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IS  バニシングトルーパー 041

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 手錠は一応解いてくれたが、自分の部屋に戻ったクリスは激しい空腹感に襲われ、やむなくさっさと布団に入って休むことにした。
 ああ、寒い。心も、体も。さっさと明日の朝にならないかな。
 これじゃAMガンナーが来ても、きっとあの高速空中機動のGに耐えられない。

 買ったお菓子は全部シャルのバッグにあるし、同室の隆聖と一夏もいないし。
 寝返りを打って、目を窓の外へやると、満天に輝く綺麗な星空がそこにあった。
 IS学園での夜もたくさんの星が見られるが、ここではさらに星が細かく見えた。

 大きな星がついたり消えたりしている…あはは。
 大きいな。彗星かな? いや、違う。彗星はもっと…バッて動くもんな。

 無力に、クリスは口元に薄い笑みを浮かべた。
 耳元に届いたは静かな浜辺に打ち寄せる波の音と、真っ暗な林の中の虫の囁き。気持ちよい夜風が肌を撫でる。
 静寂の中、クリスの意識は段々薄れていくのだった。


 *


 クリスが夢の中に旅立て始めた頃に、彼の部屋と扉で隔てた廊下を一人の少女が歩いていた。
 普段にリボンで束ねていたレモン色の髪を無造作に結い上げ、旅館の浴衣を着たその少女――シャルロット・デュノアは今、サンドイッチを四つ乗せた皿を持っていた。
 目的地は、廊下の先にある罪人(こいびと)のいる部屋。

 ――今頃あいつは部屋で一人寂しくしているのかな。こっちが真面目に働いている時にナンパなんて許し難い重罪だけど、夕食抜きの刑をしたし、そろそろ許してあげようかな。
 ここは手作りのお握りで差し入れをして、自分のカノジョの有難みというものを再認識させてやろう。
 感激して抱き締めてくれるの想像すると、顔をにやけさせたシャルの足取りは更に軽くなったのだった。

 「クリス?」
 目的地の部屋の前に到着すると、シャルはまず扉の外で彼の名を呼びかけた。
 しかししばらく待っても、返事は帰ってこないし、部屋の中から物音も聞こえない。
 いつまで待っても仕方ないから、お邪魔するよと言って、シャルは扉を勝手に開いて部屋の中に入った。 

 「あれ、もう寝ちゃったの?」 
 生徒達がまだ夜の娯楽に騒いでいる時間帯だが、この部屋の中だけはまるで別空間のように静かだ。奥の畳に敷いた布団の中で、銀色髪の少年は安らかに寝息を立てていた。
 音を立てないように部屋の奥まで歩き、シャルはサンドイッチを枕元において、彼の傍に座った。

 普段なら、こんな時間では絶対起きているはずなのに。夕食抜き刑がよほど堪えたのかな。
 そう思うと、ちょっと彼に申し訳ない気がしてきた。
 いやでも、ナンパしてたんだから、これくらいの罰は当然だよね。

 「……バカ」
 穏やかな寝顔を晒しているクリスに向かって、シャルは唇を尖らせて独り言のように呟いた。
 久しぶりにイルムさんと会って嬉しいのは分かるけど、あまり悪ノリはしないで欲しいものだ。
 しかしそれでも嫌いになれなくて、むしろ珍しく歳相応にはしゃいだクリスを見て、可愛いと思ったのは、惚れた弱みってやつかな。
 なんか、悔しいな。

 彼の額にかかった髪を掻き分けて、手のひらを乗せてみた。
 ちょっと意地悪そう吊り目も、いつもドス黒い笑みを浮かべてる口元も、今の彼の顔から見られない。そこから読み取れるのは、ただ薄くて淡い、寂しいような感情だった。

 ――どうしたの? 淋しい夢でも見てるの?
 開いている彼の手のひらに自分の手を滑り込ませて指を絡め、私がここにいるよ? とばかりに彼の手の甲を自分の頬に当ててみた。
 すると彼の指から、僅かにも握り返してくれるような力を感じた。
 そんな小さな反応が、堪らなく嬉しくて、胸の奥底から湧き上がる衝動が、抑えきれない。

 ――キスが、したい。 
 別に、恋人だし、初めてじゃないというか結構してたし、いいよね?  

