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IS  バニシングトルーパー 030-031

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 どんなに動き回ろうと、この程度のスピードでは隆聖の動態視力から逃れることなどできない。二丁の拳銃を構えて標的を狙い定めて、隆聖は大きく叫ぶ。

 「乱れ撃つぜぇぇぇ!!」
 回転しながら引き金を連続して引くたびに響く火薬の爆音と共に、飛び出す銃弾が隆聖と一夏へ襲い掛かってくる六本のワイヤーブレードの先端部分を一瞬で全部撃ち落した。
 一瞬の静寂の後、観客席から大きな拍手と歓声が沸き上がった。

 「何っ!!」
 「今の見たか、一夏!!」
 信じられないほどの神業にラウラは目を丸くし、隆聖は思わずにやけて一夏に自慢するが、

 「てめえ弾がこっちまで飛んできたぞ!!」
 「ああ、悪い!!」
 やはり完璧とまでは行かなかったようだ。
 しかしT-LINKシステムの恩恵による部分ももちろんあったが、もっと驚くべきのは隆聖の射撃センスの高さだろう。

 フォワードとバックアップのポジションを、状況に応じて交代する。無意識ではあるが、一夏と隆聖は互いに信頼し、自分の長所をうまく利用して戦っている。

 「こっちは片付いたぞ!」
 「ご苦労!!」
 こっちのコンビネーションと対照的に、向こうはバラバラに動いている。一度後退して一夏と合流すると、打鉄を使う女子生徒は気の毒なことに既に一夏に仕留められた。
 これで、正真正銘に二対一の場面となった。


 「予想以上だったな、あの二人。もう少し苦戦するかと思ったが」
 「そうですね。息ぴったりのコンビネーションで国家代表候補生のボーデヴィッヒさんをあそこまで圧倒できるなんて」
 モニター室にいる千冬は珍しくも素直に一夏達を褒め、それを聞いた真耶も千冬の意見に同意した。
 もちろん、クリスとラウラの戦いを見ていなければもっと苦戦していたかもしれないが、相手の最大の切り札の弱点を知っている今、隆聖と一夏のコンビは絶大なアドバンテージを持つ。
 「だが、まだ油断はできない」
 「えっ、何か言いましたか??」
 「……いや。気にするな」
 そう言って、千冬は視線をモニターの方へ戻して黙り込んだ。
 モニターの中に映っているグラウンドでは、まだ試合の最中だった。

 「ちっ、ちゃこまかと!!」
 レールカノンで乱射しながら、内心で焦っているラウラは動揺が隠せない。
 目の前に居る男子二人は、とても初心者とは思えないような動きをしている。交互して波状攻撃を仕掛けてくる一夏と隆聖に、まったく手も足も出ない。武装の殆どが見切られているし、AICも迂闊に使えない。このままでは落とされるのも時間の問題だ。
 
 (なぜだ?! 私は完璧な兵士のはずだ! なのにこんな素人共に!!)
 兵士としての自分の力を、ラウラは疑い始めた。

 「そろそろだな! 一夏!!」
 「それじゃ、行くとするか!!」
 高速滑走している最中に、隆聖は一夏に最後の攻撃の合図を出し、それに応じた一夏は隆聖の動きに合わせてラウラを逆方向から包囲して、二人で同時にラウラへ突進する。

 「この程度の作戦、私が見破れないと思ったか!!」
 二人の挟み撃ちに慌てることなく、ラウラはまず一夏の方へ向けてレールカノンの砲身を動かす。
 隆聖はともかく、一夏は射撃できない。真正面から向かってくるならただの的だ、彼を仕留められれば、多少のダメージを負っても隆盛とのタイマンに持ち込んでAICを好きなだけ使える。

