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IS  バニシングトルーパー 037

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 「当然よ。我らハウゼン家にはド美形しかあり得ませんわ。例えばシャインの父と祖父も、若い頃には大変のドイケメンっぷりでしたわよ。あの頃は、城のメイドたちが毎日……」
 「まるで見てきたみたいな言い方をしますね」
 「その通りよ。……あなた、私を何歳だと思います?」
 悪戯な笑みを口元に刻み、ネージュは上体を僅かに屈めて、上目遣いでクリスに楽しげな視線を送る。
 その元気溢れる綺麗な瞳に、思わずドキッとしてしまう。
 しかし背後からカチっと聞こえたリボルビング・バンカーの装弾音に、クリスは直ぐ視線をネージュの瞳から逸らして、手を拳にして口元に当てて咳払いをした。

 「えっと……17でしょうか」
 「残念! 1が足りないわ」
 「18、ですか?」
 「まだまだ残念! 正解は……117歳でした!」
 「ネージュ様!」
 得意げな表情に愉快な笑みを浮かべて、ネージュは指を頬に押し当ててウインクをしたが、隣のシャインはなぜか取り乱して彼女の口を封じようとする。
 もちろん彼女が明かした答えを、信じた人間は誰一人いない。白雪姫を連想させるその白くてきめ細かい肌と若々しい顔立ちはどう見ても十代後半の少女のもの。
 人外でもない限り、いくらなんでも117歳はあり得ない。

 「ご冗談を。ネージュ様のような美しい人が、117歳だなんて信じられませんよ」
 「あらら、やはりお世辞がド上手いわね。あの修練バカとは大違い。ご褒美に、この私がサインしたCDをあげますわよ」
 「CD?……っあ」
 CDと言う単語で思い出したが、この前楠葉汁を飲んで意識を失っている間に買ったCDは、ネージュのCDだった。
 アイドルとして活動していたのか。確か鈴はこいつのファンだったな。
 あとで写真を撮って呟いておこう。

 「それで話を戻しますが、シャイン王女はリクセント公国防衛用の高性能専用機が欲しいと言いましたね。何機が必要ですか?」
 ネージュとの他愛のない話が一段落ついた後、クリスはシャインに向き直して話を仕事の方に戻した。
 
 「えっと……最低でも二機、費用の見積もり次第では三機を依頼させていただきますわ」
 「スペック的に何かご要望はありますか?」

 「それは……」
 「それはもちろん、この私に相応しいド優雅で、ド華麗な高機動ISでなければなりませんわ。 そうそう、式典の時にも使いますから、ド可愛いデザインじゃないとダメよ」
 甲高い声で、ネージュはシャインの言葉を遮るようにもう一度割り込んできた。
 どうやらとことんシャインにISを触れさせない気らしい。
 まあ、この場でどうこう言っても正式な依頼として受理されることはないけど、個人としてもシャイン王女に自重して欲しいものだ。

 「しかし可愛いって……」
 苦笑いして、クリスはジュースを啜りながら考え込む。
 グルンガストシリーズを可愛いと言ってくれる人がいるのだろうか。隆聖以外に。いや、隆聖も多分言わない。
 ハースタル機関の技術チームは実用主義の人が多いから、可愛いデザインはちょっと無理かもしれない。そもそも最近はRシリーズとヒュッケバインMK-IIIで手一杯だから、完全新規機種の開発依頼を引き受ける余裕は多分ない。
 フィリオさんなら可愛いデザインと高機動IS開発は得意だから、推薦しておくのもいいが、プロジェクトTDにそんな余裕があるのかはちょっと分からない。
 つぐみに目を配って、アイコンタクトを取って見る。すると、彼女は真剣な表情で軽く頷いた。
 どうやら同じ発想に辿ったらしい。でも問題ないなら、ここで一つ貸しを作っておこう。
 そう決めたクリスは、つぐみに手招きをした。


 「ハァ……」
 ネージュとシャイン達から一歩引いたところで、シャルはクリスの背中を眺めて小さなため息をついた。
 校内だろうと校外だろうと、クリスの周りには美女たちが集まってしまう。彼女としては、やはり喜べる話ではない。

 「どうした、ため息なんて」
 「あっ、マオさん。お疲れさまです」
 横から声をかけられ、その方向に顔を向けると、先輩であるリンの姿がシャルの視界に入った。
 ゴブレットを持って、リンはシャルの隣まで歩いた。そしてシャルの視線を辿ると、美女達と楽しげに話しているクリスの姿が目に入った。

 「なるほど。君も苦労しているな」
 「いえ、そんなことは……」
 「まだ若いんだから、無理するな。しかしクリスのやつ、女の扱いが上手くなったのはいいが、あそこまでいくと厄介だな。君にはすまないと思っている」
 「えっ? どうしてマオさんが謝るのですか?」
 「もしあの頃、私がちゃんとあいつを見張っていれば、クリスもあんな性格にはならなかったかもしれない」
 まるで何か不愉快なことを思い出したように、リンは眉の間に皺を寄せた。そんな顔を見せられて、さすがにあいつとは誰のことなのかをシャルは聞けなかった。

 「同じ女として、ああいう男と付き合うコツを一つ教えてやる。それは……待つことだ」
 「待つこと……ですか?」
 「そうだ。ああいう男はすぐ余所見して君の目が届かない所に行ってしまうが、本心では君のことをずっと思っているはずだ。だから、最後は必ず君の元に戻ってくる。今のようにな」
 そんな言葉を口にしているリンのその無表情だった顔に、人を安心させる優しい笑みが薄く浮んだ。

 「あっ、来てたんですかマオさん。お疲れ様です」
 「ああ。お疲れ」

 「……えっ?」
 聞き慣れたの声に、シャルは反射的に目を正面に向けた。そして彼女の視界に、見慣れた意地悪な笑顔が映りこむ。
 見た瞬間からドキドキして収まらないほど、憎たらしいくらい大好きな男の子の笑顔だった。

 「待たせたな、シャル。一人で寂しくて泣きそうだろう」
 シャルの元に来たクリスは、彼女の頭に手を乗せて、顔を覗き込みながらそう聞いた。
 プロジェクトTDのことはネージュとシャインに紹介しておいた。あとは彼女たちが勝手に話しを進めてくれるだろう。丁度ブライアン事務総長とイングラム社長も部屋に戻ったし、そろそろシャルと退場して温泉リゾートへ行く頃だ。

 「べ、別に寂しくなんかないよ!」
 本当は凄く嬉しいけど、素直に答えるのも癪だ。桜色に染まった頬を隠すように顔を伏せて、シャルはわざと怒ったなような口調で反発の言葉を口にした。
 そしてそれを聞いたクリスは残念そうに肩を竦めて、手をシャルの頭から離した。
 
 「じゃ、そろそろ行こう。シャルは部屋で着替えを取ってきてくれ。俺は車の方を何とかする」
 「うん、わかった」
 軽く頷いた後リンに一礼して、シャルは宴会場の出口を向かった。そして彼女の後姿を見送った後、クリスはリンと向き合った。

 「マオさん。車を貸してくださいよ。明日の朝には戻るから」
 「……お前免許ないだろう」
 「大丈夫ですよ。MTでも運転できますから」
 昔イルムさんと町でナンパして夜遅くまで遊んだ後研究所に戻るときに、よく運転を任されて峠道を走っていた。

 「バカを言うな。私がお前達を送っていく」
 「いやでも、マオさんも疲れてるんでしょう?」