも、ワンホールでもお好きなだけ」
 「ふんっ!」
 なぜか機嫌が微妙に悪化したようだ。




 「ジャイアント・リボルバー、ランダムシュートオォォ!!」
 ババババババっ!!
 爽快感マックスの銃撃音が、グラウンドに響き渡る。

 「へへぇ~どうだい? 俺の早撃ちは」
 前方180度範囲に展開された複数の的に表示されている命中マークを確認した後、R-1を展開している隆聖はドヤ顔で実弾拳銃「G・リボルバー」の銃口を口元に寄せて、硝煙を吹く仕草をした。

 土曜の午後に、皆は一緒に練習場で練習をしていた。土曜の午前は理論授業しかないが、午後は自由なので、大半の生徒は開放中のアリーナを利用して真面目に練習している。
 とは言え、男子四人が集まっている第四アリーナの人数は別のアリーナより明らかに混んでいるところを見ると、やはりあまり真面目とは言えないかもしれん。

 「驚いたな。さすがは全国ゲーム大会の準優勝者と言った所か」
 後ろに立っているクリスは全的の命中位置を確認した後、素直に彼を褒めた。
 的は全部十個以上、距離は二十メートル程、高さがそれぞれ違うし静止している訳でもない。にも関わらず命中位置は全部的の真ん中、しかもそれは二丁拳銃の連続射撃によって一瞬で終わった事。とても昨日まで素人だったとは思えないほどの射撃腕だ。

 「まっ、射撃にゃちゃいと自信ありだからな。これくらいなら」
 「あなた、本当に素人でしたの?」
 クリスの隣にいるセシリアが、疑いの目で隆聖を見る。