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IS  バニシングトルーパー 030-031

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 ジュースを啜りながらクリスが漏らした言葉に、セシリアはナイフとフォークの動きを止めて迎合した。

 「それはどうかしら。回避運動の軌道は相変わらず甘くて、フェイントをかけるときにまず左眉が動く癖もまだ直してないわよ」
 目の前の皿に乗っているコロッケを凝視したまま、クリスの右隣に座っているレオナは冷静そうな口調でクリスの欠点を容赦なく指摘する。

 「手厳しいね……音痴のくせに」
 「お、音痴は関係ないでしょう!!」
 いきなり弱点を突かれて、レオナは赤くなった顔を上げて反論する。

 「はいはい。しかし相変わらず和食が好きなんだな。俺の奢りだからって、遠慮しなくてもよかったのに。ほら、パセリをやるよ」
 「いらないわよ!」

 「あっ」
 左隣に座っているシャルロットから小さな声を上げた。注目を向けると、彼女は不慣れな手つきで箸を使って、炒め物と格闘していた。
 「シャルルお前、いつもはフォークやスプーンとか使ってたのに、いきなりどうした」
 「ここは日本だし、そろそろ頑張って箸も使えるようにならないとって思って。しかし意外と難しいね」
 ちょっと困ったような顔で、シャルロットは苦笑いしてクリスに返事した。

 「そうか? 俺は別に練習とかしてないけどな。結構簡単じゃないか」
 義手の指で箸を動かして、自分の皿からから揚げをつみ上げてシャルロットの口の方へ持っていった。

 「ほら、簡単だろう? はい、あーん」
 「え、ええええ?!」
 まさかこんな公然の前でいきなりこんなことをするとはまったくの予想外で、シャルロットは顔を真っ赤にして驚く。

 「どうした? ほら、口を開けて」
 そう言いながら、クリスの口元に邪悪な笑みが浮かんだ。確信犯の笑みだった。

 「あっ、あーん」
 必死な顔して目を瞑って、シャルロットは口を開けた。それを見たクリスはから揚げをシャルロットの口に入れる。
 やや大きめなから揚げに、シャルロットは頬は膨らました。ハムスターのように顔をはぐはぐさせて、から揚げを飲み込もうとしている彼女の可愛い姿に、クリスは思わずにやけてしまう。

 「あの、クリスさん、わたくしも箸をうまく使えませんが?」
 「セシリアもか? 仕方ないな~はい、あーん」
 「ちょっと、うまくも何もセシリアは箸を使ってないじゃない!!」
 「チッ。中々に鋭いわね、シャルルさん」

 「あの、レオナ様、このわたくしめのから揚げを返していただけませんこと?」
 「もう全部食べたからお断りするわ」
 「とほほ……ああ、そうだ。箒、お前にこれをやるよ」
 「何だそれは」
 クリスから差し出した二枚の紙切れを受け取り、箒はその上に書かれていた文字を確認する。

 「映画のチケットだ。最近は練習ばっかりで疲れてたんだろう。二枚あるから、週末にそれで誰かを誘って遊んで来いよ」
 「えっ、それって……」
 「そうだ、いわゆるランデヴー、だよ」
 結局トーナメントは中止だから、優勝するのも不可能になった。ならせめてデートのセッティングくらいしてやろうと思って、クリスは先日買った映画のチケットを渡した。
 元々はシャルロットと一緒にいく予定だったが、急に入った仕事の準備でそれもいけなくなった。

 「一夏は今週末は暇だろう? 一緒に行ってやれよ」
 「うん? ああ、確かに予定はないな。箒さえよければ、俺は別に構わないぜ?」
 クリスに聞かれて、一瞬考えた後一夏は箒に微笑みかけてオッケーを出した。

 「そ、そうか。暇か。でで、では、一緒に来てくれるか?」
 デートの話が一気に順調に進み、箒は興奮のあまりにちょっとどもってきた。

 「ちょっと待った!!」
 目の前で好きな男の子が別の子とデートの約束をするなんて、鈴としては断じて見過ごすわけにはいかない。
 「一夏あんた、暇ならあたしと一緒に遊びに行きなさいよ!」  
 「鈴も暇か? じゃ、一緒にいく?」
 「いや、そういうことじゃなくてさ……」
 「三人で行こうぜ? 足りない一枚の金は俺が出すからさ」

 「この唐変木……まあ、いっか」
 呆れた顔して、クリスは一夏を一瞥してため息をついた。
 食事の後でこっそり渡せばこんなことにはならなかったんだろうけど、それじゃ鈴に申し訳ないから、あえてここで渡して、一夏に選ばせたかったのに。

 「しかし、クリスはいいのか? 元々はお前が誰かと行くために買ったチケットだろう?」
 ひとまず三人で行くことに決まり、一夏は振り返ってクリスに聞いた。

 「気にするな、俺は今週末に急用が入ったから、多分あの映画を見る時間がない」
 「急用?」
 「ああ、来週は三日ほど学園から離れてアメリカに出張してくるから、いろいろと準備をな」
 まるで散歩してくるみたいな軽い口調で、クリスは皆に来週の予定を告げた。

 「「ええ?!」」
 大きな驚き声を出してシャルロットとセシリアがクリスの顔へ視線を向け、レオナも箸の動きを止めた。

 「聞いてないよ~!」
 「昨日の夜に来た連絡だからな。来週にアメリカのアイルソン基地で、各研究機関の新型IS発表会があるだろう? うちも参加してるから、行かないとな」
 現時点では世界のIS開発機関は大国に集中しているため、一部の国では別国の研究機関が開発したISの製造技術を購入して採用している。
 そのため、このイベントは世界から注目されている。

 「で、では、来週は三日もクリスさんと会えませんの?」
 「まあ、そうなるな。多分土曜には戻るけど」
 「そんな……」
 寂しげな表情で、シャルロットは肩を深く落とした。それに気付いたクリスは少し考えた後、シャルロットに話しかけた。

 「じゃ、一緒に行く?」
 「えっ、いいの?」
 「多分大丈夫だろう。同じ所属だし、アルブレードの操縦者も必要だしな」

 「なっ、そのアルブレードって何だ?」
 ずっと黙って飯を食べてた隆聖がその単語に反応して、顔を上げた。

 「お前のR-1の量産型だ。つい先日にデュノア社の工場でロールアウトした新型だぞ」
 「おお、R-1の量産型か! どんな感じ?」
 「こんな感じ。まだ発表前だから一応機密だけどな」
 携帯を操作して、クリスは内蔵の画像データを隆聖にみせる。
 そこに映っているのは、R-1と外見がよく似ているが、装甲の構造が単純化されたグレー色の機体だった。

 「量産型ヒュッケバインMK-IIと同じ、次世代量産機トライアルに提出した機体だ。現在デュノア社工場の生産ラインはこの二機のパーツを生産している。パーツ何機分かを学園に寄付するって話も出ているから、そのうち練習機としてそれぞれ一機くらいは組み立てるかもしれない。それで、シャルルはどうする? 俺としては、当然一緒に行って欲しいけど」
 「じゃ、僕も行くよ!」
 「分かった、ヴィレッタ姉さんに連絡しておく。あと、スーツは持ってる?」
 「あ、ごめん。持ってない……必要なの?」
 「まあな。週末一緒に買いに行こう」
 「うん、わかったよ!」