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IS  バニシングトルーパー 022-023

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 トレイをテーブルに置いて、やや自己嫌悪気味のシャルロットは深いため息をついた。
 (どうしたのだろう……私)
 さっきクリスとセシリアの遣り取りはいつもと大して変わらない。クリスと会った時から二人はあんな感じだったし、恋人同士じゃないのも分かっている。なのにあの光景を見ていると、どうしても自分を抑えられない。
 本当はクリスに色々してもらった立場だから、こんな態度を取るべきではないのは分かっているのに。
 (私って、嫌な子って思われちゃったのかな……)

 「よっ」
 「うわ!」
 いつの間にか後ろに立ったクリスにいきなり話かけられて、危うく椅子から落ちるところだった。

 「もう……脅かさないでよ」
 「あはは、ごめん」
 「あれ、セシリアは?」
 「ああ、部活仲間達と会議があるって、あっちに居るよ」
 トレイを隣の席に置いて、パンにバターを塗り始めたクリスの視線の先に、セシリアは数名の女子達と一つのテーブルを囲んでいた。

 「さっきのパンチは結構凄かったよ、本当に」
 「ご、ごめん……怒った?」
 「いや、別に」
 まったく気にしていない様子で、クリスはパンを口に運ぶ。しかし原因も訊ねて来ないなんて、これはこれで何か寂しい。

 「クリスはその……セシリアみたいな子がいいの?」
 フォークで目玉焼きを突いて、溢れ出してくる黄身をぼうっと見てシャルロットは小声で呟いた。
 「可愛いとは、思ってるよ」
 シャルロットの顔を見て、クリスは自分の簡潔な意見の述べた。
 「そ、そうだよね……綺麗だし、スタイルいいし、名門出身だし。私みたいな香水の一つも使わない田舎娘なんて……」 
 意外とショックを受けたシャルロットは、自虐的な言葉を口走った。だがそれを聞いたクリスは、シャルロットが自分を殴った原因を察した。

 「……なるほど。それでご機嫌斜めか」
 口を拭いて、クリスはシャルロットの肩に手を置いて、彼女の首元に顔を寄せた。
 「な、何をするの?」
 突然な行動に驚いて逃げようとするシャルロットを、クリスは肩を掴んで逃がさない。
 「……いい匂いしてるよ、シャルロットの体から。肌だって凄く綺麗だ」
 少し首元から離れて、今度は耳元で囁く。
 「えっ?」
 「シャルロットは香水を使わなくても十分以上に可愛い女の子だよ。魅力は誰にも負けてない」
 二人きりのときは本名で呼ぶ。それが二人の約束。

 「……っ!!」
 慌てて胸元を押さえる。でないと、ドキドキ心臓が飛び出しそうだったから。
 耳まで真っ赤に染まった顔を隠すようにうつ伏せてるシャルロットを見て、クリスは満足したように笑った。
 「……シャルロットを不安にさせたのなら謝るよ。でも嫉妬してくれるのは嬉しいけど、女だらけの学園で円滑な人間関係を維持するために、ああいうのは多少仕方ないよ。わかってくれ」

 「だ、騙されないよっ! どうせ他の子にも同じこと言ったでしょ?」
 胸がこんなに締め付けられているのに、自分だけ余裕そうに笑いながらパンを齧っているクリスの笑顔が何か憎たらしい。
 「シャルロットだけだよ、今のところ」
 精一杯の抵抗をしたのに、あっさりとかわされた。しかし最後の言葉は聞き捨てならない。

 「……今のところってどういう意味?」
 「……」
 「……」
 「言ってないよ」
 「いやいや絶対言ったよね! 今のところって!!」

 「お前ら、何騒いでんだ?」
 「おはよう、お二人」
 二人の会話に割り込んできたのは、トレイの持っている隆聖と一夏だった。

 「ああ、おはよう。丁度いい、今度の週末一緒に遊びに行かないかって話してたんだけど、お前らの予定はどうだ?」
 隆聖と一夏が来たのを見て、クリスは別の話題を振った。シャルロットは不満そうだが、さっきの話題をこれ以上続けるわけにも行かない。
 「俺なら別にいいよ。練習以外に予定ないし」
 「俺はお袋の所に顔を出さねぇとダメけど、午後なら合流できるぜ?」
 「そうか、なら具体的なことが決まったらまだ声をかけるよ」
 
 「了解~ところでR-1の汎用武器を追加したいけどさ、どこに申請すればいい?」
 「武器の追加? 今のエクスバインはAMボクサーを収納しているから、汎用武器のいくつは外して整備室に保管してもらってるけど、お前が欲しいなら譲ってもいいぞ」
 「本当か!? じゃあのでかいハンマーをくれよ」
 「それは無理。ブーストハンマーは譲らないから」
 「待って隆聖。あのハンマーを先に予約したのは俺だ!」
 「白式は追加武装が収納できないし、お前は自力で運ぶのか?」
 元々マリオン博士が自分のストレス解消のために作った武器だが、男の子たちには大人気である。男は意外とそういう武器に惹かれ易いらしい。

 「……女の敵」
 高鳴っていた心臓がようやく落ち着きを取り戻して、胸を撫で下ろしたシャルロットは恨めしい目で隣のクリスを睨んで、そう呟いた。



 朝食を済ませて教室に行ってしばらくすると、SHRの時間に入った。
 そしていつものように、教壇に副担任の真耶、教室の隅に担任の千冬が立った。
 少し違うのは、教壇の上にはもう一人の女の子が立っていることだった。

 銀色の長髪をしていてその小柄の女の子は、左目に大きな眼帯をしている。スッとした立ち姿と全身から放っている冷酷な雰囲気で、軍人であることを人に知らしめる。

 「え、えっと、今日も皆さんに嬉しい知らせがあります……」
 引き攣った顔で、真耶はクラスの生徒たちに話し始めた。
 お前の顔は全然嬉しそうに見えないぞ、山田先生。
 「また一人、クラスに新しい仲間が増えることになりました。こちら、ドイツから来たラウラ・ボーデヴィッヒさんです」
 と、真耶は自分の隣に立っている少女を生徒達に紹介した。

 「どういうこと? 転入生がこんなにいるなんて」
 「確かにね……」
 教室の中にひそひそと、疑問に感じた生徒達は小声で騒ぎ立てる。
 確かに不自然だとクリスも思うが、判断する材料もないので、ひとまず静観することに決めた。

 「挨拶をしろ、ラウラ」
 「はい、教官」
 「ここではそう呼ぶな。私はもう教官ではないし、ここではお前もただの一般生徒だ。先生と呼べ」
 「了解しました」
 新しい転入生であるラウラは、千冬のことを教官と呼んだ。
 ふッと、かつて千冬がドイツでIS戦技教官をしていたことを、ゼンガー少佐から聞いたのをクリスは思い出す。
 (なるほど……やはりドイツの軍人か)
 エルザム少佐やゼンガー少佐の影響で、クリスは割りとドイツ軍人に好印象を抱いている。

 「ラウラ・ボーデヴィッヒだ」
 「・・・・・・・」
 一瞬で終わった。

 「あ、あの以上・・・・ですか?」 
 「以上だ」
 生徒の素っ気無い態度で、真耶は泣きそうだ。しかし自分の副担任に目もくれずに、ラウラは生徒の顔を見回って何かを探っていた。
 先ずは一瞬クリスの顔を睨んで、次はシャルロット、そして最後は一番前の席に座っている一夏をロックオンした。
 「……?」
 一夏は訳が分からないよって顔をしていた。

 「貴様か!!」

 パッ!