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IS  バニシングトルーパー 036

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 ブライアンの言葉を反芻するように、代表達はそのエンプレムを眺めながら煮え切らない表情で呟く。
 無理も無い。面倒事を引き受けてくれるのは有りがたいが、この部隊は本質からしてPKFとは訳が違う。迂闊に立場を決めたらどんな影響が、変化が出るか、すぐには計り知れない。
 アメリカやドイツたちが賛同的なら、なおさら慎重にならなければいけない。
 もちろんこれくらいのこと、ブライアンとイングラムは予想していた。
 所詮代表は代表。即決してくれるとは最初から思ってない。なら、せめてこの場に来てくれたお礼として、美味しいお土産を差し上げよう。

 「……頃合だな」
 指で隠している口を僅かに動かし、今まで黙っていたイングラムは目を開けて独り言のような言葉を零した。
 ブライアンの後に立っているクリスはイングラムと一瞬だけアイコンタクトをして軽く頷いて、ブライアンと耳打ちした後会議室から出て行った。
 政府代表たちは、端末に転送してきた部隊の運用細則を眺めながら沈思を続ける。

 ――!!
 しばらく保っていた会議室の静けさが、突如に鳴り渡ったアラーム音によって終止符を打たれた。席から立って、代表達は騒ぎ立て始めた。

 「どうした!!」
 「何があった!!」
 「襲撃!? 所属不明ISの大部隊だと?! 馬鹿な!!」
 部下からの連絡を受けた代表の一人が振り返って窓の外へ視線を向けると、空中から侵入してくる十機以上の機影が見えた。
 太くて長い腕、大量の動力パイプ。あれは、無人機ISの大群だった。

 *

 一方この頃、ブライアン達がいる高層ビルの屋上で基地の状況を静観している一人の男の姿があった。
 波うつ紫色の髪と真っ白なコートを風に靡かせて、貴公子な雰囲気を漂わせるこの美青年――白河愁は余裕的な笑みを浮かべて空の向こうへ視線を向ける。
 そこにあるのは、基地の防衛部隊を容易く蹴散らし、真っ直ぐにこのビルに向かってくる大量の無人機IS。

 「まさか本人が来てくれるとは。物好きな人ですね、あなたも」
 「だって~シーちゃんに会いたかったんだもん~♪」
 独り言のように呟いた愁の言葉に、意外にも隣から返事が返ってきた。
 それはいきなり愁の隣に現れた、若い女性から出た言葉だった。

 子供じみた無邪気な笑顔と裏腹に、服からこぼれそう程に膨らんでいる母性象徴が強く自己主張しているその女性は、薄い紫色の髪から突き立っているウサミミのようなアクセサリーをつけている。
 嬉しそうに笑いながら、女性は愁の腕に抱きついて、頭を彼の肩に預けた。
 同時に青い文鳥一匹が空から舞い降りて、女性の出現にまったく動揺しない愁の肩に止まった。首を回して、文鳥はどこか鬱陶しげな目で女性を睨む。

 「シーちゃんとは何年ぶりかな? 私と会えなくて寂しかった? シーちゃんの言うとおりにしたけど、これでいいかな? ごめんね、本当はもっと作りたかったけど、時間がなかったから20体しかつくれなかったの! でもシーちゃんなら許しくれるよね?」
 相手が無反応なのにも関わらずに、ハイテンションの女性は言葉をマシンガンの如く撃ち放つ。そして彼女の言葉が終わるまで持つと、愁はようやく簡潔な一言を発した。

 「相変わらず騒がしい人ですね……篠ノ之束博士」
 「もう~ノリ悪い! シーちゃんのいけず!! でも……」
 悪戯な笑みを口の端に浮かべて、ウサミミの女性――篠ノ之束は更に愁の腕にぐいぐいとその豊満な胸を押し付ける。
 「少しは変わったでしょう?」
 「そんなことより、例の件の返事をお聞かせ願いたいのですが」

 素っ気無い態度で束の話をスルーして、愁は周りを見回しながら話題を変えた。
 二人が会話をしている間に、無人機ISの大群を既にこのビル、正確にはこの屋上を包囲した。複数の砲口を狙われる中、愁と束は顔色一つ変えない。

 「うん……返事する前に、まずはシーちゃんの作品を見てみないとね~♪ 」
 愁の腕に頭を擦り付けてきた束は、そのほんのりと赤く染めた顔に切なげな表情を浮かべて、甘い息を吐きながら物欲しそうな目で愁の横顔を見上げて、おねだりの言葉を口にした。

 「ねえ、私、もう我慢できないの。早く見せてよ……シーちゃんの最高傑作」

 「いいでしょう。三文芝居の舞台に立つというのは少々気が進みませんが、あなたにもイングラムにも借りがありますし」
 束の腕をほどいて、愁は前へ一歩踏み出した。無人機ISの注目を浴びながら、彼は左手を上げて指で天を指す。
 するとその指につけている指輪が強く輝きだし、その光に応じるように空に巨大な「穴」が開いた。
 禍々しい赤い光を放つその「穴」の向こうにある無限の暗闇から、一機のISがゆっくりと姿を現し、空中に佇んだ。
 青と黒に彩られ、パイロット全身を包む重装甲、シャープなフォームを持つヘルメットやスラスターユニット。ツインアイタイプのデュアルセンサーが強く光り、凶悪なオーラを放つ青き魔神は自分を包囲している二十機の無人機ISを見下す。
 まるで、これから彼らに制裁を下す審判者であるかの如く。

 「あれがシーちゃんが作ったIS――『グランゾン』なのね!!」
 さっきよりさらにハイテンションな束は拳を握り締めて、キラキラとした瞳でその魔神を仰ぎ見る。
 隣にいた愁の姿は、既にどこにもいない。彼の肩に止まっていた文鳥は、今は束の頭の上に移っている。

  グランゾンと言う名を持つISを確認した途端、周囲の無人機は動き出した。AIの攻撃指令に従い、無人機はそのIS学園アリーナのバリアを簡単に砕けたビーム砲を一斉に撃ち放ち、グランゾンに集中砲火を浴びさせる。
 が、彼らの攻撃は一撃たりともグランゾンに届くことはなかった。グランゾンを包んでいる、目に見えない球形障壁に阻まれ、ビームはその表面に沿って滑って行く。その中心にいるグランゾンはビームの照射を受けながら、平然とした様子で高度を上げていく。

 「では、行きますよ。とくとご覧ください、皆さん」
 グランゾンという機体の中枢に立つ青年、愁は追ってくる無人機ISの大群に向けて、自嘲が混じった微妙な表情になる。
 借りを返すためとは言え、人形が相手ではいまひとつ気合が入らない。
 まあ、地上での最後の仕事くらい、キッチリこなしてあげましょう――!

 両手を大きく広げて、グランゾンは胸元にある丸い球状パーツに莫大なエネルギーを集中する。同時にグランゾンの前方空間には、機体出現の時のと同様な「穴」が開かれた。
 二十機の無人機ISを同時にロックオンして、愁は唇を僅かに動かす。

 「ワームスマッシャー、発射っ!!」
 グランゾンの胸元に集中したエネルギーが、愁の言葉と同時に見えざる鎖から解き放たれた。無数の細いビームとなり、機体前方の空間にある「穴」へ飛び込む。
 そう、無人機ISではなく、グランゾンによって開けられた“入り口”――ワームホールへ、愁は大量のビームを撃ち込んだのだ。
 そして同時に無人機ISたちを包囲するために開けられた複数の「穴」が、ビームの「出口」となる。

 バシューン!!