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IS  バニシングトルーパー 027

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 各自の武器を構えて、二人の間に一触即発の空気が漂う。
 今日はオクスタンライフルの慣らしということで、セシリアは鈴に模擬戦を申し込んだ。エクセレンは一応観戦しに来たが、クエストに夢中でまったく目をゲーム機から離さない。

 「じゃ、行くよ!!」
 二丁の青龍刀を交差して構えて、鈴はセシリアに向かって突進を始めた。それに対してセシリアはオクスタン・ライフルの銃口を向けて引き金を引く。
 「Bモード、行きますわ!!」

 トォォン!!
 突然に、実体を持つ大型砲弾が二人の間の地面に直撃して、大きな衝撃音と共に大量な砂を巻き上げた。
 それは二人のどちらが撃ったものではなく、二人の側面から来た第三者の攻撃だった。

 「な、何!?」
 「あなたは……!!」
 攻撃の元へ辿ると、そこに佇んでいるのは黒いIS「シュヴァルツェア・レーゲン」とその操縦者、ラウラ・ボーデヴィッヒだった。

 「いきなり撃ってきて、どういうつもりですの!?」
 「アンタ、不意打ちとはいい度胸じゃない!!」
 「ふん……中国の甲龍、そしてイギリスのブルー・ティアーズ、か。データの方がまだ強そうであったな」
 セシリアと鈴の抗議を無視して、ラウラは不敵な笑みを浮かべて二機のISのデータを閲覧する。
 「……憂さ払いに丁度いい。まとめてかかってこい!!」
 指招きして、ラウラは挑発的な笑顔で二人へ戦いを挑んだ。


 「うん?!」
 グラウンドの異変に気付いたエクセレンが視線をアリーナの中に向けると、そこに上演している一対二の乱闘が視界に入った。
 地面を高速滑走して、セシリアと鈴の射撃を容易く回避しつつ、レールカノンで反撃するラウラ。一方、二対一なのに徐々に劣勢へ追い込まれていくセシリアと鈴。
 その時、エクセレンを驚かせる現象が目に入った。
 空間に振動を加えて見えない砲弾を撃ち出す甲龍の強力武装「龍咆」。その見えない砲弾がラウラに届く直前に、まるで見えない壁のようなものに阻まれ、消えて行った。
 「あれは……!」
 驚きのあまり、エクセレンは思わず席から立ち上がった。

 「AIC、ですね」
 いつの間にか、深刻そうな顔をしているシャルロットがエクセレンの隣に立っていた。
 AIC(アクティブ・イナーシャル・キャンセラー)、反重力制御技術の応用で作りだされた、物理の運動エネルギーを完全停止されられる能力。一対一の戦いではまさに反則的な能力。

 「ふっ、この程度か。もういい!!」
 真面目にこの二人の相手をするのはもう飽きた。もっと直接に甚振ってやろう。そう思ったラウラは、装甲の裏に内蔵されている鋭い牙「ワイヤーブレード」を射出して、二人へ飛ばす。

 「うわっ!!」
 「何これ!!」
 まるで黒い蛇のように飛び回してセシリアと鈴へ襲い掛かったワイヤーブレードは二人の機体に絡んで、セシリアと鈴の首を拘束した。それを確認したラウラはワイヤーに力を入れて、二人を引き寄せれる。

 「ふっ!!」
 「うわあっ!!」
 拳を握り締めて、鈴の頭をぶん殴った後、
 「いい気味だ。弱者に相応しい様だな」
 「きゃあああ!」
 バランスが崩れて地面に倒れたセシリアを踏み付けて、爪先で腹部に蹴りを加える。
 そこから始まったのは、ラウラの一方的な暴力行為だった。拳で殴って、足や膝で蹴って、ワイヤーを引っ張って地面に叩きつける。エネルギーシールドを削り切った所で、暴行をやめるつもりはない。
 これくらいじゃ暴れ足りない。
 敬愛する人に突き放されたこの痛み、貴様らにも分けてやろう。

