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IS  バニシングトルーパー 019

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 先ほど、ブーステッドライフルを使って隆聖の狙撃能力も披露してもらった。さすがにセシリアには及ばなかったが、それでも同年代の生徒の中ではトップクラスの成績に違いない。

 「恐るべし日本のゲームメーカーと言いたい所だが、なんて一々武器の名前を叫ぶながら凝ったポーズを取るんだよ。次の行動がバレバレじゃないか」

 因みに今クリスは一夏の射撃武器性質の指導をシャルルに任せて、セシリアとふたりで新米の隆聖を監督していた。

 「いや、そうは言っても、これは俺のイメージをまとめるために必要な……」
 「……どこかで聞いたような言い訳だな」
 「うぐっ」
 セシリアが胸元を抑えて視線を逸らす。

 「やれやれ……別の掛け声はダメか? 狙い撃つぜとか」
 「ほう~悪くないな。採用だ」
 「はぁ……」
 隆聖の訓練は至って順調。飲み込みの速度は一夏以上で、要領もいい。武器の簡単説明をしただけで、その性質を完全に理解できた上でうまく使いこなす。本人曰く、ゲームとほぼ一緒とのこと。  
 射撃を完全に無視した白式と違い、R-1は念動力攻撃手段の不安定さを補うために実弾武器を主に装備しており、スペック上では一応全距離対応可能になっている。しかし今の隆盛の能力を考えれば、射撃訓練の時間を少し減らして、別の項目に当てた方がいいだろ。

 「射撃はもういいか? なら俺の格闘訓練に付き合ってくれよ。この念動力発生装置ってやつを試してみてぇんだ。脳波をトレースしてかめはめ波を撃つ装置だろう?」
 何言ってんだこいつ。そりゃ、撃てないこともないけど。
 クリスは詳しく説明したはずなのに、なぜか隆聖はそういう風に理解してしまった。

 視線を一夏とシャルルの方へ向けると、丁度一夏がシャルルの補助でライフルを撃ってる所だ。どうやらそっちの心配は要らなさそうだ。

 「よっ、そっちはどうだ?」
 ふっと一夏もクリスの視線に気付いて、一旦銃を降ろしてシャルルと一緒に近づいてきた。嬉しそうな顔しているところを見ると、シャルル先生のありがたい講義に収穫があったようだ。

 「いや、生徒が優秀すぎてボクサーで殴ってやろうと思ってる所だ」
 「何それ、優秀なのに殴るの?」
 「生意気だからな」
 「クリスお前、最近千冬姉に影響されてないか?」
 「まさか」
 冗談交じりの会話を交わしつつ、アリーナの大時計を確認すると、時間が結構立っていたことに気付く。

 「どうしたの? これから用事?」
 オレンジ色の愛機「ラファール・リヴァイヴ・カスタムII」を纏ったシャルルがクリスの視線に気付いて質問した。
 量産機をベースに改造したカスタム専用機とシャルルの冷静安定な戦闘スタイルとの組み合わせは中々に強力で、先ほどの模擬戦で一夏の白式を完全に圧倒した。
 「いや、今夜の学食は限定メニューがあるから、遅れないようにって思ってな」
 隆盛の訓練に付き合って晩飯の時間を遅れたら嫌だけど、仕事放棄もしたくない。

 「うん~それにしても、今日の見学者はやけに多いな」
 確かに一夏の言うとおり、今日の第四アリーナの観客席の埋め具合もいつもより凄い。男子全員が集中していることが関係しているのだろう。
 練習機の数に限りがあるため、グラウンドに入れない女子生徒達はおとなしく観客席で見学するしかない。そして一夏に言われて全員が観客席に目を向けると、女子達から嬉しい声が上げてきた。

 「よし、じゃ今からファンサービスということで、隆聖と一夏が模擬戦をやってみないか?」
 「「えっ?」」
 クリスの唐突な提案に、当事者二人が鳩が豆鉄砲を食らったように驚いた。

 「悪くない提案と思うが、どうだ? 隆聖は接近戦闘の経験が欲しいし、一夏も銃撃の対応法を実践したいのだろう?」
 クリスも何もノリだけでこの試合を提案したわけではない。T-LINKシステムの最適化すら終ってないR-1に、手頃の対戦相手が必要だった。それに一夏と隆聖との競争関係を確立させれば、これからの練習にもいい影響をもたらせそうだ。

 「まっ、強制する気はない。どちらも降りたければ止めはしない。特に隆聖にとっては初試合だから、無理してR-1を壊されたらかなわんし、一夏もいきなり初心者に負けたら立場がないからな」
 「だ、誰が!」
 「その話、乗ったぜ」
 隆聖と一夏も年頃の男の子、簡単に挑発されただけで直ぐに乗ってきた。そもそも模擬戦自体は互いのためになるから、断る理由もないし。

 「決まりだな」
 単純なやつらでよかったと思いつつ、シャルルとセシリア達と一緒に周囲の生徒に協力してもらって、少し広い場所を作ってもらった。幸い周囲の生徒もいい人達で、すぐに承諾してくれた。
 
 「えぇ、ではルールを説明する」
 シャルル達と観客席に座ったクリスはアリーナのバリア越しで、グラウンドで睨み合っている二人に声をかけた。

 「ルール? エネルギーシールドをゼロにすれば勝ちじゃないの?」
 「いやいや、一夏よ。お前はもう何ヶ月やってるんだよ、初心者相手に大人げないぞ。というわけで、一夏にはハンデをつける」
 「ハンデなんていらねぇよ」
 隆聖は不満そうなに眉を寄せてそう言う。

 「まっ、これは俺が一夏に課すハンデだ。お前はお前で全力を出せばいい」
 「それで、どんなハンデ?」
 「先ず、零式白夜の使用と、空中戦闘を禁ずる」
 「まっ、妥当だな。いいぜ」
 零式白夜はエネルギー性質のものを消滅させる効果を持つので、さすがにこの試合では使うべきではないし、空中戦闘禁止は経験が乏しい隆盛への配慮。

 「それと、一夏はエネルギーシールドが50%以下になった時点で敗北とする」
 「「「えぇぇ?」」」
 一夏以外に、いつのまにか後ろの席に座った箒と鈴の声が聞こえた。
 エネルギーシールドが半分以下に削られたら負け。これは一夏と白式にとってやや厳しい条件だ。
 一夏の戦闘はいつもギリギリまで削られて、零式白夜の奇襲による一発逆転を狙う。いわば「肉を切らせて骨を断つ」のスタイルだが、この戦闘スタイルをクリスはあまりよく思っていない。いい機会だし、早めに直させるべきだと判断してクリスはこのハンデを決めた。

 「ちょ、ちょっと待てよ、いくら何でも50%じゃ」
 「無理と思ったらこのハンデを無視すればいい。昨日まで素人だった相手にギリギリまで削られて、虚しい勝利を噛み締めるといい。因みに織斑先生にはメールをしておいた、後で観戦しにくるかもしれないな」
 「くっ、卑怯な! 」
 切り札の姉が出されては、一夏も尻込みをしてはいられない。さすがはシスコン、扱い安いこの上ない。

 「因みに負けた方には罰ゲームが用意されてある」
 「「罰ゲーム!?」」
 「ああ、眼帯をつけて月曜のSHRに出席して、先生に言われたら『この目には闇の力が封印されてるから』と答える」
 「痛い! 痛過ぎる!」
 「まっ、いやなら負けないことだ。そろそろ準備はいいかお二人?」

 手を上げたクリスの用意の合図を見た二人が視線を相手に戻した瞬間、場の空気は一瞬で変わった。