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IS  バニシングトルーパー 037

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 「そういえば、プロジェクトTDとマリオン先生が合同開発している新型のプランは見たよ。確か、ビルトファルケンだったな」
 「ゲシュペンストMK-IVのデータを元に再設計して、コストを下げて操作性を改善した量産型よ。本当はパートナー機の設計もやってるけど、MK-IIIのパイロットもまだ見つかってないし。さすがに……ねえ?」
 「私達プロジェクトTDはアステリオンに採用した新型テスラ・ドライブと高速状態下の姿勢制御補助プログラムを、マリオン博士は機体の本体と武器を担当してるの。興味を持った人も結構多かったし、はやく売れるといいな……」
 ゴブレットに注がれたワインを眺めながら、つぐみは遠い目になる。
 恋人であるフィリオが研究に専念できるように、彼女は自分なりにプロジェクトTDの資金源を何とかしょうとしているのだろう。

 「頑張ってるな、つぐみちゃん」
 「頭をなでないでよ! もう~!」
 頑張った子供を褒めるように、クリスはつぐみの頭に手を乗せたが、凄く嫌そうな顔で逃げられた。

 「あら皆さん、ご機嫌よう」
 落ち着きのあるやや幼い声で挨拶して、一人の少女は楽しげに話している四人に近づいた。
 ロール巻きにした金色の髪に可愛くて上品な顔立ち、そしてゴージャスなドレスを着ている幼い容姿をしている少女だった。
 その少女の顔を見たクリスは、笑顔で彼女に返事をした。

 「ご機嫌よう、シャイン王女」
 「ご機嫌ようですわ、クリストフ様。ようやくお会いできましたわね」
 気品溢れる優雅な仕草で、シャイン王女と呼ばれた少女はクリスに言葉を返した。
 シャイン・ハウゼン。地中海沿岸に位置する小さな国、リクセント公国の王女たる人物である。先代元首である父が既に亡くなったため、彼女は12歳という若さで国家元首の位置に立たされている。
 まだまだ子供だが、その可愛いらしい外見としっかりした性格で国の中では人気が高く、多くの支持を得ている。
 
 「俺も王女と会いたかったのですが、この二日間はちょっと忙しくて。本当に申し訳ありません」
 「いえ、今こうしてクリストフ様と話できて、とても嬉しゅうございますわ。ところで、クリストフ様は最近日本にいらっしゃると聞き及んでおりますが、それは本当ですか?」
 「はい、本当ですよ。今は一生徒として、日本のIS学園に入学してます」
 「それは羨ましいですわね。私も前々から一度日本に行って見たいと思っておりますの」 
 「日本はいいところですよ。美味しい食べ物も沢山ありますし。今度王女が来た時は、自分が案内いたしますよ。ところで今回のイベントで、王女のお眼鏡に適った機種がありましたか?」
 リクセント公国は豊富な埋蔵量を誇る金鉱山を所有しており、気温も安定した住みやすいため、金融業と観光業が発達している。しかしIS開発に関してはそれほど発展してないため、他の研究企業が開発した機体の生産技術を購入して採用するのが慣例になっている。
 だがクリスの質問に、シャインはかぶりを振って否定した。

 「いいえ。最近は色々と物騒ですので、我が国も今回は自衛のために資金を惜しまないつもりでございますわ」
 「それでつまり、高性能のワンオフ機開発が欲しいということでしょうか」
 「はい。私の専用機の開発を、引き受けていただけませんか?」
 行儀よく首を小さくひねって、シャイン王女は可愛らし微笑んだ。
 しかし彼女の言葉に、クリス達はビックリして目を丸くする。

 「王女ご自身が、ISにお乗りになられるというのですか?!」
 「はい。その通りでございますわ。国と民を己の手で守れるこそ、一国の君主に相応しいだと父上から教われましたの」
 「いや、そういう意味じゃないと思いますが……」
 まだ12しかない、しかも一国の元首たる少女が、自らISに乗ろうとしている。
 これはいくら何ても危険すぎる。臣下たちが泣き顔で彼女を止める光景が目に浮ぶようだ。

 「ちょっと、お待ちなさい!」
 唐突に、凛と張り自信に満ちた鈴のような声で、一人の女性がそのさらさらとした茶色のロングヘアを揺らしながらクリスの視界に現れ、彼とシャインの会話に口を挟んできた。
 
 短くて真っ白なドレスを着たその女性は、大きくて活発な瞳と綺麗に整えた顔立ちで人に高貴な印象を与えながら、クリスより一歳か二歳年上の外見と裏腹に、つぐみとエクセレンすら凌駕している抜群のナイスバディを所有している。
 そして気のせいか、彼女はちょっと長くて先端が尖った、まるでファンタジーに出てくるエルフみたいな耳をしている。
 ドレスの側面から彼女の魅力的な横乳を拝めることができそうだが、背後からシャルの殺気を感じたのでクリスはすぐ目を逸らした。

 「開発を依頼する新型ISは、この私のド専用機にするって話でしょう!?」
 責めるように眉を三角形に吊り上げて、その女性はシャインに向かってそう言った。
 けれどその目は至って優しさに満ちており、それを見た人は誰でも彼女はシャインの心配をしているのがわかる。

 「ネージュ様……ですが!!」
 「おだまりや! この私に逆らおうなんて、105年早いわよ!!」
 反論しようとするシャインを、ネージュと呼ばれた女性は一喝して黙らせた。
 淑やかで大人しいシャインと対照的に、ネージュは中々に強気で爽快な性格をしているようだ。しかしいくら心配から出た言動とは言え、やや悔しそうに唇を噛んでいるシャインはちょっと不憫に見えた。

 「シャイン王女、こちらは……?」
 一歩前へ出て、クリスはシャインの隣に立ってネージュと向き合った。丁度ネージュもその綺麗な目を上げて、クリスと視線を合わせた。
 
 (どこかで、見たことある?)
 初対面のはずなのに、ネージュと目があった瞬間、クリスは彼女の顔をどこかで見たことあるような気がした。

 「ご紹介いたしますわ、クリストフ様。私たちハウゼン家の先……いえ、姉のネージュ様でございます。ネージュ様、こちらはハースタル機関の専属テストパイロットの、クリストフ様でございます」
 「クリストフ・クレマンです。よろしくお願いします」
 姉が居るなら、何もシャインに政務をやらせることはないと思うが、その辺に複雑な事情があるなら、深入りしないほうがいいだろう。
 そう思って、クリスは簡潔に名乗りを上げた。

 「ネージュ・ハウゼンよ。よろしくね。しかしなるほど、あなたがシャインがよく言っていたクリストフか……」
 気楽に自己紹介を済ませた後、ネージュはクリスの周囲に立つエクセレン、つぐみそしてシャルの顔を見回した後、にやけた顔で意味深げな目を向けてきた。

 「想像通りのドスケコマシね。そんなじゃ、シャインは任せられませんわ」
 「あはは、これは手厳しいな。しかしシャイン王女といい、ネージュ様といい、ハウゼン家は綺麗な人が多いですね」
 ネージュの直球言葉を軽く笑い流して、クリスは適当に社交辞令を繰り出す。
 もちろんシャインもネージュも、社交辞令抜きにしても十分美人の範囲に入っているから、これはクリスの本音でもある。