IS バニシングトルーパー 025
シャルロットの迷いを、クリスは見逃さない。もう一度ボクサーの腕のグリップを握りなおしたクリスは、シャルロットにパンチを放つ。
しかしその時、上空から光線の雨が降ってきた。
「あまりシャルルちゃんを苛めちゃダメよ!」
空から降り注ぐビームはクリスの足元の地面に当り、塵を舞い上がらせて小さな穴を抉る。
ゲシュペンストMK-IVからの支援砲撃だった。どうやらセシリア一人ではエクセレンを抑えきれなかったらしい。しかしここで引いて距離を取られたら、シャルロットに突進力を発揮させるチャンスを与えることになる。
「うわぁぁあ!!」
クリスが撃たれる覚悟で放たれたの一撃を受けて、シャルロットとゲシュペンストMK-IIIは後ろへ吹き飛ばされ、地面に倒れた。それを確認したクリスは直ぐに高度を上げながらグラビトンライフルを呼び出して、セシリアの支援に向った。
二対二のはタイマンと違って、自分の相手を捌けたら直ぐパートナーの支援に回して二対一の状況を作れば、自分に有利な方へ運べる。
「シャルル・デュノア……もう少し乱暴に扱っても大丈夫と言ったのに。やはり前の機体を使ってる時の癖、まだ抜けてないわね」
モニター室でゲシュペンストMK-IIIの稼動データをチェックしているマリオン博士は口元を歪めて、不満そうに眉を顰めた。
今のシャルルはゲシュペンストMK-IIIのパワーに振り回されることを恐れて、癖の強い機体で無理にバランスの取れた戦い方をしようとしている。それではゲシュペンストMK-IIIの真価を発揮できない。
「昨日では問題なかったに……何が足りないの?」
手を口に当てて、マリオン博士は考え込む仕草をした。
一方、空中の方ではクリスの予想通り、セシリアはエクセレン相手に苦戦していた。
全神経を集中しても相手の攻撃を避けるが精一杯で、回避の後狙いを定めようとしても、相手の動きを捉えきれない。
「あんな無茶苦茶な機動の後、オーバーヒートの一つも起こさないなんて!!」
「うふふ~ヴァイスちゃんの足の速さ、知らないでしょ?」
流れるような高速移動しながら、パルチザン・ランチャーを槍のように振り回して一瞬で正確無比な狙いをつけてトリガーの引く。余裕な笑みを浮かべているエクセレンはセシリアに向けて、まったく容赦のない攻撃をしてくる。
装甲を限界まで削って最大限の軽量化を図り、大量なバーニアだけを積んで手に入れた他のISと一線を画す破格な機動性、そしてビームと実弾を両方撃てる大型銃・パルチザン・ランチャー。この二つの武器を最大限に活かしているエクセレンを前にして、高機動射撃戦に特化されたはずのブルー・ティアーズとセシリアもただ翻弄される一方。
(確かにクリスさんが言ってたとおり、この状況でビットを使ったら、一瞬で落とされますね……!!)
この状況でビットを飛ばしたら、ただの的になる。
認めたくないが、エクセレンの射撃センスは自分より上だということをセシリアは自覚している。
クリスは無理に攻撃せず、相手の注意を惹き付けて且つ自分を落されなければいいと言ったが、本当は目の前にいるエクセレンを自分で落していい所をみせるつもりだった。しかし現状を見えると、それも非現実的だということを悟った。
だがこれくらいで潔く負けを認めるほど、セシリアはやわじゃない。
「せめて、クリスさんの邪魔にだけは!!」
牽制のつもりで二発のホーミングミサイルを射出した後、スラスターを全開にしてゲシュペンストMK-IVを追いかけて、スターライトMK-IIIを連射する。
どうせ精密射撃のチャンスがないなら、自分の勘で狙いをつけるまでだ。しかしまるでセシリアの考えを読んだように、エクセレンは振り返って自分の後を追ってくるセシリアに笑みを見せ、パルチザン・ランチャーを抱えたままホーミングミサイルに向けて左腕にある3連ビームキャノンを突き出した。
「まだまだ甘いわよん~」
ビュッ!
エクセレンの迎撃で爆発したミサイルの煙霧によって、ゲシュペンストMK-IVの姿が隠された。それを見たセシリアは後退しつつ煙霧に向かってトリガーを引いた。
しかし、ビームに貫かれて晴れていく煙霧の中は何もなかった。
「なっ! 消えた?」
「はいはい~こっちに注目!!」
「後っ!?」
一瞬自分の足を止めた隙で、エクセレンはセシリアの後を取ってパルチザン・ランチャーを突きつけた。トリガーを引く音を背後から聞こえてきて急いで振り返っても、もう間に合わない。
自分の牽制が逆に相手に利用され、完全に弄ばれている自分が悔しい。
「捉えた!!」
間一髪のタイミングで下方からエクセレンを狙う砲撃が来た。回避行動を優先したエクセレンはバーニアを噴かしてセシリアから離れた。
この一瞬でセシリアも体勢の整えて、エクセレンと距離を取る。
「無事かセシリア!?」
エクセレンを狙ってグラビトンライフルを発射しつつ、クリスのエクスバインボクサーは高度を上げてセシリアと合流した。
「はっ、はい!!」
「なら連携で行く。援護をしろ!!」
「わかりました!」
エクスバインボクサーでは遠距離の撃ち合いに対応しにくい。ダメージを稼ぐにはまず接近しなければならんが。MK-IVの機動性を考えるとクリスだけでは困難だが、セシリアの支援があれば何とかなりそうだ。
「ファング・スラッシャー!!」
エクスバインの左肘にある十字型ブーメランをボクサーの腕に投げた後、グラビトンライフルを撃ち続けながらスラスターを全開にしてゲシュペンストMK-IVへ突っ込む。
「わお! 切り裂き天国ってやつ? でも、当たらないわよ!!」
ファング・スラッシャーとグラビトンライフル、そしてスターライトMK-IIIの攻撃を避けつつ、エクセレンは攻撃目標を機動力がやや低いクリスの方に移ってきた。パルチザンランチャーのバレルが上下交互に作動して、実弾とビームが混じった弾幕がクリスへ降り注ぐ。
しかしパルチザン・ランチャーの砲撃に向かって、クリスは突進の勢いを緩めない。自分が的になることで、後方のセシリアは精密な射撃ができるようになった。セシリアの連続精密射撃、そして念動力で操作されて飛び回るファング・スラッシャーで、二人はエクセレンの高速移動を一定範囲に制限した。
そこに、クリスの接近するチャンスが生まれた。
「ボクサーのパワー、味わえ!!」
「残念、これじゃ当たらないわよん~!!」
ボクサーの拳を唸らせて、クリスは自分の間合いに入ったエクセレンに殴りつける。対してエクセレンはそれを下方への移動で回避した後、三連ビームキャノンを向けた。格闘戦の機体に距離を詰められた以上、パルチザン・ランチャーが破壊されないように気をつけねばならん。
しかし、エクセレンがクリスへの対応に気を取られている間に、彼の巨大機影に隠されているセシリアの動きを見落としていた。
三連ビームキャノンを突き出した瞬間、エクセレンは四枚のフィン状パーツに囲まれた。
「セシリア!!」
「はい!! 撃ちなさい、ブルー・ティアーズ!!」
作品名:IS バニシングトルーパー 025 作家名:こもも