 空いている手をクリスの頬に添え、シャルは腰を屈めて上体を前に倒し、ゆっくりと彼の口元に唇を寄せる。 
 そして目を瞑り、そっと触れるだけの口付けを、落とした。
 それだけで、なぜか凄く満たされた気分になった。

 「……うわっ!!」
 クリスから離れようとした時に、いきなり背中から引っ張られたような力を感じ、バランスを保てずにシャルは彼の体の上に倒れ込んみ、彼の胸に顔が押し付けられた。

 「……夜這いか?」
 いつの間にか目が覚めたクリスは腕をシャルの腰に回して、彼女を抱き締めた。
 手でシャルの後頭部を撫でながら、彼女のさらさらとした髪に顔を寄せて、その香りを堪能する。

 「い、いつから起きてたの?!」
 「手を握られた所から」
 無力な抵抗をするシャルを腕に閉じ込め、クリスはすぐ近くにあるサンドイッチを視線で捉えた。
 差し入れか。やっぱり持つべきものは優しい彼女だな。
 シャルを抱き締めたまま上半身を起こして、クリスは彼女の額に手のひらを乗せて、顔を上げさせた。

 「反省はした?」
 ドキドキして頬を赤に染めながら、シャルはわざとその紫色の瞳を吊り上げて、怒ってるような表情でクリスを見上げた。

 「海より深く反省しました。本当にごめんなさいでした」
 申し訳なさそうな笑顔をして、クリスはシャルを背中を優しく撫でながらそう詫びた。
 すると彼のお腹から、やや情けない音が漏れた。

 「食べても、いいかな?」
 美味しそうなサンドイッチを指差して、クリスはそれを持ってきたシャルの許可を求める。

 「……いいよ」
 「ありがとう」
 いまいち誠意が感じられないけど、何だか可哀想だからやっぱり許すことにする。
 クリスの胸に顔を埋め、腕を彼の背中に回して抱き締めたシャルは、肯定の返事をした。
 そして許可を得たクリスは嬉しそうに礼を言って、サンドイッチへ手を伸ばした。

 「……美味いよ」
 キャベツとトマトを挟んだ簡単なサンドイッチだか、空腹という最高のスパイスのお蔭で、どんなものよりも美味に感じた。

 「しかしちょっと足りないな。これを食べ終わったら、シャルのことも食べようかな」
 「へ、変なこと言わないでよ……」
 冗談のつもりでシャルの耳元でそう囁くと、彼女は耳元まで真っ赤にして小さなな声で返事した。その可愛らしい反応に悪戯心を擽られ、シャルの耳にそっと息を吹きかけると、すぐに反応した彼女は喉から言葉にならない呻き声を漏らし、クリスの背後に回した腕に更に力を篭めながら、照れ隠しに拳で彼の背中を思いっきり叩いた。

 そんな時に、突然廊下からばたばたと慌しい足音が聞こえて、二人はギョっとした。
 足音は段々と大きくなってきて、こっちに近づいてくる。やがてこの部屋の前でぴたりと止まると、扉はやや乱暴に開かれた。
 そこから現れたのは、何個かサンドイッチを乗せた皿を持って、息切れしているセシリアだった。

 「お待たせしました! ってまたイチャイチャしてますし!!」
 騒がしい声を上げながら、セシリアは部屋の奥に入ってきて二人の横に座り、自分の作ったサンドイッチをクリスの口元まで持っていく。

 「さあ、クリスさん、このわたくしが愛情を篭めて作ったサンドイッチを、お召し上がりください!」