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IS  バニシングトルーパー 020

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 「……これからどうするんだ?」
 「どうするって……」
 今後の予定って話になると、シャルルは再び顔を曇らせた。

 「事情がばれた以上、本国に呼び戻されて、牢獄生活……かな」
 「そういう話じゃない。お前の意志を聞いているんだ」

 「えっ?」
 「お前がどうしたいんだ? デュノア社に戻って道具として生きたいか? それとも自由を手に入れたいか?」
 「自由に選ぶ権利なんて、僕にはないよ……」
 「そんなの関係ない、お前の望みを言え。自己意志の無い人間が嫌いだよ、俺は」

 「分からない……僕の意志なんてちっぽけすぎるよ……」
 シャルルの声が弱々しくて、すぐにでも消えてしまいそうだ。
 本国に戻ったら国からの制裁が免れん。かと言ってずっとここに居座るのも不可能。三年間過ぎたら逃げ場がなくなるし、その前に政府からの干渉を受けて引き渡されるのも十分にあり得る。

 IS学園はどの国の干渉も受けないと自称しているが、それは絶対のことじゃない。シャルル一人を匿ってもなんの利益も得られないなら、フランス政府が暗中に干渉してきても誰も文句を言わないだろう。

 「ちっぽけでもあるにはあるだろう。言って見ろ、それを実現するために俺が手を貸そう」
 真剣そのものって顔をしているクリスの口調は、とても嘘には聞こえなかった。
 この人なら、目の前にいるこの少年なら、自分を助けてくれる。クリスの言葉はシャルルをそう思わせた。

 「僕は……」
 シャルルは唇を動かして、自分の本心を曝け出す。
 「ぼくは……僕は、僕はあの冷たい場所に戻りたくないよ……」 
 本音を吐き出したシャルルは深呼吸して息を整えて、指で顔を拭く。それを見たクリスはハンカチを差し出す。 

 「よく言ったな。助けてやるよ。だが、条件がある」
 「条件?」
 「ああ。今すぐじゃなくてもいい、お前が友達だと思っている範囲の人間に、自分から真相を話す。それがシャルルを助ける条件だ」
 「……わたった」
 例え許して貰えなくても、自分のケジメは自分でつける。クリスの条件の意味を理解したシャルルは、力強く頷く。

 「でも助けてくれるって、どうやって?」
 「うん……デュノア社の本社をうちの怖い兄さんたちに掃除してもらうというのはどうだ? 跡形も残せず綺麗にやってくれるだろう」
 いきなり物騒な提案が出てきた。勿論そんな方法では何も解決できないので、これはただの冗談。

 「えぇぇえ!! ダメだよ!」
 「チッ。じゃ、現実的な方法として一番簡単なのは、お前をお前の父から奪い取るって方法だ」
 「そんなの、できるのかな?」
 「お前は運がいい。今だからこそ可能だ。安心しろ、シャルルの自由は……俺が取り戻してやる」
クリスの口元に、自信あふれた笑みが浮び上がる。
 本社からのメール内容は、調査結果以外の内容も書かれていた。シャルルを助けるチャンスなら、今しかない。

 「ちょっと電話してくるから、その間で顔を洗った方がいい。可愛い顔が大変なことになってるぞ」
 「えっ」
 クリスに言われて、シャルルは洗面所に駆け込む。鏡を見ると、涙でぐちょぐちょになっている自分の顔を映っていた。
 先ほど感情が高ぶったせいで、体中も汗まみれになっている。

 「ちょ、ちょっとシャワーを浴び直すから、その、の、覗かないでよ?」
 洗面所から顔を出したシャルルは、気恥ずかしいそうにそう言った。

 「安心しろ。俺は見たい時堂々と見るから、覗きなんて主義じゃない」
 「もう~クリスの変態!」
 「うわっ!」
 シャルルが投げたものから回避しつつ、クリスは携帯を持ってベランダに逃げ込んだ。

 静かな夜景を眺めつつ、携帯の登録番号から姉の名前を探し出し通信ボタンを押した。今の時間帯なら多分仕事中だが、多少の迷惑をかけることになっても、シャルルのためなら仕方ない。コール音が数回鳴った後、聞き馴染んだ声が聞こえた。

 「あっ、ヴィレッタ姉さん?」
 「クリス? この時間で電話は珍しいね。何か用事?」 
 「あっ、はい、ちょっと頼みたい事があるんだけど……」
 「頼みたい事? また女の子絡み?」
 「えぇっ! まだ何も言ってないのに!? というかまたってなに!」
 「クリスは昔から、女の子絡みの事しか頼んでこないじゃない」
 「そうだったのか!?」
 自分が自分のことで驚くクリスだった。だが言われてみればそんな気がする。

 「そういえば、先日イングラムが日本に行った時貰ったレストランの招待券をクリスの所に送ったんだけど、ちゃんと届いた?」
 「ああ、届いたよ。でも勝手に使っていいのか?」
 ガラス越しに、机の上にある封筒に目をやる。

 「いいわよ。期限は明日まで、二人用だから友達と一緒に行ってきなさい」
 「……有難う。それで話を戻すけど、頼みたいことと言うのは……」

 三十分ほど姉と話し込んだ後部屋に戻ると、シャルルは既にジャージ姿のままベッドの上で静かに寝息を立っていた。今夜の出来事で疲れていたのだろう。やれやれと布団をかけてやった後、クリスも入浴の準備を始めた。
 
 布団の中で、シャルルの寝顔は安らかな表情をしていた。きっと、自由を手に入れた夢に見ているのだろう。その子供のような無邪気な顔を見て、無意識なうちにクリスはにやけていた。
 「今のうち、レストランの予約しておくか」
 着替えの服をベッドに置いて、クリスは再び携帯を持ってベランダに出た。



 シャルルとクリスの話はひとまず中断して、ここから話題を変える。

 ISというもの、表面上では軍事利用が禁じられているが、実質上では各国が自分の軍事力を体現していると言っても過言ではない。まるで核弾頭のように、使うことが無くても手のひらに握っていないと安心できない。民間ではスポーツと見られていても、強力な兵器であるその本質に疑う余地はない。
しかし、ISは本来人類が宇宙へ踏み出すための方舟であったことを、忘れずにいる人間が居た。パイロットをさまざまな危険から守る優れた生命維持機能、いかなる状態でも稼動可能の環境適応性。そこに十分な移動能力を加えれば、恒星間の移動も不可能じゃない。
 
 そんな夢を見る人達は、アメリカに居た。
 
 プロジェクトTD。それは恒星間の移動を可能とする、宇宙探索用のISを開発するプロジェクトだった。しかし、ヒューストン基地で行われているこのプロジェクトの現状は、あんまり期待されたものではなかった。
 
 最も真っ当な意見は、そんな計画は非現実すぎるという声だ。元々人型のISは宇宙空間作業用のスーツであって、探索艦そのものの代用品ではない。ISコアの数が制限されている上に、プロジェクトの要である加速技術もまだ不完全。メンテナンスフリーすら実現できてない今、ISで出発した所で、宇宙空間の補給拠点もない現状ではどうしようもないし、戻れなくなったら大事だ。
 
 なら、なぜこのプロジェクトTDが許可されたのか、その答えは簡単だ。