IS バニシングトルーパー 034-035
stage-35 SHOUT NOW!!
「えっと、というわけでその、クレマン君とデュノアさんは今週に三日ほど学校をお休みすることになりました」
IS学園一年一組の教壇の上に立っている副担任の山田真耶は相変わらずどこか硬い笑顔で、空いている二人の席を眺めながら生徒達にそう告げた。
アメリカのアイルソン空軍基地でのイベントはISに関心を持つものなら誰も知っているほど有名な国際的イベント。自分の生徒二人がそのイベントに参加しているとなると、真耶としても鼻が高いのだろう。
隅の方に立っている千冬は腕を組んだまま、何かを考えているように目を瞑っている。そして前から知っているため、特に反応しない一夏、箒、ラウラ。
しかし、このことを聞いた他の生徒たちはひそひそと私語を始めた。
「二人でアメリカまで旅行なんて、ステキ……」
「あそこって、オーロラが見えるでしょう? 夜の二人が寄り添って一緒にオーロラを見上げるなんて、ロマンチック!」
「馬鹿ね。オーロラは冬にしか見えないわよ」
殆どの生徒の関心はイベントより、二人の仲の方に行っている。
無理もない。つい先週に恋人宣言した二人がいきなり揃って学校を休んだとなると、女子達の反応も当然だろう。
そしてそれらの言葉は必然的に、窓の外を眺めているセシリアの耳にも届いた。眉を顰めて、彼女は虚しげに大きなため息をついた。
好きな人の気持ちを奪い取ろうと決めたばっかりなのに、いきなり試合中断と宣言されては、ため息の一つもつきたくなる。
「ユニバース、ですわ」
頬杖をして樹の上で戯れている小鳥二匹を羨ましげな目で眺めながら、セシリアは物鬱げにそう呟いた。
*
IS学園の生徒達が朝のSHRに参加しているこの頃、アメリカのアラスカ州、フェアバンクス国際空港は時差の関係でまだ“昨日”の午後にあった。
アラスカ内陸部の最大都市であるフェアバンクス。冬季オーロラを最もよく見える町として知られているこの観光町の近くには、アメリカ本土最大の空軍基地「アイルソン基地」が存在する。
そこが、今回の新型IS発表会のステージとなる。
今日のフェアバンクスは晴れだ。
六月では夜はそれなりに寒いが、太陽が出ている時間帯の温度は20℃前後で、空気も乾燥していて中々に快適。
午後の暖かい日差しの中、町から郊外の空港へのハイウェイに、一台の車が高速で走る。空から日本からの飛行機一台が空から滑走路に着陸してくるのを見て、車はさらに加速する。
車の運転席にてハンドルを握っているのは、ピンク色のショートヘアをしているクールビューティー、リン・マオだった。
道を沿ってしばらく進むと、リンの車はすぐに空港に到着した。空いているスペースに駐車した後、リンは車から降りて空港の出口へ注目を向けて、目当ての人物が姿を現すのを待つ。
十分程待つと、そこから大量の観光客が出てきた。談笑しながら散開していく人波の中、一人の少年がリンの存在に気付き、隣の少女の手を引いて近づいてきた。
日本からここに来た後輩達、クリスとシャルだった。
「わざわざありがとうな、マオさん」
「気にするな。仕事だし」
目の前まで来て簡単な会釈した後、リンは視線をクリスの隣にいるシャルの顔へ移った。そして彼女の視線に気付いたシャルは慌てて頭を下げて、リンに自己紹介をした。
「えっと、アルブレードの操作を担当するシャルロット・デュノアです。よろしくお願いします」
「リン・マオだ。よろしく」
クリスとシャルの繋いでいる手を一瞥して、リンは薄く微笑んでシャルへ手を差し出し、それを見たシャルはすぐ顔を上げて、微笑み返しながらリンと握手をかわした。
リンは普段冗談とかあまり通じない印象があるからクリスにさん付けで呼ばれているが、イルム以外の相手には基本は友好的な態度で接しているし、後輩の面倒見もかなりいい。
ただ、他人にツンデレ呼ばわりされると微妙に不機嫌そうになるが。
簡単の会話した後、三人は車に乗り込んで、町へ向かって移動を始めた。
「イングラム社長はもう来てるんですか?」
フェアバンクス国際空港から町までの道端には建物一つもなく、ただ針葉樹林の原始林だけが延々と広がっている。
シャルと並んで座った車の後席の窓から外の風景を眺めながら、クリスは運転中のリンに話しかけた。
「ああ、社長や博士達は既に町のホテルで休んでいる。君たちの部屋も既に取ってある」
ハンドルを握って前へ向いたまま、リンはクリスにそう返事した。
ここ数日、フェアバンクスのホテルの部屋は既に各研究機関や、IS情報関連の仕事をしている人間に埋め尽くされている。
「ありがとう。アルブレードは既に基地に搬入したのですか?」
「そうだ。他の機材なども搬入済み。ブライアン事務総長の到着は明日の朝だから、それまで君達はホテルで待機だ」
「分かりました。ところでイルムさんは来てないんですか?」
「……やつのことは、忘れろ」
一拍子遅れた後、返事してきたリンの声は氷のように冷たかった。
「はい……」
この現象は地雷を踏んだ時のサインだ。これ以上追究しない方が身のためである。それを悟ったクリスは、小さく頷いた。
一時間ほど運転したあと、三人は市内のホテルに到着した。ロビーでチェックインを済ませ、クリスとシャルは部屋まで案内された。
ドアを開くと、そこに見えたのは綺麗な二人部屋だった。IS学園の寮と比べればやや狭い感じがするが、これはこれで居心地が良さそうに見えた。部屋に入るとクリスはすぐ持ってきたノートパソコンを設置し、シャルは着替えとかを入れたスーツケースを開けて荷物の整理を始めた。
「このフロアはうちが貸し切ってあるから、社長や他のスタッフは全部この階の部屋にいる。私の部屋の隣だから、何かあったら私を呼べ」
「あっ、はい、わかりました。荷物の整理が終わったらイングラム社長のところに顔を出しておきます」
「では私は部屋に戻る。夜八時はホテルの会議室で最後の打ち合わせするから、遅れるな」
長時間の運転で疲れたのか、玄関でクリス達に予定の伝えた後、リンは手を振って自分の部屋に戻った。
そして自分たちの部屋のドアを閉めた後、クリスは備品の電気ポットに水を入れて電源を入れ、ベッドに腰をかけた。
シャルはまだ細かい荷物の整理をしている。顔と髪の手入れ品とか、小さな瓶を机に並んでいくを見ていると、やはりシャルは女の子だと改めて実感する。
「疲れてないか? シャル」
「う~うん。飛行機の中で寝てたから、大丈夫」
頭を横に振って、シャルは整理を続けながら微笑んで返事をした。
日本の出発時間は深夜だったから、飛行機が離陸した後二人は直ぐに寝て、着陸直前に目覚めたが、時差ボケはほぼ感じなかった。
「夜は打ち合わせがあるから、そこでシャルを皆に紹介するよ」
「うん……ちょっと緊張してきたね」
「心配するな。イングラム社長は厳しそうに見えるけど、話の分かる人だよ。仕事さえしっかりこなせば、ちゃんと評価してくれる。他の研究スタッフも悪い人はいない。……白河博士はちょっと微妙だけど」
作品名:IS バニシングトルーパー 034-035 作家名:こもも