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IS  バニシングトルーパー 025

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 鋭い爆音と同時に貫通されたような痛感が体に走り、エクスバインボクサーがこの一撃で後ろへ撃ち飛ばされていく。弾薬が爆発する寸前に体を斜めにして衝撃を僅かに逸らしたのが精一杯だった。歯を食いしばって痛みを耐えながら、クリスはスラスターを噴かして、地面に僅かにめり込んだボクサーの足で踏ん張って、何とか踏み止まる。
 しかしクリスに息を整える暇を与えることなく、シャルロットは次の攻撃を仕掛けてきた。

 「このまま全弾を!!」
 「させるか!!」
 もう一度突きり出されたリボルビング・ブレイカーを装着しているゲシュペンストの右腕と、チェーンガンを向けてきた左腕をクリスはボクサーの手で掴んで、両者は力比べの押し合いに入った。

 「クリスさん……ぎゃっ!!」
 掩護射撃しようとするセシリアにビームと実弾の雨が降り注いだ。慌てて移動しながら視線を上空へ向けると、舌なめずりながらパルチザン・ランチャーを構えているエクセレンが見下ろしていた。  
 「はいはい~セシリアちゃんの相手はこっちよ!!」
 「くっ……失態は、二度と晒しません!!」
 応戦以外の選択肢はない。スターライトMK-IIIをもう一度構え直して、セシリアは上空へ飛び立った。

 「クールぶってるくせに、女なら誰でもいい顔する! 僕の気持ちを知ってるくせに!! このスケコマシが!!」
 「ここは女子ばっかりだから仕方ないだろう!」
 「そんなの言い訳よ! 今夜だってセシリアの部屋に行くんでしょう!」
 「誰も行くとは言ってない!!」
 「だったらどうしてそんな話になったのよ!! ちゃんと言ってくれれば、僕だって……!!」
 「落ち着け!!……ちっ、仕方ない!!」
 完全にキレてる今のシャルロットに話し合いの効果は薄いと判断して、クリスは地面を踏ん張って腕に力を篭める。
 力押しなら、負けはしない。
 「パワーなら、ボクサーが上だ!!」
 「こっちだって!!」
 リボルビング・ブレイカーと5連チェーンガンが抑えられていても、抵抗の術ならいくらでもある。体勢を調整して機体の重心を少し低くした後、ゲシュペンストMK-IIIのバーニアが再び吼え出した。
 「押して、MK-III!!」

 「何っ!!」
 パワーでは勝っているはずなのに、この馬鹿げた推進力の前でクリスは自分が非力にすら錯覚する。
 「ならば!!」
 相手は重装甲の機体、至近距離の格闘戦における手数ならボクサーの方が圧倒的に多い。足を動かして、クリスは膝蹴りを繰り出す。
 しかしその前に、シャルロットは光の粒子を頭の上に集中させた。粒子が刃の形へ形成していくのに合わせて、シャルロットは首を動かしてそれを振り下ろして、クリスの胸部装甲へ切り刻んでくる。

 「なんてものをつけてんだ!! 有り得ないぞ!!」
 慌てて後方へ飛び下がってその斬撃をかわした後、クリスは抗議の声を上げた。
 ダレイズ・ホーン。ゲシュペンストMK-IIIの頭部に装備している角のような実体ブレード。端から見ると確かにかなり非常識な武器ではあるが、両手が封じられた状態で奇襲をかける緊急用武装としては十分に効果があった。

 「ただの通信アンテナと思ってたのに!」
 「伊達や酔狂でつけてるわけじゃないよ!!」
 クリスの後退によって一旦距離を取れたこのチャンスで、シャルロットは両肩部コンテナのハッチを一斉に開放した。
 今のボクサーとの距離は丁度いい。
 跳弾の心配のないし、クリスが攻撃範囲から逃れる心配もない。

 「しまった!!」
 コンテナの中だけでなく、三段式ハッチの裏すら隙間なくびっしりと並んでいるクレイモア弾が視界に飛び込んだ瞬間、顔色が真っ青になったクリスは両手の前に構えて、AMボクサー内蔵の補助ジェネレータによってさらに強化された防御の切り札を発動した。
 「保ってくれよ……G・テリトリー!!」

 「レイヤード・クレイモア! 全弾、持って行って!!」
 近距離から、MK-IIIの肩部コンテナに内蔵されている炸裂鋼球弾がまるで雪崩のような勢いでクリスへ噴出された。
 「無茶苦茶な武器だな!」
 バリアに直撃して炸裂した鋼球弾の爆裂音が耳元に長々と鳴り響き、クリスは眩暈すら感じる。
 G・テリトリーを温存していなかったら、これで一発KOだって有り得る。しかしこれでこの模擬戦での二回目の使用は、ほぼ不可能になった。

 「このままでは……!!」
 今のシャルロットと正面からやり合うにはリスクが高いと判断して、クリスは一時後退を選んだ。しかし体勢も整えてないうちに、シャルロットは距離を詰めてきてもう一度リボルビング・ブレイカーを突きつけた。
 そこには、エクスバインボクサーの胴体部があった。
 「逃がさない!!」
 撃鉄の上げて、リボルビング・ブレイカーの回転式弾倉に残っている五発分の弾薬が連続に爆発した。先端の杭が押し出されて、クリスのエネルギーシールドに猛撃を重ねる。
  
 「うわぁぁあ!!」
 連続して轟く激しい爆発音と共に内臓に響き渡った衝撃で、苦しそうに口元を歪めたクリスは一気に壁際まで吹き飛ばされて、舞い上がった塵埃の中に埋もれた。

 「そこで大人しく反省するといいよ!!」
 振り出した右腕の回転式弾倉から排出された空薬莢が地面に落ちて、チリンチリンと音を立てた。新しい弾薬を手動で装填した後、そう言い放ったシャルロットは高度を上げて、エクセレンの支援に向った。


 「これよ! これが待っていたのよ!!」
 今まで黙っていたマリオン博士はいきなり席を立ち、興奮に満ちた顔でモニターに向って歓声を上げた。
 「あの……ラドム博士? あまり『そう! ドンドン押して行くのよ!! 素晴らしい!!』ひぃっ……!!」
 マリオン博士の興奮にビックリした真耶は話をかけようとしたものの、まったく耳に傾けてもらえなかった。
 「……」
 涙目で自分のスーツの袖を掴んでいる山田真耶の手を振り解いて、千冬は顔を逸らして三歩ほど後ろへ下がった。


 空中では序盤の時とほぼ同じ状況。相変わらずゲシュペンストMK-IVの並外れの機動性にセシリアは翻弄されていた。
 「は、速すぎますわ!!」
 地面の状況を気にしている余裕なんてない。一瞬でも集中を切らせば銃弾が飛んでくる。この模擬戦で、セシリアはつくづく自分の未熟さを思い知らされる。

 <警告:下方から敵ISが高速接近中>
 
 「なっ!!」
 AIの提示に従って慌てて注意を向けると、ゲシュペンストMK-IIIを纏っているシャルロットが自分へ高速で突っ込んでくる姿を目に映った。
 「クリスさんがやられましたの?!」
 頭の中に、最も信じたくない状況推測が過ぎった。しかし、彼女に他人を心配している余裕を与えられることはなかった。

 「エクセレンさん、連携攻撃で行きます! 僕に合わせてください!!」
 「はいはい~! 弾幕、行くわよ! それそれそれ~!!」