 しかしそこで、一夏はラウラにとって意外な行動を取った。

 「いっけぇぇぇ!!」
 雪片弐型を握っている右腕を大きく振り上げて、ブーメランのように思いっきり投げ飛ばした。

 「なにっ!?」
 雪片弐型は白式の唯一の武器。それを自ら手離すなんて、馬鹿にもほどがある。だがその意図を考える前に、ラウラはまず回避をしなければならん。
 しかし飛んでくる雪片弐型を滑走で回避した矢先に、後ろの方から重い物体が地面に落ちた鈍音と、金属チェーンの摩擦音が聞こえた。慌てて注意力を向けると、視界に飛び込んだなのは既に巨大な刺付き金属球を高速に振り回している隆聖の姿だった。

 「必殺!! ブーストハンマー!!!」
 減り込むほどに地面を踏んで、隆盛はクリスに貸してもらったロマン武器を大きく振り出したのと同時にグリップを手離し、投げ飛ばされた大質量な金属塊が真っ直ぐにラウラへ飛んでいく。

 「そんな馬鹿げた武器、当るか!!」
 飛んでくるブーストハンマーをぐるりと横へ回転して交わし、凄まじい風圧がラウラの目の前を横切って息を詰まらせる。
 だが確かにラウラの言う通り、ブーストハンマーは当り難い。さっきは一夏が囮になっている間に隆聖が呼び出して振り上げたが、一対一の場合では振り上げている過程中に攻撃されてしまう。

 「それはどうかな!!」 
 攻撃が外れたことに隆聖はまったく気にする様子もなく、続いてG・リボルバーの連射でラウラの足元を攻撃して、注意を惹きつけながら足止めをする。

 「貴様らはやはり間抜けた素人だな!!」
 剣を投げ飛ばした一夏に攻撃の手段はないと確信しているラウラは、手を前へ差し出してAICを使おうとする。
 しかし、それは誤算だった。

 確かに剣を投げ飛ばした一夏は攻撃手段を失った。しかしついさっきに、彼は新しい武器を手に入れた。
 隆聖から送り届けた、凶悪なまでの威力を持つ上に燃費のいい必殺武器(ブーストハンマー)を。

 「よしっ! 受け取った!!」
 正面から飛んでくるハンマーを避けて、そのチェーンの末端にあるグリップを一夏は掴み取り、歯を食いしばってハンマーの軌道を修正する。
 一夏が掴みやすくするために内蔵のバーニアを使ってなかったが、それでも腕にかけてくる負担は半端じゃない。
 だがそれでも一夏は全身の力を振り絞って、この技を完成させようとする。ロマン武器によるロマン技はロマンだけでなく、根性も必要だ。

 「うおおおおおおおおおおお!!!!」
 自分を円心として腕を振って、ブーストハンマーを180°逆転させた後、今度は内蔵のバーニアまで起動して加速させてもう一度ラウラへ投げ飛ばす。 
 「くらえ!! 人呼んで、ブーストハンマー・スペシャル!!」

 「なっ、馬鹿な!!」
 隆聖の方に注意を向けて油断したラウラは、ハンマーがブーメランのように戻ってくるとは思いも寄らなかった。
 だが体にかけてくる強烈な風圧を感じた時は既に遅かった。背中を晒したラウラに高速に襲ってくるハンマーから逃れられる術などない。

 「うわああああああ!!」
 ドォーン!!
 大質量×高速度。この猛撃の前にIS一機の重さなど軽すぎる。ブーストハンマーの直撃を食らったラウラは一瞬で二人の視界から消え、代わりにグラウンドの壁が轟音を立てながら大きく崩れることになった。


 「あのアホ共、一週間あんな技を練習してたのか!!」
 一夏と隆聖が繰り出した非常識な技を見たクリスは驚きのあまりに立ち上がり、思わず叫び出してしまった。
 「ふざけるな! 持ち主であるこの俺を差し置いてええええ!!」

 「男の子って、馬鹿ね」
 「まったくだ」
 「それより、あんなの食らったらラウラさんは死ぬんじゃ……」