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IS  バニシングトルーパー 027

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 今までなかった経験だから、判断に困る。

 「……そ」
 「はっ?」
 「そんな口先だけのこと、信じられるはずがない!!」
 ときっぱり言い放って、ラウラはその銀色の髪を揺らして早足で歩き出した。
 「おい、ちょっと待てよ!」
 後ろから隆聖の呼び声が聞こえて、ラウラは足取りを更に速める。一気にアリーナの更衣室に駆け込んで、一番奥のペンチに腰を下ろした。

 認めたくないが、自分の心は僅かに動揺している。
 だが、教官に突き放されたばっかりだ。昨日の今日でまた他人を信じて、もう一度突き放されたらどうなる?
 それは、とても怖いことだ。
 だがあの少年と触れ合って感じた暖かさは、今だに体に残っているように感じる。
 それを思い出しただけで、痛みが消えて行くみたいだ。
 不思議な感触だ。

 「伊達、隆聖……」
 少年の名を口にしたラウラは切なげな表情で、自分の体を強く抱き締めた。




 「本当に大丈夫か? 鈴」
 保健室のベッドで横になっているツインテール少女・凰鈴音を見下ろして、一夏は心配の言葉をかけた。
 「だから大袈裟だって。これくらい怪我のうちに……っいた!」
 無理に体を動かそうとして、傷の痛みで鈴は再びベッドに倒れ込む。
 「無理するなよ、大人しくしてろよ」
 「そうだぞ。怪我人に無理は禁物だ」
 横で無表情にしているが、箒も自分の恋敵の心配をしていた。
 いや、監視と言うべきかもしれん。

 「はいはい、じゃ注射しますから、お尻出して~」
 「何を注射する気なのよ!」
 怪我した二人の手当てを引き受けた、保健先生の白衣を着たエクセレンだった。
 金髪お姉さんの怪しい笑顔から危険を感じた鈴はベッドの上で一歩後ずさって、隣のベッドへ羨ましそうな視線を向けて、小声で呟く。
 「一夏もあいつに少しくらい見習ってくれないかな……」


 隣のベッドでは、セシリアが横になっている。その横の椅子に腰をかけているのは、クリスとシャルロット、そしてレオナだった。
 「痛むところある? 何か飲むか?」
 シーツから出しているセシリアの顔にかかった髪を優しく掻き分けて、クリスは彼女の額を撫でた。
 
 「……本当にごめん。頭に血が昇って、セシリアのことを放って置いてた。最低だよね、俺」
 「い、いえ。気にしないでください。大した怪我ではありませんから」
 頬を真っ赤に染めたセシリアは、クリスの手に自分の手を重なって握った。
 お姫様抱っこで此処に運び込まれて、さらに優しくされている。幸せすぎて気絶しそうだ。

 「俺がもう少し早くアリーナに行けたら、セシリアもそんな怪我を負わずに済んだのに……」
 眉の間に皺を寄せて、クリスは自責する。その思い詰めたような顔を見たセシリアは、彼の頬へ自分手を添えた。
 「自分を責めないで、クリスさん。私のことを大事に思ってくださっているのを、私はわかっていますから」
 「セシリア……」
 不意にも、胸が僅かに高鳴った。 

 「チッ」
 「コホン」
 舌打するシャルロット、そして咳払いするレオナ。

 「……」
 後ろから背中に刺さっている視線が痛い。
 隣のベッドのツインテール貧乳が羨ましそうにこっちを見ている。こんちくしょう、こっちは審査官二名付きで高精度作業をやってんのが分かってんのか。そっちより難易度が断然高いぞ。
 少し離れた所で、連絡を受けて飛んできた副担任の真耶までなぜか頬を赤くしてこっちをちらちら見ていて、担任の千冬は地面を見つめて何かを考え込んでいるようだ。

 「……ああ、そう言えばセシリアと鈴を助けたのはレオナだったな。ありがとう」
 セシリアの手をシーツの中に戻して、クリスは後ろに居るレオナに礼を言った。
 二度目の背負い投げ以降はろくに話してないのに、なぜか今は普通に話せてる。

 「なぜあなたが礼を言うの? 貴方はその子の何なの?」
 「えっと……友達」
 視界の隅でセシリアの小さなため息を吐いたのが見えた。

 「随分と大事にしているみたいね」
 「怪我人を丁寧に扱うのは当たり前だろう。お前が怪我したら、同じくらい優しくしてやるぞ」
 「べ、別にどうでもいいわよ。彼女たちを助けたのも、当然のことをしたまでよ」
 僅かに赤くなったレオナは顔を逸らして、素っ気無い態度を装う。
 「それでも感謝しているよ」

 「助けていただいて、本当にありがとうございました。ところで……レオナさんとクリスさんは知り合いだったのですか?」
 自分を助けたレオナに礼を述べた後、セシリアは二人の関係について質問した。
 会話から察するに、二人はかなり親しい関係のようだ。しかしずっとクリスの隣でいるのに、二人が話すのを見るは初めて。
 黙っていたシャルロットの眉は、僅かに反応した。

 「……ええ、そうよ。三年前、この男に強引にファーストキスを奪われた関係よ」
 セシリアと数秒間見詰め合った後、レオナは淡々ととんでもない爆弾を投下した。

 「……えっ」
 予想を遥かに上回った答えに、反応するのにセシリアは数十秒を要した。
 そしてその言葉が響き渡った保健室の空気は、一気に凍結した。

 「ちょ、お前何言ってんだ! ただの事故だったろう!!」
 「それでも事実であることに変わらないわ。浴室で私を押し倒したのも含めて、ね」
 「やめろ、これ以上はやめてくれ!!」
 「別にいいわよ。あなたは無かったことにしたいのなら、私は」
 全力で弁解しようとするクリスに、再攻撃でクリティカルヒットを出したレオナ。そして周囲の譴責的な視線が益々冷たくなる。
 得意げににやけている金髪ポニーテール一名を除いて。

 「へぇ~クリスって、そんな甲斐性があったとは意外だな」
 クリスの肩を掴んだシャルロットの手が、異常なまでに力が入っている。いつもの明るい笑顔と柔らかな声だが、そこにクリスは殺意を感じた。
 「いやいや、もう過去の話だし、事故って言ったろう? 今の俺はほら、お前のことが……」
 慌ててシャルロットと向き合って頭を撫でてやる。

 「そ、そんな……バニー服の時ですら、してくれませんでしたのに……」
 「バニー服?」
 ショックを受けたセシリアの口から漏らした単語を、レオナの耳はしっかりと拾った。そしてまるで変質者を見ているような軽蔑な視線で、クリスを見下す。
 「どういうこと?」
 「あっ、いやそれは、えっと……」

 「ククク、クレマン君? 女の子を無理矢理に押し倒すのはよくないと思いますよ?!」
 顔を真っ赤に染めながらも、副担任は説教をかましてきた。そして渋い顔して、担任の千冬は無言に睨んでくる。

 「女の気持ちを無視してそんな酷いことをするやつとは思わなかったぜ」
 「一夏に言われたくない!」
 「あ~あ、やだやだ。三年前っていくつなんだよアンタは。とんだケダモノね」
 「中学でプロポーズした鈴にも言われたくない!」
 「クレマン……信じていたのに……」
 「いやいや事故だって! 俺は紳士だぞ!! 信じ続けてくれよ篠ノ之!!」
 「紳士って、変態の上級ジョブだよね。分かります」