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IS  バニシングトルーパー 022-023

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 素早い動きで教壇から降りて、ラウラは一夏の席まで歩いて彼を平手で叩いた。
 あまりにも突然なことで、クラスの生徒は誰も彼女が何をしたのかを理解できなかった。

 「いきなり何をしやがる!」 
 顔の叩かれた部分を押さえて、一夏はラウラを睨みつける。しかしラウラはまるで動じることなく、一夏を見下す。 
 「私は認めない。貴様があの人の弟であるなど、認めるものか!」

 その言葉に含まれている感情は、激しい怒りだった。



 「んで、結局一夏はあの子に何をしたんだ?」
 午前の授業が終わり、いつものメンバーは学食に集まって昼食を取っていた。
 無論、話題はSHRに起きた衝撃的な出来事だった。

 「何もしてねぇよ……初対面だし」
 ラウラに叩かれた痛みを思い出したのか、一夏は眉を寄せて自分の頬を押さえながら料理を口に運ぶ。

 「じゃなんでアンタが叩かれたのよ?」
 「そうだぞ一夏! 本当に何もしてないのか?」
 話しを聞いた鈴は納得していないようで、箒も不満そうな顔で一夏を睨んでいた。

 「いいからさっさと白状しろよ。小さい頃に結婚の約束したとか、校舎の裏でぶつかって胸を触ったとか、何かあるんだろう?」
 「いや本当にないって」 
 「そうか? まぁ、どの道またお前に突っ掛かって来そうだから、気をつけろ」
 そう言いながら、クリスは学食の隅で静かに食事しているラウラを眺めた。
 軍人だからか、機械的なリズムでスプーンを口に運ぶ今の彼女はとても物静かに見える。だがやはり今朝の一件で誰も彼女に近づかずに、あのテーブルは彼女一人しか居ない。

 「へえ~あいつか。とてもあんな過激なことをするような子には見えないな」
 シーフードカレーを掬っている隆聖は、自分がラウラに対する第一印象を述べた。
 「何だお前、ロボット以外に生身の女にも興味を持てるのか?」
 「そういうことじゃねぇよ……ったく、からかうなよ」
 約一名が叩かれて不満そうにしているが、これはいつもの仲良しメンバー達の食事風景であった。

 そしてクリス達が騒ぎながら食事している間、一人の少女は学食の入り口に現れた。

 良好なプロポーションにフィットした白いIS学園女子制服を纏い、背中まで伸びる長い金髪を揺らす。やや硬い表情の彼女は自分のトレイを持って、ラウラの居るテーブルまで近づいて話しかけた。
 「ボーデヴィッヒ少佐、こちらに居ましたか。同席してもいいんでしょうか」
 そして話をかけられたラウラは目を上げて、相手の顔を確認した後彼女の名を口にした。

 「……ガーシュタイン少尉か」

 ラウラの前に立ったのは、彼女と同じドイツ軍所属している天才少女、レオナ・ガーシュタイン少尉だった。

 「ぷぅぅうっ――!!」
 「いきなりどうしたのクリス?!」 
 「大丈夫かクリスさん!?」
 後ろの方向から誰かが噴いた音と、心配そうにしている二人の声が聞こえた。

 「……」
 居るのは知ってた。気にしないで自分の本分を果たせばいいと思った。だがこの名前を耳にしたレオナは、身を振り返して視線を向ける衝動を抑えきれなかった。

 「あっ」
 「……っ」
 口元を拭いている銀髪少年と、目が合った。
 あの優しくしてくれて、笑顔を取り戻してくれて、そして勝手な考えで自分を突き放した少年の顔が、はっきりと視界に映った。



 同時刻、IS学園最寄の軍用空港のヘリ駐機場に、一台の大型輸送用ヘリがゆっくりと地面に降りた。
 プロペラの回転が完全に止まった後、ヘリ後方の扉が開いて、中から人間二人が降りてきた。
 白衣を着た学者風の三十代赤髪女性と、白いジャケットと赤いミニスカを着て、金髪ポニーテールしている二十代の女性だった。 
 二人は降りた後、ヘリの横で空港スタッフを指揮して、ヘリの中身を搬出する作業を始めた。

 「さて、果たしてあの学園に、私のMK-IIIに相応しい人材が居るのかしらね……」

 搬出された大きなコンテナを我が子を愛しむような表情で見上げて、赤髪女性は愉快そうな口調でそう呟いた。

 そのコンテナの表面には「Gespenst MK-III」の文字が、プリントされていた。