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IS  バニシングトルーパー 043

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 彼らと一緒に戦って、自分もきっと何かを掴むことができるのだろう。
 だから――。

 「私も、出撃させてもらう」
 そう言った彼女の顔は僅かにも、いつもの凛々しさを取り戻すことができた。


 *


 「準備はよいのじゃな? ブロンゾ27」
 「はい」
 暗闇の中、少女は自分への問いを答えた。
 ブロンゾクラスの第二十七番だから、ブロンゾ27。それが彼女のコードネームであり、名前でもある。
 昔は人間らしい名前を持っていた。けれど、今はだれも呼んでくれない。
 ちゃんと呼んでくれる人は、もう側にはいない。

 「では、起動を始めるのじゃ」
 「了解です」
 スカイブルー色のISスーツを纏い、ヘルメットを被った彼女は、真っ赤な重装甲砲撃ISの装着位置に座った。
 体が、冷たい機械に包まれていくのが感じる。

 「今回の役割は、分かっておるな?」
 「はい」
 少女の意志とは関係なく、彼女はまもなく戦場に駆り出される。
 けれど、拒否することはできない。

 「しっかりせい。今回もしくじったら、ワシはアウルム1を回収せねばなるまいからのう」
 「やめてください! それだけは!! 任務も実験も私が受けますから!!」
 耳元に響く恐ろしい言葉に激しく動揺し、少女は哀願する。
 遠い昔に別れ、今は幸せに暮らしているのであろう姉妹のために、少女は身を挺して苦しみを受け入れようとする。
 大事な人達の幸福そうな笑顔を想像することだけが、彼女の支え。

 でも記憶の中では、なぜかこれは受けるべき罰って気がした。
 自分の身可愛さに、大事な人を見捨て、その人の思いを踏み躙った罰だ。
 おかしいな。昔の記憶なんて、もう綺麗に消されているというのに。


 *


 哀れな少女(にんぎょう)が心を痛めている頃に、IS学園の専用機持ちの生徒たちは既に海岸に立って、銀の福音捕獲作戦を実行しようとしていた。
 先発メンバーの一夏、箒、クリス、レオナ、隆聖、ラウラは既に各自の機体を展開して、空中に浮いていてた。
 残りのシャル、セシリア、そして鈴は千冬と一緒に、砂浜から空に居る六人を見上げていた。

 「では各自は座標を確認しろ。方向を間違えるなよ? 特に一夏」
 「うっせえな。俺は方向音痴じゃねえよ」
 各員に最終確認をさせるクリスの指名に、一夏はそう返事した。

 「箒はくれぐれも身の安全を第一にしてくれ。危険だと思ったら一夏を囮にして、すぐ撤退しろよ?」
 「ふんっ、了解した」
 「おいお前ら!!」
 作戦の前に、一夏と箒の緊張を解そうとクリスは適当な話題を振ってみたが、意外にも二人は然程緊張していないようで、それを理解したクリスは、安心したように薄く微笑む。

 「レオナとラウラは、大丈夫だな?」
 「問題ないわ」
 「いつでもいいぞ」
 振り返ってレオナとラウラの状態を聞いてみると、二人は落ち着いた口調で肯定の返事を返した。
 この二人はさすがは軍人だけあって、かなり落ち着いた態度をしている。

 「あとは……隆聖?」
 「ああ、大丈夫」
 最後に隆聖の方を見てみると、彼は二千の技を持つ男の如く親指を立てて笑って見せた。
 暴走した軍用ISを止めることは、人を助けるへ間接的に繋いでいる。
 正義感の強い隆聖の中では、既に戦う理由がこういう風に成立しているのだろう。

 「クリス」
 「ん? シャルか」
 出発しようとしている時に、エクスバインの通信チャンネルから恋人の声を聞こえて、クリスは振り返って下方へ視線を向ける。
 砂浜の上に立ち、インカムをつけているシャルがこっちを見上げているのが見えた。

 「どうした?」
 「その……気をつけて」
 「心配するな。俺は強い。知っているだろう?」
 「知っているけど、心配なものは心配なの!」
 「俺、この戦いが終わったらシャルにナース服を着せるんだ……」
 「不吉なフラグを立てながらセクハラしないでよ、この変態! 変態!!」
 「二回も言うなよ。……じゃ、行ってくる」

 赤面しているシャルに手を振って、クリスは通信を切って振り返った。
 計算上では三十分以内に決着が付くはずだが、それはあくまで何も起きない場合の話。
 個人の憶測でしかないけど、もしこれは人為的な事件なら、必ず何かが来る。しかしどのみち、まずは現場に行かねば、話が始まらん。
 テスラドライブウィングを展開して、背後のメインスラスター二基が青い炎を鋭く吐き出す。
 エクスバインを含めた六つの機影が、一瞬で稲妻と化し、空の向こうへ消えて行った。


 *


 昨日と同じくらいに青くて綺麗な海の上を、シルバー色のIS一機が疾行していく。
 シャープな外部装甲に、大きなスラスターウィングを持つその機体は、ただ今暴走中の軍用IS「|銀の福音(シルバリオ・ゴスペル)」である。
 この機体は今、ISコアのネットワークから孤立され判断能力を失い、他の者を全て敵だと認識し、それを破壊するために飛び回っている。
 なぜそうなった? それは誰も分からん。 
 だが、唯一確定できるのは、この機体をのために、大勢の人間が動き始めていることだけだった。

 ――前方からエネルギー反応確認。回避コース算出。実行する。
 AIの判断に従い、銀の福音はスラスターウィングが羽ばたき、角度を換えて急上昇する。
 直後に、さっきまだ居た場所を大量のビーム弾が掠っていった。
 一旦スラスターを切って足を止め、 銀の福音は前方から来る二つの機影を確認する。

 銀の福音を捕獲するために現れた白き騎士「白式」、そして赤き剣士「紅椿」だった。
 そしてさっき銀の福音へ攻撃を放ったのは、紅椿を纏った箒が片手の日本刀状ブレードで突きを放つことで、エネルギー刃を射出する射撃武装「雨月」だった。

 ――敵対機体確認。破壊行動に移る。
 スラスターを展開して、銀の福音はそのウィングの中に内蔵している砲口を唸らせる。
 |銀の鐘(シルバー・ベル)。それが銀の福音の唯一の射撃武装。
 だがそれは、スラスターウィングの中に内蔵された全部36の砲口であらゆる方向へエネルギー弾を撃てるという、まさら広域殲滅のための武装だ。

 「やはり速い!」
 「攻撃が来るぞ! 散開しろ!!」
 初手がいとも簡単に回避され、反撃が来る前に箒は一夏と散開する。
 すぐさまに銀の福音は機体を回転させ、大量のエネルギー弾をばら撒いてきた。
 その攻撃は、正に光の豪雨だった。二人は全てのスラスターを活用して、必死にハイパーセンサーの視界に映る無数の光点から抜け出そうとして、回避された弾丸は海面に当って、大量の水しぶきが上がってくる。
 それでも完全に回避しきれずに、何発かのエネルギー弾が二人の機体に直撃して、エネルギーシールドゲージを削った。

 「なんて厄介な武器……!」
 「でも、ここから逃がすわけには行かない! 追うぞ、箒!!」
 「分かった!!」
 高度を上げていく銀の福音を追って、一夏と箒は上昇する。