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IS  バニシングトルーパー 028-029

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 機動力の一番低い箒は遠距離攻撃できないなら、最初は彼女を放置してもっと脅威的なクリスに攻撃を集中して倒す。シャルロットとレオナは、そう考えている。
 互いに真剣勝負、相手の条件がどうであろうと一切の容赦はしない。

 呼び出したアサルトライフルを構えて、シャルロットはトリガーを引いた。その銃口から飛び出した銃弾を急回転しながら弧線を描いて回避した後、クリスは肘にあるファング・スラッシャーをロック解除して手に握り、思いっきり投げた。

 「行け! ファング・スラッシャー!!」
 「通じないよ!!」 
 シャルロットを僅かに足止めできれば、箒が接近できる。さらにシャルロットの銃を潰せば、攻撃の隙も発生する。そう考えてクリスはファングスラッシャーを投げたが、その意図を理解したシャルロットは右腕を曲げて、その改造した腕部装甲に取り付いた固定武装を起動させた。
 エクスバインが使うの同型の接近戦用非実体剣、ロシュセイバーだった。ゲシュペンストMK-IVでも同じ武器を装備しているが、腕部に固定して使うのはこのカスタムSPが初めて。使うのに手を空ける必要がないため銃を持ったまま発動できるのが利点で、実弾武器をメインにしているラファール・リヴァイヴのジェネレータへの負担も少ない。

 「どんだけマ改造してるんだ! もう完全に別物だろう!!」
 「この距離……」
 長い光の刀身を使って高速に飛んでくる十字ブーメランを切り払い、シャルロットはこのチャンスでクリスの目の前まで詰めた。
 この距離なら安全回避はほぼ不可能。クリスへの大ダメージを確信して、シャルロットは左腕の切り札、リボルビング・バンカーを振り出す。
 「……取った!!」

 しかし胸元へ突いてくる長い杭を前に動じることもせず、クリスの口元は僅かに吊り上った。

 「私を忘れてもらっては困るな!!」
 「うわっ!!」
 クリスに攻撃を届ける前に、後ろから来た衝撃がシャルロットを襲った。

 「いつの間に銃を?!」
 衝撃で完全に攻撃のタイミングを逸らしたシャルロットは慌てて後ろを確認するが、そこに居るのは後を追ってきて、フォトンライフルSを握ってトリガーを連続して引いている箒だった。
 ミサイルの雨を防げた時にクリスが地面に放り出したフォトンライフルSだった。

 「驚いてる場合ではないぞ!」
 「しまっ……!!」
 「させないわよ!!」
 グラビトンライフルの照準をシャルロットに合わせてクリスはトリガーを引こうとするが、その前にレオナがシャルロットのフォローに入ったため、止む無くシャルロットから離れて急加速で回避運動を取った。

 「デュノアの相手は、私だ!!」
 弾切れしたフォトンライフルを捨てた箒はブレードを握り直してシャルロットに切りかかり、シャルロットは杭で受け流して一歩引いた後、後退しつつ右腕のロシュセイバーの発生口を向けてきた。
 この武装は接近戦用の非実体剣を発生させる以外に、エネルギーを拡散して発射するビーム砲「スプリット・ビーム」としても機能できる。威力が低くて射程距離も短いが、至近距離での牽制手段としてはかなり有効。

 「はあああああ!!」
 しかし、箒はそれを恐れることなく打鉄のアーマーに内蔵したスラスターを噴かして突進する。
 それは無謀ではなく、このタイミングで援護が来ることを知っていたからだ。

 バシューン!!
 シャルロットの少し後ろの地面に命中したグラビトンライフルの照射が彼女の退路を断ち、地面を薙いで接近してくる。

 「……!!」
 グラビトンライフル最大出力の照射を喰らったらされたら最低でも中破まで追い込まれる。腰を低くして、シャルロットは重さが集中している左腕を軸に回転して箒の中段突きを交わしてその脇を取り、下から上へリボルビング・バンカーを振り上げる。
 思い一撃を撃ちこんだら即離脱してクリスを挟み撃ちするつもりだ。しかしバンカーを振り上げた瞬間、視界に飛び込んだのは、鈍い金属光沢を発しているブレードの刃だった。

 「はああっ!!」
 「なっ!!」
 剣を持たせた箒が接近戦での戦闘力をシャルロットは甘く見ていた。剣を右下から左上へ斬撃を放った箒の切り上げの威力は、そのままシャルロットのエネルギーシールドゲージを減らした。

 「もう逃がさない……」
 クリスはレオナの相手をしているだけで手一杯の状態なのに、ダメージを覚悟してこっちを援護している。ならクリスの負担を減らすためにも、ここはシャルロットを逃がすわけにはいかない。
 「ここで落とす!!」
 そう考えた箒はブレードを握り直して、もう一度シャルロットへ突進をした。


 「あの子か……あの篠ノ之束博士の妹というのは」
 「ああ。あの日本人の子で間違いありません」
 観客席の入り口に、この試合を観戦している男二人の姿があった。
 壁に寄り掛かっている一人はこの暑い六月に黒いコートを羽織り、長い髪で半分の顔を隠している男、腕を組んでいるもう一人は短い髭を生やしている、軍人のような精悍な雰囲気を持っている男だった。
 「どう見ますか……開少佐」
 「うむ、基礎身体能力は悪くなさそうだ。二年ほど鍛えれば、十分に使えるな。ギリアムは?」
 北村開とギリアム・イェーガー。しがないラーメン屋の店主と国際IS委員会の調査員。なぜこの奇妙な組み合わせがIS学園のトーナメントを観戦しているのか、そしてなぜ北村開が国連の制服を纏い少佐と呼ばれているのか、謎である。

 「私も同意見です」
 「そうか。……外の方はどうなっている」
 「異常なしとのことです。どうやら私達の出番がなさそうですね」
 「ならそれに越したことはない。ここで観戦しておこう。あの小僧は迫力が欠けるが中々に見所があるな、レオナ相手にここまで持つとは」
 「分かりました」
 そう言った二人は階段を下り、空いている席を探しに行ったのだった。


 「私の相手をしながらパートナーを援護するとは、余裕あるわね!!」
 「ちっ、付き纏うな!」
 手数の多さを活かして、レオナは猛烈な攻勢を絶え間なくクリスに加えてくる。その攻撃を捌きながら箒を距離を詰めるように援護することは、やはり荷が重過ぎた。ブレードレールガンの威力はそれほど致命的なものではないが、それでも塵も積もればなんとやらで、かなり危険な状況に追い込まれている。
 しかしなにより厄介なのは、動きが悉く読まれてしまうところだ。

 「なんてやつだ、俺の読みをさらに先読みするとは……!」
 「当然よ。このズィーガーにもT-LINKシステムが組み込まれている以上、あなたにアドバンテージなどないわ!!」
 「ストーカー?」
 「ズィーガーよ!!」
 頻繁に回避軌道を変えながら、クリスはグラビトンライフルのチャージ完了を待つ。口では軽口を叩いていても、心の中では驚いている。
 ズィーガーにT-LINKシステムが組み込まれているということは、レオナはシステムの適応者、念動力であるということ。今更ながら、イングラムがレオナを勧誘してこいと命じてきた理由がわかった。
 しかし今はそんなことより、この場を何とかするのが先決だ。