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IS  バニシングトルーパー 022-023

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 しかし、この時隆聖は既に握り締めたR-1の拳に、粉砕の念の篭めた。
 「T-LINKナッコォォォ!!」

 パァァン!!
 R-1の拳が砲弾と衝突して、爆音と共に炸裂した。破裂した弾頭の破片が、地面に落ちて音を立てる。

 拳で砲弾を打ち砕く。絵的に格好いいかもしれんが、はっきり言って馬鹿のすることだ。拳の念動力に守られていたからR-1は無事だったが、そうでなければ即修理工場送りだ。

 「いきなり何をしやがる! やる気がないつってんだろうが!」
 やや痺れた拳を下ろして、隆聖はラウラと睨みあう。
 「貴様は……」
 自慢のレールカノンの砲撃を拳一つで砕かれて、しかも相手はまったくの無傷。ラウラは驚きを感じながら視線を一夏から隆聖へ移る。
 「喧嘩したいなら降りて来い! 俺が相手になってやる!」
 「ふん、いいだろう。織斑一夏への見せしめとして、先ずは貴様を……!」

 「……もうこれくらいにしてはいかがですか? 少佐」
 いつの間にか、蒼と黒のツートンカラーのISが、ラウラと隆聖の間に立った。
 「あっ」
 少し離れた所にいるシャルロットが、小さな驚き声を上げた。

 「……貴様まで私の邪魔をするか、ガーシュタイン少尉」
 いかにも気に食わないって顔でラウラはそのISの主に敵意に満ちた視線を向ける。
 蒼と黒のツートンカラーISは、レオナ・ガーシュタインが軍から託された専用機IS・ズィーガーだった。両手にブレードレールガンを握ったレオナは今、隆聖に背を向けてラウラと対峙する。

 「さすがにこれ以上は見過ごせません。どうしてもと言うのなら、私が相手致します」
 レオナの目は本気だ。ラウラがこれ以上続くのなら、本当にラウラと敵対するだろう。

 「ふん、少尉ごときが。ブランシュタイン家の分家出身だからって上官に指図するか!」
 「ここは学園です。軍の階級と関係なく学園の秩序を守るべきです」
 「ふざけるな! そこにいる間抜けが居なければ、教官は……!」
 まるで親の仇を見るような目で、ラウラは一夏を睨む。

 「コラ! そこの生徒何をやっている! 名前と学年クラスと言え!」
 アリーナ内のスピーカーから、監督先生の声がグラウンド全体に響き渡った。教師達は揉め事に気付いて、注意しに来た。

 「……チッ」
 これ以上やっても時間の無駄だと理解してか、ラウラはISを解除した。発進口に立って順次に一夏、隆盛、そしてレオナの顔を睨んだ後、ピット搬入室の内部へ消えた。
 「「ふぅ……」」
 とりあえずこの場は何とか無事に済んだ。緊張を解けた男子二人は胸を撫で下ろして、大きな息を吐いた。

 「大丈夫?! 隆盛、一夏!」
 「俺は大丈夫だ。それより隆聖の方は大丈夫か?」
 「俺も問題ねぇよ。さすがR-1、中々に頑丈だぜ」
 心配そうな顔で近づいてきたシャルロット達に聞かれて、隆聖は腕を振ってみせる。確かに少し痺れた感じがしたが、今では完全に元通りだ。

 「まったくとんだ無茶しますわねあなたは。拳ではなく、シールドで防げば宜しかったのではなくて?」
 呆れた表情で、セシリアは肩を竦めた。
 「いや、いきなりすぎて考える暇もなかったぜ」
 「ハァ……どうやらもっと厳しくしないと行けませんわね」 
 「おお、上等だ!」

 場の空気はいつも通りに戻ってきて、周囲の生徒達も練習を再開した。そして自分の練習を再開する前に、隆聖と一夏はまだ近くにいるレオナに話しかけた。

 「あっ、さっきはサンキューな。お陰で助かったぜ」
 「いいえ。私の方こそ同じドイツ軍人として、謝らなければならないわね。本当に迷惑をかけて申し訳ないわ」
 そう言って、レオナは本当にISを解除して頭を下げた。

 「いやいや、別にお前が悪い訳じゃないから、謝らなくても。でもあのラウラってやつ、なんで一夏に喧嘩を売ったんだ?」
 「さぁ……さすがにそこまでは」
 「そうか。困ったな……まぁとにかく有難うよ、えっと……」
 「……レオナ・ガーシュタインです」
 無表情に自分の名を名乗りながら、レオナは周囲の顔を順次に目を通す。

 「……クリスなら、今はここにいないよ」
 「……っ!」
 後からレオナに声をかけたのは、さっきからずっと彼女を観察しているシャルロットだった。

 「貴方は……」
 クリスと知り合いだってことは誰にも言ってない。だが目の前にいるこの金髪少年だけは自分が無自覚にクリスの姿を探していたことに気付いた。
 可能性としては、クリスがこの少年に教えた以外にない。
 あの自分の事を話したがらない馬鹿が自分の過去を他人に教えるなんて。会わないうちにあの馬鹿が変わったとても言うのか、それともこの少年だけが特別なのか。
 そう思って、レオナはシャルロットに少し興味が湧いてきた。

 一方、シャルロットはまったく別のことを考えていた。
 (む、胸はすこし負けてるけど、全身スタイルのバランスは負けてない……よね? でも肌とか凄く綺麗だ……)
 要は女性としての戦闘力を測っていた。しかも自分の方がやや劣勢なのを否めない。
 こんな綺麗な女の子なら、好きになっても不思議じゃないよね、男の子なら。
 朴念仁とロボマニアしかないからサンプリングはできないけど。

 「……シャルル・デュノアさんでしたわよね。私と、模擬戦して頂けないかしら」
 数秒間見詰め合った後レオナの口から出たのは、模擬戦の申し出だった。
 ここはアリーナ、相手を知るにはまずISの腕からというのも悪くない。フランス代表候補生の専用機持ちなら、それなりの腕があるのだろう。

 「えっ」
 意外な申し出に、シャルロットは面食らった顔していた。
 レオナが訓練生時代ではクリスより強いという話は聞いている。そしてこの歳で軍から専用機を与えられている所を見ると、今でもかなりの実力を持っているのだろう。
 確かクリスも最初は彼女の強さに惹かれてたんだったな。
 ただの模擬戦だ、別に勝ち負けに執着する必要はないけど、もう直ぐクリスが来るんだから、少し自分の格好いい所を見せよう。

 「いいよ。レオナさんには負けないから」
 「……?」
 相手に予想以上の対抗心を持たされた理由は分からんが、とりあえず模擬戦の準備を始めるレオナだった。


 ここから少し時間を遡って、一組のホームルームが終わった所まで戻す。
 切らした目薬を貰うため、教室から出たクリスはシャルロット達と別れて一人で保健室へ向かった。
 しかし正直に言って、本当はアリーナに行きたくないから適当な理由をつけただけだった。
 原因は、二日前の夜に貰ったメールの内容。

 『明日アンタの学校の第四アリーナで私の最高傑作の適格者選抜をやるから、来なさい。マリオン・ラドム』
 マリオン・ラドム博士。カーク先生の元奥さんで、ハースタル機関の最初のIS・ゲシュペンストの開発者の一人。
 才能は確かだが、発想が怖い。
 一言で言えば、IS方面のマッドサイエンティストだ。