 「やばいわよあれ!!」
 それを見たエクセレンとシャルロットは慌てて観客席の出口へ向かって階段を下りようとするが、その前に二人を助ける人間が現れた。

 パァン!! パァン!!
 二回連続に響いたのは、ブレードレールガンの音。精密な狙いで、ワイヤーブレードの黒い糸が撃ち断たれた。

 「ボーデヴィッヒ少佐! もうこれ以上はやめてください!!」
 接近してくるのは、蒼と黒のIS、ズィーガーだった。二丁のブレードレールガンを握って、レオナは上空からラウラに銃口を向ける。

 「ふん、上官に銃を向けるか……教育がなってないな。だが丁度いい、貴様が相手なら……」
 「少佐……!!」
 もう抵抗する気力もない二人を放っておいて、ラウラはレールカノンの砲口をレオナに向けて照準する。彼女の敵意が自分に向けてきたことを理解したレオナは、トリガーに掛かっている指に力を入れる。
 だが双方が発砲する前に、巨大な機影が彼女達の視界に飛び込んだ。

 「切り裂け!! ファング・スラッシャー!!」
 「……っ!!」
 少年の叫び声と共に、高速に回転する青い十字架が弧線を描いてラウラに飛んでくる。それを横へ移動して避けた後、重力子激流の音が耳に届いた。
 それしきの攻撃、ナノマシンに高められた反応速度では十分余裕にかわせる。スラスターを噴かし地面に滑走して、照射モードで地面を薙いでくる砲撃を曲線的な動きでかわす。
 「この程度の射撃など!!」
 しかしその時、背後からの攻撃警告アラームが鳴った。同時に、ファング・スラッシャーが空気を切り裂く音が聞こえた。

 「ちっ、鬱陶しい!!」
 横へステップで避けても、ワイヤーブレードで弾けても、十字型ブーメランが何回も軌道を変えて向かってくる。砲撃が止んだ今、ラウラは手を掌にして前へ突き出してAICを発動させた。
 しかしファングスラッシャーを停止させた瞬間、蒼い機影が別の方向からラウラの至近距離まで侵入した。

 「AICを、使ったな!!」
 「……っ!!」
 「逃がすか!!」
 「うわあああ!」
 背部に炸裂した巨大な拳がラウラの体を貫き、衝撃の余波が彼女の肺部から空気を追い出す。しかし、それは彼女に降りかかってくる衝撃の第一波でしかなかった。慌てて距離を取ろうにも、彼女の両手は背後から拘束された。
 「逃げられると思うな!! G・インパクトステーク!!」
 
 パンッ!!!
 爆破する火薬、突き出される金属杭。一点に集中した打撃が、もう一度彼女を悶絶させる。
 だが呼吸を整える暇はない。巨大の手に首が捕まえられて、相手はひたすらにラウラの胴体に淡い緑色のエネルギーで包んだ拳の雨を降らせる。


 「吹っ飛べ!!」
 「くあっ!!」
 痛みが疾走する体、破壊され悲鳴を上げていく装甲。連続パンチの後に喰らったのは、脇腹に直撃したミドルキックだった。機体体勢を維持する余裕もないまま、ラウラは一気にグラウンドの壁際まで吹き飛ばされて、巻き起こした塵土の中に倒れこんだ。

 「どうした、さっさと立て。まだまだこれからだぞ」
 両手の拳を握り締めたまま、巨大の機影エクスバインボクサーがゆっくりとラウラが倒れたところへ歩く。
 この中央部分に立っている銀髪の少年の目に、怒りが静かに燃えている。

 「模擬戦くらいなら別に手を出す気は無かったが、暴力が大好物なら付き合わせてもらう。立て、ラウラ・ボーデヴィッヒ……一方的に殴られる痛さと怖さを、体に教え込んでやる」
 満身創痍のセシリアと鈴が殴打されている光景を見た時から、クリスは完全に切れた。