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IS  バニシングトルーパー 021

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 ゲシュペンストMK-II改は実にいい機体だと、アクアは心の中で称賛していた。確りした質量感を持ちながら、鈍さを感じない。高いスペックでありながら、大出力に振り回されない。自分の中に芽生えた機体への絶大な信頼は、いままで体験したことのない経験だった。
 (マリオン・ラドム博士って、きっと丁寧で優しい人に違いないわ!)
 壮絶な勘違いではあるが、これでアクアも自分の作戦を実行する決意ができた。


 ドドドドォォォン!!
 敵から、再びミサイルが撃ちだされた。しかしそれを合図に、アクアは動き出した。

 「今よ! イグニション!!」
 チャージ完了したF2Wキャノンを、ロングレンジモードで前方180度範囲に掃射。野太いエネルギーで、ミサイルは次々と爆発する。それと同時に、スラスターを全開にして突撃する。
 
 「先ずは牽制をするわ! スプリットミサイル!!」
 バックパックのウェポンラックに固定されている二つのミサイルコンテナが点火した。敵に向かって飛びつつ高度を上げて、解体したミサイルコンテナ中に内蔵されいているのは、大量なミサイル。
 まるでシャワーのように、空中から敵へ注ぐ。それを見た敵は一瞬迷ったあと、回避のためにミサイルの発射を中断して無限軌道で後退しつつライフルをアクアに向ける。

 しかし、その一瞬の迷いがアクアに隙を与えた。

 「そこ! 貰ったわよ!」
 弾幕が薄くなったこの一瞬で、アクアは既に敵をF2Wキャノンのショートレンジに入れた。高速の連射によって、敵のライフルを命中して破壊した。そして次のタイミングで、マイクロミサイルが敵周囲に着弾して、爆発が塵煙を巻き起こす。これを機に、アクアはさらに突進して、格闘距離まで近づいた。
 敵はまだソリッドカノンが生きていた。長い砲身を動かして、アクアを捉える。威力の高いこの武器、この距離では精密な照準は無理だろうが、一発でも当たればまだ距離が取られてしまう。
 だが、アクアの信じている。このゲシュペンストなら。丁寧で心優しいマリオン博士(未対面)が作ったこのゲシュペンストMK-II改なら!

 「多少の無茶は……!」
 全身の力を振り絞って、左腕のプラズマ・バックラーを唸らせる。
 「承知の上だ! 喰らいなさい! ジェットマグナム!!」

 ドカーン!!!
 ジェットマグナムが命中するのとほぼ同時に、敵のソリッドカノンが発射した。だがアクアの必殺の一撃を叩き込まれた敵は後へ吹き飛ばされたせいで、カノンの弾道が完全に外れた。
 「まだ終わりじゃないわよ!」
 砲身を完全展開したF2Wキャノンの砲口から、すでに溜め込んだエネルギーが発射寸前になっていた。
 「これも持って行きなさい! ディスチャージ!!」
 ビシャァー!!!

 最大出力のビームを至近距離から照射。凄まじい威力が周囲の木や土も巻き込んで、エネルギーの激流の中に飲み込んだ敵を焼き払う。

 チィィィ……
 溜め込んだエネルギーを一気に吐き出したF2Wキャノンから大量な蒸気が放出されるのと同時に、冷却剤が蒸発される音が聞こえる。
 煙霧が段々と晴れて行く。やがて見えたのは、真っ赤に焼かれた溝の中で、全身から火花を散らかして片膝ついている敵の姿だった。

 「さぁ、ISの展開を解除して投降しなさい」
 砲身を畳んで銃口を向ける。敵はかなりのダメージを負ったはずだが、ISを解除しない限り油断できない。
 敵はいまだにヘルメットをかぶっているため、表情を確認できない。

 「早くしなさい! さもないと……」
 プラズマステークを軽く放電させて、恐喝する。しかし、その次の瞬間に、右後から強烈な衝撃波が、アクアの身を襲った。

 「乱黄龍!!!」
 「きゃぁぁぁつ!!!」
 防御体勢も取れずに、アクアはゲシュペンストMK-II改と共に吹き飛ばされた。

 「……威力と命中精度は中々のものだが……趣味じゃないな、これが」
 「な、何者!?」
 辛うじて身を起こして、アクアは自分に不意打ちをかけた相手を見定める。

 赤い砲撃機をかばうように、新たに出現した敵ISがアクアと砲撃機の間に立った。
 人間の筋肉のような形をしている生物感の満ちた青と白の装甲、肘についている研ぎ澄ました刃のような実体ブレード、各部に設けられている赤いレンズ、そして両側にヒゲのようなアンテナを備えているフェイスガード。
 まるで、拳闘士のようなISだった。

 「不意打ちなんて卑怯な真似をしたのは不本意だが、生憎こっちにも事情があるんだな……これが」
 「お、男!?」
 砲撃機の操縦者と違って、こっちの敵はオープンチャンネルを使って通信してきた。しかも聞こえたのは、若い男の声だった。

 「撤退しろ……後は俺が引き受ける」
 「待て!」
 「お前の相手は俺だ、女」
 男に言われて、砲撃機の方は無言に後退を始めた。それを阻止しようとするアクアの前に、男が立ち塞がる。
 男のIS操縦者が現れたのは驚きだが、日本ではすでに特例が存在しているため、特に取り乱すようなことではない。それより、目の前の男はやる気満々のようで、交戦は避けられそうな雰囲気ではない。

 「さっきはよく汚い真似をしてくれたわね!」
 再びF2Wキャノンを構えて、男と対峙する。さっき食らった一撃は重かったが、エネルギーシールドの貫くほどのものでもない。正面からやる合うなら、勝機があるはずだ。

 「言ったろう? 事情はあるって。だが、大人しく機体を渡せば、これ以上手出しはしないと約束しよう」
 両手を拳にして胸元に合わせて、男はアクアの見下すように余裕的な態度を見せる。
 まるで、アクアを圧倒できる絶対的な自信を持っているように。

 「笑わせないで! 誰がテロリスト何かに!」
 アクアも軍人としても誇りを持っている。それにわずかな時間だが、アクアは既にゲシュペンストMK-II改に対して愛着が湧いてきた。

 「そうか……なら仕方ない。力尽くでいただくまで!」
 叫びと共に、ゲシュペンストMK-II改のセンサーは相手から高いエネルギー反応を検出した。
 しかしセンサーに頼らなくても、男から放出されているオーラのようなものが、ダイレクトに肌を刺激してくる。
 これは、数え切れないほど殺し合いを経験して来た冷酷な戦士だけが発する、殺気そのものだ。

 「くっ! させない!」
 本能的に危険だと気付いたアクアはF2Wキャノンのトリガーを引いて、ビームを撃ち出す。しかし、
 「消えた!?」
 ビームの行き先に標的は既に居ない。外れたビームが地面に命中して、アクアは周囲を見回す。
 「どこ! どこ行ったの?」

 「この切先、触れれば切れるぞ!」
 「なっ!!」
 シャッ!!
 至近距離から、まるで耳元に囁くように突然に響いた声と同時に、アクアは踵を返して振り向くが、男の肘についている刃は既に目の前に迫っていた。咄嗟の反応でF2Wキャノンを盾代わりに使ったが、一発で両断された。
 「しまった! キャノンが!!」

 「武器の心配してる場合じゃないぞ! 」
 空気が切り裂かれる音と同時に、アクアの至近距離に侵入した男はもう一度ブレードで切りかかる。