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IS  バニシングトルーパー 027

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 「ちょ、何をするんだエクセレンさん! ロープは何処から出してきた?! やめろ、やめてくれ!!!!」

 「何やってるんだ? お前ら」
 クリスの公開処刑会会場になりかけている保健室に入り込んだ隆聖は、パイプ椅子に縛られているクリスを見て首を傾げた。

 「んで、ボーデヴィッヒの方はどうなった」
 「うん……とりあえず言いたいことは言ったと思う。後は行動でそれを示すだけだな」
 「そうか。さっきはすまなかったな。腕はまだ痛いか?」
 「大丈夫だよ、もう。ところで……」
 「うん?」
 「お前、何時までそのままでいるつもりなんだ?」
 窓際に立っている隆聖は、まだ拘束状態のクリスに困惑の視線を向ける。

 「さあ……」
 今この場の女性陣からは完全に色魔扱いだ。担任たちがいる以上、ISの局部展開も使えない。
 身から出た錆だと諦めて、しばらくこのままでいよう。

 ドドドドドドドドッ・・・・!
 突然に、保健室の床が揺れ始めた。耳を立ててよく聞くと、それは廊下から響いている大量の足音だった。
 まるで地震のように響く大量の足音は、段々とこっちに近づいてきた。

 「何だ! 何事だ?! 」
 「地震?! いや、オペレーション・ハルパーか!?」
 怪我人二人と拘束状態の一人を除いて、保健室にいる全員が立ち上がってドアの方に注目を向ける。
 ドカッン!
 保健室のドアが、一瞬に吹き飛ばされた。そこから雪崩のように入り込んできたのは、大量の一年女子達だった。

 「織斑君!!」
 「伊達君!!」
 「デュノア君!!」
 「クレマン君!! って何で縛られているの!?」
 それぞれの目当ての相手を囲んで、女子達は四つのグループに分かれた。

 「なんだなんだ!?」
 「おいおい、どうしたお前達? 何の用だ?!」
 「えっと、皆さんどうしたの? 僕に何か用事ですか?」
 「念のために言っておく! この状況は俺の趣味ではない!!」
 「「「「「「はい!! これ見て!!」」」」」」
 男子四人に、女子達はプリント一枚を差し出して見せる。
 学校側からの緊急告知書だった。

 「今月開催する学年別トーナメントでは、より実戦的な模擬戦を行うため、二人組での参加を必須とする。なお、ペアが出来なかったものは抽選により選ばれた生徒同士で組むものとす。締め切りは……」
 「なるほど、タッグマッチになったか」
 隆聖が声を出して読み上げた内容を聞いて、クリスは納得した。
 この女子達は、男子とペアを組みたいから飛んできた子達だった。

 「私と組もう、織斑君!!」
 「伊達君、一緒に優勝を目指そう!!」
 「ああ、わりい。俺は一夏と組むからさ」
 「そういうことだな。誘ってくれる皆には悪いけど、俺は隆聖とペアを組むから」
 肩を組んでる男子二人は早速ペアを結成した。横の箒とベッド上の鈴の恨めしい視線を受けていることを、二人はまったく気付かない。
 「そんな、頑張って走ってきたのに……」
 「残念だね……」
 「やはり鉄板は織斑君×伊達君の黒髪カップルね。萌えるわ……」
 ぶつぶつと文句を言いながら、半分くらいの女子は肩を落として保健室から去った。

 「私頑張るから、ペアになろう、デュノア君!!」
 「クレマン君がお望みなら、その……縛ってあげても、いいよ?」
 「趣味じゃないって言ったろう!!」
 やばい。既に変な誤解をされている。
 (しかし何故だ? 今となっていきなりルール変更なんて。まっ、とにかくここはシャルロットと……)
 「なっ、シャル……」
  
 「私と組んで頂けないかしら、デュノア君」
 「えっ?」
 クリスの言葉より先に、意外な人物がシャルロットに手を差し伸べた。シャルロットにとっても意外な誘いだったようで、困惑した顔でその手の主を見る。

 「この前の手合わせと先日の模擬戦で、貴方の実力は把握したつもりよ。その実力を持つあなたとなら、優勝も目指せると思うわ」
 客観的で適切な言葉でシャルロットを誘っているのは、レオナだった。そしてレオナの顔とその手を交互して見て僅かに考え込んだ後、シャルロットはその手を取ることにした。
 「よろしく頼むね、レオナさん」
 「呼び捨てでも構わなくてよ」
 「分かった、レオナ」
 握手して、二人は微笑みあう。
 これで、残りの半分の女の子たちも去って行った。

 「……俺が、見捨てられた?!」
 あの二人の腕は確かだ。組んだらかなりヤバイことになる。というかレオナは何を考えている。
 いや、それよりどうしよう。誰と組むか。
 周囲の面子を見回して、クリスは自分のパートナーとなる人物を探す。

 「クリスさん、ここはもう一度私と!!」
 ベッドに寝ているセシリアは上半身を起こして手を胸に当てて、クリスを誘う。しかしクリスが返事する前に、副担任の真耶が割り込んできた。
 「ダメですよ。オルコットさんのISの状況を確認しましたけど、ダメージはレベルCまで超えています。当分の間は修復に専念しないと、後々重大な欠陥を生じる恐れがあります。ISを休ませる意味でも、学年別トーナメントへの出場は許可できません。同じ理由で、凰さんもだめです。」
 「ええええ~?!」
 「そんな……!!」
 副担任から出場禁止を出されて、セシリアと鈴は酷く落胆する。
 ISというものは、稼動経験を稼ぐことでより進化した状態へと移行する。その経験には損傷時の可動も含まれているため、ダメージがレベルCを超えた状態で稼働させると、不完全な状態での特殊エネルギーバイパスを構築してしまう可能性がある。そうなれば、逆に平常時での稼働に悪影響を及ぼしてしまう。
 これくらい、国家代表候補生の二人は熟知しているはずだ。

 「こればっかりは仕方ないよ。セシリアはゆっくり休んでろよ。セシリア自身も怪我してるんだ。無理はしないで欲しい」
 「クリスさん……分かりました。今回は不本意ですが、トーナメント参加は辞退させていただきますわ」
 「それでいいよ。オクスタン・ライフルの慣らし、今度俺も付き合うからさ」
 「はいっ!」
 やれやれ、現金なやつだなと、もう元気に戻ったセシリアを見て、クリスは軽くため息を吐いた。
 
 「わかってくれて嬉しいです。ISに無理をさせると、そのツケはいつか自分で支払う事になりますからね」
 という副担任の説明を聞き流して、クリスはもう一度パートナーを探し始める。
 別にこの場で決める必要はないはずだが、女子達に囲まれてしかも自分が縛れている以上、逃げ回るのは面倒だ。
 現状では、男子の中まだ決めていないのはクリスだけ。 

 「……あっ」
 ふっと、浮かない顔している箒と目が合った。

 「篠ノ之! 俺とペアを組んでくれ!!」
 「ええええ!?」
 「頼む。決まったパートナーがいないなら俺と組んでくれ。一緒に優勝を目指そうぜ」
 「いや、私は……」
 ちらりと、箒は一夏の顔を覗く。
 私は別の男の子に誘われているんだ、何とも思わないのか? という意思表示だろう。
 しかしそれを気付かないのが一夏のワンオフアビリティ。
 「クリスがあんなに頼んでるんだ、聞いてやったらどうだ?」