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IS  バニシングトルーパー 034-035

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 「そうか……じゃ、頑張るから」
 気合を入れるように両手を拳にして、シャルは真剣な顔になった。
 よく考えてみれば、シャルの操縦したISの機種は意外と多い。ラファール・リヴァイヴ、カスタムIIとカスタムSP、ヒュッケバインMK-II、ゲシュペンストMK-III。癖のかなり強い機体もあるのに、どれもちゃんと使いこなしている。それらと比べればアルブレードは簡単だろう。基本スペックも悪くないし、操縦性に癖もない。

 「しかしここで、静電気が凄いね」
 スーツケースを閉じる時にピリッと感じて、シャルは反射的に手を引っ込めた後やや困ったように部屋の中を見回す。
 「まあ、そういう場所だからな」
 フェアバンクスの空気が乾燥しているから、ドアやベッド、引き出しなどを触る時にはかなりの確率で静電気が発生する。
 ティーポットを温めたお湯を捨てて、クリスは茶葉と新しいお湯をポット入れた。最近はシャルや一夏達の影響で、お茶にちょっと興味が湧いて来ているが、淹れた茶の味はまだいまいち。

 「そんなことより、明日は別行動になりそうだけど大丈夫? 知らない人について行ったらダメだぞ?」
 お茶葉を蒸らしている間に、クリスは机に寄り掛かって、心配そうな目でベッドに座っているシャルにそう言った。
 ブライアン事務総長を迎えた後、クリスは彼の付き添いとして各国政府代表との会議に出席するが、シャルは基地の展示広場で実演操作を担当するため、昼間では多分あまり会えない。オオミヤ博士に任せれば大丈夫と思うが、やはりどうしても心配になる。
 しかしそれを聞いたシャルはやや不満そうに唇を尖らせて、眉を三角形に吊り上げた。
 「もう~子供扱いは止めてよ」
 「はいはい、俺が悪かったよ」
 苦笑いして、クリスはお茶をコップに注いで、シャルへ差し出した。シャルと付き合いをしていると、なぜかときどき年頃の娘を持った父親みたいな心境になる。
 ここはちょっと拗ねたシャルの機嫌を取るために、彼女が喜びそうな話をしよう。

 「なっ、シャルは温泉が好き?」
 「温泉? 好き……かな。どうしたの? いきなり」
 「フェアバンクス近くの温泉リゾートって結構有名らしい。二日目の昼間で仕事を終わらせて、夜はあそこで過ごそう。二人っきりで」
 フェアバンクスから出て東へ向かえば、低い山々に囲まれた温泉リゾートがある。せっかくのチャンス、シャルと二人っきりであそこで一泊してから町に戻って、お土産を買って日本に帰る。
 日本から出発する前に、この計画を考慮したクリスは既に予約を入れた。

 「……ふたり、きり?」
 「いや? なら予約をキャンセルするけど」
 「う~うん、そんなことないよ! すっごく嬉しい!」
 一瞬でシャルは心底から嬉しそうな笑顔になり、クリスの腕の中に飛び込んできた。両手に持っているコップから、お茶を零れそうになる。

 「おい、危ないって。まったく……」
 コップを机に置いて、クリスは自分の胸倉に顔を埋めているシャルを抱き返して、そのさらさらとした髪を優しく撫でた。
 試しに耳を食むように「好きだよ」と囁いてみると、背中に回しているシャルの腕の力がさらに強くなったのを感じた。
 ここまで悦んでくれるとは、予想以上だった。
 何としても仕事を早めに終わらせて、シャルと一緒に温泉へ行こうと、心の中で強く誓うクリスだった。

 *

 その後、夜の打ち合わせではクリスがシャルを会社の皆に紹介し、全員で明日の段取りの最終確認を済ませた。そして静かな一夜を明かして、朝を迎えた二人は再び動き出す。
 今日の天気も昨日と同じ、晴れだった。朝八時のアイルソン基地は今、いつもよりずっと繁忙な光景を見せている。
 各研究機関は、自分の研究成果を世間に見せるための展示ブースの設置を急いでいる。
 研究と開発には金が必要だ。このイベントで自分の成果がどこかの高層のメガネに適ったら、新たな資金源を得られる。そんな重要なイベントでは、誰だって必死になる。
 至極当然のことだ。

 一方この頃、基地の駐機場にてこの日のために購入したレディースーツを着たシャルはクリスと一緒に空から着陸してくる一機の輸送ヘリを見上げていた。
 国連事務総長、ブライアン・ミッドクリッドの乗っている輸送ヘリだった。

 プロペラの騒音の中、地面に着陸したヘリのドアが開けられ、数名の男が降りてくる。黒ずくめの格好で明らかにSPだった男達を除いて、紺色のスーツを着てやや痩せた五十代の男が一人居た。
 この男の姿を確認したクリスはシャルを連れて彼の元へ近づき、クリスの存在に気付いた彼も、手を振って微笑みかけた。

 「お待ちしておりました、ブライアン事務総長。ハースタル機関、専属テストパイロットのクリストフ・クレマンです。二日間、よろしくお願いします」
 「お、同じくハースタル機関、テストパイロットのシャルロット・デュノアです。よ、よろしくお願いします!」
 一斉に男の前へ出て、二人は自己紹介を済ませた。ちょっと緊張しているのか、シャルの声はややどもっていた。そして若い二人の顔を見て、クリスにブライアン事務総長と呼ばれたこの男は爽やかな笑顔で二人の肩を軽く叩いた。

 「お迎えご苦労だったな、二人とも。そんなに畏まらなくてもいいんだぞ。というか、若者たち相手にまで堅苦しいのは勘弁して欲しいな」
 「はい」
 目を細めて笑いながらそう返事したブライアン事務総長は、まるでご近所のおっさんみたいな感じだった。
 その人生経験が豊富でない人間には決して出せない紳士的な雰囲気と柔らかな物腰に、シャルは肩の力が幾分か抜けて行った気がした。 
 だが次の瞬間に、ブライアンはキラキラした嬉しそうな目でシャルの肩を軽く掴んで、彼女の顔を凝視する。
 「しかしイングラム君も人が悪い。テストパイロットはクリストフ君だけだと言ったのに、いつの間にこんな可愛い新人を雇ったのかな?」
 「えっ?」
 「どうかな、テストパイロットを辞めて、おじさんの専属秘書にならないか? 今よりずっといい待遇を用意するよ?」
 「ええええ?!」
 どこまで本気なのかまったく分からないブライアンの勧誘に、大いに困惑するシャルは驚きの声を上げた後、目でクリスへ助けを求めた。
 無論、クリスは最初からブライアンが本気でないことを理解していた。シャルの手を引いて、クリスは彼女をブライアンから自分の元を引っ張り寄せた。

 「ご冗談はやめてくださいよ。ブライアン事務総長ともあろうお方が、きっと既に美人で有能な秘書をお持ちでしょう」
 「あれ、ナイトの君の出番かい? まあいいや。ところで、彼女の苗字のデュノアって、もしかして……」
 相変わらず本気加減の読めない口調で、ブライアンは残念そうに肩を竦めた後、シャルの苗字について訊ねた。
 ハースタル機関がデュノア社を買収したのは最近の話。いきなり来た新人のテストパイロットの苗字がデュノアとなれば、ブライアンが気になるのも当然のことと言えるだろう。
 そしてそれは、クリスの予想内のことでもあった。

 「はい。あのデュノア社社長はシャルロットの父親です。実は……」