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IS  バニシングトルーパー 027

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 ドアの向こうから聞こえてくる隆聖の声が、今では何だか憎たらしい。

 「はいはい。何か御用かね? お二人」
 ドアを開けると、そこには隆聖以外に一夏も立っていた。

 「悪いな、今時間あるか? あるならちょっと一緒に来てくれよ」
 「どこへ?」
 「千冬さんの部屋。実はさ……」
 寮への帰り道での出来事を、隆聖はクリスに聞かせる。
 「……」
 一瞬向こうの部屋の扉に目線を移った後、男子二人の顔に視線を戻ったクリスの顔色がやや変わった。

 「わかった。少し待て」
 部屋の中に戻ったクリスは、パソコンの電源を落として冷蔵庫から何本のドリンクを取り出した。
 「悪いけどちょっと行ってくる。遅くなったら先に寝ていいよ」
 と好奇な目をしているシャルロットに言い残して、再び隆聖たちのところに向おうとしたが、シャルロットに手首を掴まれた。
 「どうしたの? クリス、顔がちょっと怖いよ?」
 クリスの顔色の変化に気付いたシャルロットは、不安そうな表情でクリスに聞いてくる。

 「……ちょっと長い話をしに行くだけだよ」 
 「じゃ、一緒に行ってもいい?」
 幸い今のシャルロットは胸の曲線を隠しているため、すぐに動ける。
 「別に面白い話じゃないよ」
 「でも……」
 「……不安そうな顔するな。分かったよ、お前も来い」
 「ありがとう」

 シャルロットも連れて、隆聖たちと一緒に千冬の部屋のドアを叩いた。すぐに応じた千冬に部屋へ入れてもらった後、生徒達は自分の担任先生の部屋に広がっている光景に呆れる。

 「うわ、なんというか、カオスだ……」
 「千冬姉、言ってくれれば片付けに来るのに……」
 ベッドの上でに散かっているワイシャツやスカート、地面に転がっているビール缶。主夫としての悲しい性か、見るに耐えない一夏と隆聖は無意識に片付けを始め、シャルロットも二人の手伝いに回った。
 
 「先生~そんなでよく人を招く気になりましたね……おっ?」
 邪魔にならない洗面所に退避したクリスはジャージ姿の千冬を揶揄していると、脱衣カゴの中にある懐かしいものを発見した。
 いつぞやの黒いブラジャーだった。88のやつ。
 「懐かしいな。入学の頃を思い出すね……っていたたたたたた!!」

 「勝手に私の下着を思い出の品にするな」
 摘み上げたブラジャーを凝視するクリスをアイアンクローで持ち上げて、千冬は自分の部屋の中に戻った。
 「お前達、片付けに来たわけじゃないだろう。いいから好きなところに座れ、本題を始めるから」
 「えっ、でもせめてゴミだけでも……」
 「いいから座れ!!」
 「「「はっ、はい!!」」」
 千冬の一喝で、掃除隊はとりあえず集まったゴミをベランダに置いて、空いているベッドに腰をかけた。
 大人しく座った生徒三人、そして地面に臥せている死体クリス。椅子に座った千冬は一回咳払いして、口を開いた。
 「先ずはお前だ、クレマン。伊達が念動力者って話、知っていたんだな?」
 千冬の口調は、いつもに増して真剣に聞こえた。

 「……驚いたよ。織斑先生が念動力者のことを知っているなんて」
 「ならお前の方が詳しいだろう。伊達に説明しろ」
 「はい」
 地面から立ち上がったクリスは服の埃を叩いて、壁に寄り掛かって真面目な顔で隆聖の顔を見据えた。

 「念動力とは……」
 「ちょっと待って。クリス、その手に握っているものは何かな?」
 笑顔で黒いオーラを発散しながら、シャルロットはクリスに手に握っている、88の黒いブラジャーの由来を聞く。
 「ああ……ごめん。はい」
 「何故俺に渡す!!」
 「ぐあっ!!」
 自分姉のブラを握って困惑する一夏、そして千冬とシャルロットによって成敗されるクリスだった。

 「ええ……念動力とは超能力の一種、つまり“サイコキネシス”のことだ。それくらいなら知っているだろう?」
 腫れた頬を冷たい右手で押さえて、クリスは説明を始めた。
 サイコキネシスとは、意志の力だけで物体を動かす能力のこと。これくらいなら、まだ一般知識の範疇だ。
 「スプーンとかを念じるだけで曲げるやつだろう? そんなのできないぞ俺は」
 自分の言葉を検証するように、隆盛は地面にあるビール缶を拾い上げて、念じてみる。

 「あそこまで出来るならかなりヤバイよ。まぁ、大体の場合はマジシャン達の手品だな。しかし本当の念動力とはただの物理的な力ではなく、誰も持っているいわゆる“思いの力”、 意志で現実の現象に干渉する能力だ。あるのは程度の差だけ。それが一定値までに達した者は、“念動力者”と呼ばれている」
 「念動力者……」
 クリスの言葉を聞いた隆盛達は、反芻するように呟く。

 「そう、俺やお前みたいにな」
 「クリスも、その念動力者ってやつなの!?」
 驚きの声を上げたのは、シャルロットだった。

 「……そうだ、黙ってて悪かった。普段の生活ではほぼ何も感じないが、特殊のシステム“T-LINKシステム”とリンクすれば、念動力者の脳が発する念動力はシステムによって抽出、増幅され、強力な物理的なエネルギーに変換される。T-LINKナックルは、その一例だ」
 「あれが……!? 機体のエネルギーじゃなかったのかよ!」 
 
 「もちろんそれもあるな。だが集束の役割を果たすT-LINKシステムが居なければ、エネルギーは拳に集中できない。だからお前の拳を包んでいたのは、間違いなくお前の“破壊”の念だ。同じ理屈で、エクスバインのファング・スラッシャー、そしてチャクラム・シューターの運動軌道なども、俺が念動力でコントロールしている」
 「そう、だったのか……」
 「システムによって抽出された念動力は機体制御や敵行動予測まで転用できる。極限まで成長すれば、理論上では未来の予知や精神だけで会話するなどもできるようになる。まっ、そこまで行けば人間の脳では到底耐え切れないだろうし、そもそも実現したケースを俺は知らない。あくまで理論上の話だ」
 戸惑うように表情をしている隆聖を安心させようと、クリスは彼に笑いかける。
 「……要はISを操縦するための才能の一種だ。背の高い人間がバスケットをやるのと同じ。だがシステムとリンクしなければ、お前は一般人と大して変わらないはずだ。安心しろ」

 「なるほど……想像したのと大分違うな」
 指を顎に当てて、千冬は目を細める。そんな彼女を一瞥して、クリスは説明を続ける。

 「念動力者の研究は二十年以上前から始まっているが、いかんせん研究対象の確保が難しいため、その能力を機動兵器に応用する技術を掌握している組織も少ない。現時点で俺が知っている研究を続いている国はドイツ、中国、日本、アメリカそして……フランス、具体的に言えばうちの会社だ」
 「だから俺に……R-1を?」
 「そうだ。理由は分からんが、お前が念動力者であることに気付いたから、R-1に乗せた。今まで黙ってて、本当にすまなかった」
 隆聖に向って、クリスは頭を深く下げて詫びた。
 「……勿論、いやならR-1から降りても構わない」