IS バニシングトルーパー 019
さっきからちらっとしか見てなかったが、一夏の耳にはクリスとセシリアの驚き声がしっかり届いた。隆聖はさすがにゲーム得意だけあって、射撃の腕は中々のもの。しかし今のところ隆聖の経験不足もあって、クリスの配慮でR-1の接近武器はナイフしか装備してないし、空中機動もまだまだ入門しただけ。なら実戦の経験と格闘の攻撃力は一夏に分がある。
逆に隆盛から見れば、一夏は近接武器しか仕掛けてこないため、距離を注意しながら射撃で迎撃すればなんとかなる。だが隆聖はそんな大人しい理論派ではないので、既に格闘戦やる気満々である。
二人の頭の中では、既に相手を倒す算段を立て始めた。
場内の緊張した空気と違い、観客席はやや騒がしい。
「はい~ただ今伊達君の倍率は1:6なっておりま~す。まだまだ受け付けますよ~一人様は学食デザート券三枚まで~」
小さな紙ボックスを抱えて、本音は観客席の中で歩き回りながら呼びかける。
「俺の取り分も忘れるなよ」
「あはは、くりんも人が悪いのう~」
「頭ぐりぐりするぞ」
「いや~セクハラされる~」
観客席から微妙にムカつく呼び声が聞こえたが、気にしない。二人はそれぞれ雪片弐型と二丁のG・リボルバーを握り締めて、開始の合図を待つ。
「じゃ~始め!」
パっ!
クリスの号令と同時に、隆聖はトリガーを引いた。さすがに早撃ちに自信があると自慢しただけあって、かなり素早い動きだった。
しかし、一夏にとっても予想中のことで、地面を蹴って身を横へ移動して銃弾を避けた後すぐに距離を詰めてきた。
「何の! ゴールディオンナァァイフッ!」
数発の銃弾を撃った後、隆盛も後ろへ後退する。一夏の直線加速力はR-1より早い、武器の切り替え速度がまだ遅い隆盛では、すぐに接近されたら対応できない。数歩引いた後、隆盛は片手の拳銃をコールドメタルナイフに切り替えて、一夏に向かって接近する。
「せいっ!!」
「ハッ!!」
キィッ!!!
一夏は飛び上がって隆聖の上方から雪片弐型を振り下ろし、隆聖はナイフを逆手に持ってその刃で対抗する。両者の刃物が衝突して、金属の摩擦により火花が飛び散る。
しかし、ナイフで雪片弐式を受け止めようとするのはさすがに無理があった。あり過ぎた質量の差で、隆聖は吹き飛ばされて地面に叩きつけられた。
この一撃のダメージは、しっかりとR-1のエネルギーシールドゲージに反映された。
「よし、もう一撃!」
地面にへばっている隆聖へ突進して、一夏は再び刀を構えて追い討ちかけようとする。
「これで!」
「見切ったぜっ!」
一夏が全力で刀を振り下ろした瞬間、隆聖は横へ転がって斬撃をかわした後、立ち上がって雪片弐型を左側の脇に挟んで、一夏の横っ腹に蹴りを入れる。
「くっ!」
「オラオラオラオラ!」
蹴りの後、G・リボルバーを逆手に持ち、トンファーのように構えて後端を使って一夏の胴体を連続に殴る。
普通の拳銃ならこういう使い方はできないが、R-1の専用のG・リボルバーはそういう使い方もある程度想定していたので、壊れることはない。
「放せってんだよ!」
「うわっ!!」
最大にして唯一の武器が拘束されて、反撃もままならない一夏はやけになってスラスターを全開にして隆盛にタックルする。みっとも無い攻撃だが、隆聖に刀を放させる効果はきちんと奏した。刀を自由を取り戻した一夏は一旦距離を取って、再び攻撃をチャンスを伺うが、一息つく暇もなく隆聖の銃弾が飛んできた。
「チンピラかこいつら……というか武器の名前も間違ってるし」
男二人の熱い殴り合いに、観戦しているクリス達は唖然としていた。
隆聖の行動はまったくセオリーを無視して一方的に猛烈な攻撃を加えるだけで、一夏は近接攻撃しようにも、隆聖の奇行にベースを乱される一方。
隆聖の戦闘センス自体はかなりのもの。白式は雪片弐型しかないため、その大きさ故に攻撃動作はどうしても大振りになる。しかしR-1は武器の威力の低さと引き換えに、小回りが利くという利点を持っている。そして隆聖本人はそれをきちんと理解していて、上手く生かしている。
とは言え、二人の経験の差は一夏に大きなアドバンテージをもたらす。隆聖の動きに段々なれてきた一夏は少しつづ自分のベースを取り戻し、数回の鋭い反撃で隆聖の消耗率が大分酷いことになっている。
「しかし、一夏の回避も上手くなって来たな。シャルルのお陰かな?」
感心したような口調で、クリスは隣のシャルルに話しかける。
知能のある人間とただ軌道に沿って移動する的の差があるとは言え、隆盛の射撃命中率は明らかに訓練の時より大分下がっている。それは一夏がシャルルの講義を受けて実弾銃の性質に対する理解を深めたからだろう。
「一夏は飲み込みが早いからね。でもクリスはなんて射撃武器を講義してあげなかったの?」
「うん~白式は射撃武器の対応プログラムすらないからな。一層のことゼンガー少佐みたいに剣を極めたら、そういう所はカバーできるんじゃないかって思って。それに、剣術練習の時間が減ったら困るじゃないか。なっ、篠ノ之」
意地悪そうな顔で、後ろへ振り向いて箒に同意を求める。すると箒はいつも通り顔を赤くして狼狽した声で照れ隠しをする。
「な、なぜ私に聞く! 私はただ、頼まれただけで!」
「へぇ~じゃ明日から別の練習時間に変更しようか? レッスンを頼めるかな、鈴先生?」
「あ、あたしは構わないのよ。どうしてもって言うなら」
「それはやめてくれ!……っあ」
急に焦って大声を上げて立ち上がったが、周囲の注目が自分に集まったことに気付いて、箒を真っ赤な顔を手で隠して再び席に座った。
「冗談だよ。安心しろ」
「「むっ!」」
「すまんって、後でデザート券あげるから」
後ろから刺さる乙女二人分のキツイ視線を流しつつ、クリスは満足したような表情で再び視線をグラウンドの中に戻す。
「クリスって、やっぱり女の敵だよ」
「えっ」
顔をそっぽに向けて、シャルルはわざとクリスだけに聞こえる声で呟いた。
グラウンドの中、戦いは一夏が隆聖を窮地まで追い詰めた場面まで来ている。さすがというべきか、今の所一夏はまだハンデの条件を守っているが、それもかなりギリギリの所まで来ている。
ふたりの顔は汗塗れになっているが、それでもまばたきもせず相手をじっと見据えている。恐らく次にどちらがダメージを負った時、勝敗は決まってしまうのだろう。双方もそれを理解していて、相手の出方を伺っている。
「所で、鈴」
「何?」
観客席まで漂ってきた緊張な空気の中、クリスは振り返って後ろの鈴に話しをかけた。
「一夏って、隆盛と中学の時喧嘩したことがあるって言ったよね」
「言ったわよ。それがどうしたの?」
「理由はお前を取り合うため?」
「ち、違うわよ! 隆盛の好きなアニメを、一夏がちょっとバカにしただけ! 次の日は勝手に仲良くなったけど。本っ当にバカなやつらなんだから」
「アニメ? タイトルは?」
「バーン……なんとかってロボットアニメだったけ」
「超機合神バーンブレイド3?」
作品名:IS バニシングトルーパー 019 作家名:こもも