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IS  バニシングトルーパー 040

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 海の家の仕事はイルムさん一人でやれよ。大体、客が全然来ないじゃないか。

 「ふんっ、それはどうかな」
 不敵な笑顔を浮べてイルムはクリスから離れて、その派手なアロハシャツから何か紙切れのようなものを取り出して、高く掲げた。
 写真数枚だった。

 「はい、シャルロットちゃん、セシリアちゃん! ここに注目!!」
 「何ですか? イルムさん」
 「な、何ですの? あの写真」
 イルムに声をかけられ、シャルとセシリア、そしてほかのメンバーも一斉にイルムの手に握っている写真へ視線を向けた。

 「いやはや、まったくもって偶然ですが、ここにはクリスの小さい頃の写真が数枚あるぞ!」
 手に持つ写真を一枚ずつに、イルムは皆に見せた。
 偶然にもヴィレッタのパソコンから見つかったデータだが、クリスを脅かすときは役に立つだろうと思ってプリントアウトしといて正解だったな。
 無邪気に笑う小さなクリス。涙目の小さなクリス。るクリス。落ち込んで膝を抱える小さなクリス。悔しそうに唇を噛み締める小さなクリス。

 「「なにっ!」」
 「ぷう――!!」
 幼いクリスの写真があると聞いて、シャルとセシリアはすぐに反応してぱっと立ち上がり、イルムに近づいてきて写真へ手を伸ばし、クリスは口の中の水を全部噴出した。
 しかしイルムは一歩早く写真を自分のポケットにしまい、迫ってくる二人にニコリと笑った。

 「どうだい? 欲しいかい? 」
 「「欲しいです!!」」
 「欲しいなら今から二時まで、この店の仕事を手伝ってくれ。そしたらこの写真は全部お前たちにやるぜ?」
 「「やります! やらせてください!!」」

 「ふざけるなぁあああ!!」
 口元の水を拭いて、半狂化したクリスはイルムへ飛び掛る。
 なにこの羞恥プレイ。なんで自分の同級生にそんなものを晒さなければならん。
 やらせん! やらせはせんぞ!!

 「そんなもの、全部消してやっうわああ!!」
 だが残酷なことに、その手がイルムに届く前にクリスは二人の少女によって床に押えられた。
 写真を欲しがって目の色を変えている、シャルとセシリアだった。

 「ごめんね、クリスちゃん。でもシャルお姉ちゃんはあの写真が欲しいの」
 「すみません、クリスさん。心苦しいですがわたくしも人の子、欲しいものは欲しいですわ!」
 「お、お前ら……!!」
 動きは完全に封じられてまったく動かせない。普段は喧嘩するくせに、こういう時にだけ連携は取れるのだな! 

 「これで話は決まったな。よろしくな、シャルロットちゃん、セシリアちゃん」
 「「はい! よろしくお願いします!!」」
 クリスは床に踏みつけて、二人は丁寧にイルムにお辞儀し、悪魔の契約を完成させたのだった。

 「くっ……!」
 床に押さえつけられて動きも取れずに、クリスは悔しげに地面を叩いた。
 なんてことだ。あんな危険で恥ずかしい弱みがイルムさんに握られたとは。

 近くにいる一夏と隆聖は女の子たちにかまけて、こっちの援護をしてくれない。
 いや、様子がおかしい。鈴のやつ、こっちを見る目が笑っている。
 そうか。お前らは国際条約に則って一夏と隆聖を牽制し、シャルとセシリアの援護をしているのか!
 しかし冷静に考えれば、力ずくでイルムさんから写真を奪い取れる確率は低いし、あの二人にも止められる。
 ならどうする? 
 交渉するか? こっちに交渉のカードがない。こんなことでマオさんに告げ口するのはポリシーに反する。
 イルムを店から誘い出し、闇討ちにするか? いや、彼ほどの男に、そんな手が通じるわけがない。
 チッ、結局は様子見か。

 「何をやってるんだ、貴様らは?」
 そんな時に店の入り口の方に響いたのは、聞き覚えのある成人女性の威厳のある声だった。
 「「あっ!」」
 その声に反応して全員は一斉にそこへ視線を向け、クリスもその一瞬の隙についてシャルとセシリアの踏みつけから離脱して、出口へ振り向く。
 我らの麗しき担任先生のお出ましだ! 約束されたエデンがキター!!

 「……って」
 しかしそこに立っている千冬の姿が視界に飛び込んだ途端に、クリスは酷く落胆して再び無力に地面に崩れ落ちた。
 せっかく担任の官能的な姿が見れると思ったのに、これはないぜ、織斑千冬。
 よりにもよって、水着の上にパーカーなんて無粋なモンを着やがった! しかもチャックまで閉じて胸元までしか見えない!!
 彼女の後について、数名の女子生徒が店の中に入った。するとイルムはすぐ爽やかな笑顔でシャルとセシリアと接客をはじめた。

 「どうした。私は約束通りあの水着を着たぞ?」
 愉快そうに薄く笑いながら腕を組み、店の中に入った千冬はクリスを見下ろす。
 水着の上にパーカーを着ちゃダメだなんて誰も言ってなかったぞ? とばかりの表情だ。

 「チッ、なんだよ……」
 カウンター席でこっちを見ている一夏はかなり失望したらしく、僅かに肩を落とし自分しか聞こえないように舌打を鳴らした。
 隣に、箒と鈴は顔が微妙に引き攣り始めた。

 「くっ……! 子供ですかあなたは!! 早く脱いでください!! そして、我らに甘美な潤いを!!」
 「断る」
 勢いよく地面から再起して、クリスはカウンターを叩きながら千冬に訴えても、あっさりと断られた。
 往生際の悪いやつめ。いいだろう、それ相応の対処を取らせてもらうぞ。

 「では真面目な話をしましょう。なぜそこまでして水着姿を見せたくないんですか?」
 真剣な表情に切り替え、クリスは千冬の目を見て話しながらゆっくりと距離を詰めていく。
 後ろからシャルとセシリアが投げてくる割り箸が後頭部に直撃しても、とりあえず我慢する。

 「なぜも何も、露出度が高すぎる。動いたらすぐ見られるじゃないか」
 「だから何ですか。いいですか? 今の織斑先生は女性として一番輝いている時期に居ます。例えるのなら、青みがまだ残っている赤い林檎のようです。人を夢中にさせる上品かつ濃厚な甘さの奥底に、胸を締め付けてくる爽やかな酸っぱさを秘めてます。そう、ガキ共にッ痛い!……ま、負けないほどの柔らかさと弾性のあるすべすべとした肌、見事に完成されたグラマラスなボディラインを備えたあなたは、まるでどこか緻密に計算されたような美しさと力強さ、そして荒々しさが完全調和した世界観を持つ芸術品です。なのに、あなたはその美を自分だけのものにするつもりですか!!」
 「し、知らんそんなこと!! 大体……もうガキじゃないんだ。海ではしゃいでも笑われるだけだぞ!」
 僅かに頬を赤く染め、千冬はあくまで頭を縦に振ってくれずに抵抗する。だが彼女の今のセリフを聞いた一夏は反応した。

 「そんなこと、俺はさせない!!」
 千冬に向かって、一夏はそんな言葉を声に出して叫ぶ。
 「千冬姉をバカにするやつは、俺が許さねえ!!」

 「一夏お前……」
 さすがはブラコン。弟の真剣な言葉を聞いて明らかに動揺し始めた。桜色だった頬が一瞬で完熟した林檎のようになり、千冬は照れ隠しのように眉を顰めて目を伏せた。