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IS  バニシングトルーパー 041

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 もちろん、そんな態度がレオナに通用するわけもなく、さらに彼女をイラつかせるだけ。

 「恍けるのをよして。あなた、何をしょうとしていたの?」
 「何って、そりゃ……散歩?」
 「なぜ疑問系? まさか、また女の子を誑かして……!!」
 「ち、違うって! えっと……ああ、今日は一段と可愛いね」

 何とかこの場を切り抜こうと、クリスは別の話題を振ってみた。
 正面からレオナの頭からつま先までじっと見つめた後、彼女の目を見えて微笑みかけ、先ずは彼女の水着姿を褒めた。

 嘘の言葉ではない。
 学園指定仕様のワンピースタイプの水着が、その元々抜群のスタイルをさらに引き立てている。とくにその豊満な膨らみを収めている胸の部分がかなり窮屈に見えて、逆にビキニタイプより遥かに際どく感じる。
 何と言うか、スタイルのいいやつはやはり何を着ても魅力が出るもんだな。
 しかもご丁寧に胸元の名札に「1-4 れおな・がーしゅたいん」って書いてある。ネタのつもりでやったのか?
 いやしかし、いくらレオナは軍人生活に慣れていても、本質は年頃の乙女。別の水着を買わなかったのか?
 おかしい。昔はデートの時でもちゃんとおめかししてくるのに。

 「ジロジロ見ないで、このスゲベ!!」
 「ああ、すまん。つい見惚れててな。でも、結構意外な選択をしたな。レオナなら、凄く派手なやつを着てくると思ってた」
 「し、仕方なかったのよ! エルザム様が今年の新作を送ってきたから、確認もせずに海まで持ってきて、開けて見たら、その……」
 赤く染めた顔を逸らして目を伏せ、レオナは体をもじもじさせながら、クリスにそう告げた。

 「エルザム様の……新作、だと?!」
 重要なキーワードに反応して、クリスは思わず目を丸くして息を飲み込む。
 エルザム・V・ブランシュタインが今年の新作と言えば、まさかただいま我らが一組の担任が着用し、砂浜で衝撃と絶賛の嵐を巻き起こしている、アレ(トロンベ)のことはあるまいな?!
 そうだ。きっとアレだよ。
 荒々しくこの夏を駆け抜けるアレに違いない。

 「俺としたことか……!!」
 恥ずかしそうにしているレオナを前に、クリスは仰天した。
 なぜそこまで気が回らなかった。新作を周囲にプレゼントするということは、身内にも贈ったに決まっている。そして、ブランシュタイン家には年頃の女の子が居ない。なら、エルザムが真っ先に贈る相手は、レオナのはずだ。
 スクール水着も悪くないが、やはり男として、勝利(ヴィクトリー)のVの誘惑には勝てない。
 エルザム少佐、どうせなら命令を出せよ。あれ以外を着るなと。

 「レオナ!!」
 レオナの両手をぎゅっと握り、クリスは真剣な顔で彼女へ迫る。

 「なっ、何かしら、いきなり」
 吐息が掛かる程間近に迫ってきたのクリスの顔に、レオナは胸の鼓動が大きく跳ねていくのを感じていながらも、彼から目を離すことはできなかった。
 凄く真剣で情熱的な瞳だった。いつもこれくらい真面目ならよかったのに、と思わせるくらいだ。

 「レオナ。実は俺、お前が……」
 「えっ?!」
 この言葉の前半を聞いただけで、レオナは自分の頬が燃えているように熱くなっているのを感じた。
 い、一体私に何を伝えようとしているのだろう。
 ままま、まさか!?
 で、でも、彼には既にシャルロットが居るのに、私は……!!

 「俺は、お前があの水着を着た姿が観たいんだ!!」
 「……はっ?」
 「だから、トロンベだよ! 今すぐあの黒くてV型のトロンベに着替えて来い!!」
 「……」
 ああ、思い出した。
 こいつが私に真面目な顔で話す時は、大体ろくでもないことを企んでいる時だ。
 このナンパ野郎、よくも!!

 「あっ、あれ? レオナ様?」
 無言になったレオナの体から黒いオーラが発散し始めたのに気付き、クリスはすぐに彼女の手を離して、後ろへ一歩下がった。
 脳内アラームがビービーと鳴り響き、男としての本能が危険だと告げている。
 やはりさっさと逃げるべきだった。

 「ああ、急ぎの用事を思い出した。では!」
 と、迷わず踵を返して踏み出そうとしたが、レオナの動きが一歩早かった。
 クリスの左腕を掴んで、怒りの赴くままに砂の地面を蹴り、必殺技を放った。

 「ふっ!!」
 「うわああああっ!! またそれかああ!!」
 パサァッ!!
 お馴染みの背負い投げの再来だった。
 蒼い空と蒼い海が一瞬で引っ繰り返され、クリスは唐突な浮遊感を感じた後、海の中へ落ちた。
 そして怒ったように鼻をフンと鳴らし、レオナは迅速な運歩で去って行ったのだった。


 ――チッ、ケチなやつめ。減るもんじゃあるまいし。
 海面から顔を出して、クリスは小さくなっていくレオナの背中を眺めながら、心の中でそんなことを呟いていた。
 丁度このタイミングで、少し離れた所で話している五人グループが目に入った。

 可愛い女子四人が背の高い成人男性一人を囲んで、楽しげに話しながら笑い合っていた。

 「じゃ、先にジュースを注文して待ってるね、イルムおじさん」
 「ああ、直ぐに行くぜ、俺の天使たち。あとおじさんはやめろ。俺はまだ二十代だぜ」
 「あははは~十分おじさんじゃない」
 「こらっ! お仕置きするぞ!?」
 「いや~セクハラだ!!」

 笑いながら去っていく少女たちを追いかけるふりをして、何歩か走った後手を振り、男は振り返ってサングラスをかけた。
 ナンパ絶好調のイルムだった。
 周囲を見回して新しい目標を見定めていると海の中にいるクリスの存在に気付き、イルムは波打ち際まで歩いて、手を腰に当てて彼に話しかけた。

 「そんな所で何をやってんだ? 諦めたらそこで試合終了だぞ?」
 「イルム先生、バスケがしたいです……って誰も諦めてませんよ!」
 
 俺は膝に怪我を負った不良か! と海から立ち上がり、クリスは前髪を上げる。
 女に海に投げ込まれたとはさすがに口にいえない。
 顔を拭いて、クリスはサングラスを拾い上げてかけ直す。

 「しかし一度に四人とは、時間がかかったのでしょうか」
 「何を言う。俺は常にALLWアタックを心掛けているぞ?」
 クリスの問いに、イルムは余裕的な笑顔で答えた。

 オールダブルアタック。一度に四人をナンパするの技能だ。
 それなりの技量がないと、すぐ同時反撃を食らって再起不能に追い込まれる恐れがあるため、ハイリスクハイリターンのスキルとして知られている。
 まさか常時発動していたとは、なんと恐ろしい男。

 「……じゃ、今の所何人仕留めたのですか?」
 「ふんっ、今の俺の精神コマンド『愛』の消費SPは45、とだけ言っておこう」
 「……っ!!」
 不敵に笑うイルムに、クリスは思わず戦慄した。
 撃墜数50を超えて、初期気力105、エースボーナスまで貰ったということか!
 こっちの撃墜数の三倍以上だぞ。しかもまだ40分しか経ってない。
 平均一分に1.25人のベースでナンパしていたのかよ。
 ええっ! 海でのイルムさんは化け物か!!

 「どうした。ギブアップかい?」
 まるでクリスの考えを読んだかのように、イルムはそう言った。