IS バニシングトルーパー 043
この一瞬を狙って、クリスは瞬時加速で煙から飛び出して、サークルザンバーを構える。
「まずはその弓、叩き折ってやる!!」
「……っ!!」
本当の狙いは、命中精度の一番高い羽根つきISだった。
クリスは一直線に接近して、その目障りな弓目掛けて左腕のサークルザンバーを縦に振り下ろす。
驚愕に目を見開き、W17は左腕のシールドでガードしつつ後退するが、クリスの方が早かった。
緑色の煌きの後、その金色の弓は既にサークルザンバーによって破壊された。
「逃がすか!!」
電光石火の一瞬で、距離を取ろうとするW17にさらに膝蹴りを喰らわせ、頭部を掴んでその晒された白い首筋目掛けて、サークルザンバーの唸っている左腕をもう一度振る。
「切り裂けぇええ!!」
しかし相手は三人もいるため、撃墜もそう簡単には行かない。
側面からメキボスの射撃が来ることに気付き、クリスは上半身を倒して攻撃をかわし、W17の腹部を蹴って離れる。
こいつのメイン射撃を無力化できただけで十分だ。次はあの重装甲砲撃タイプの火器を潰せば、接近が大分容易になる。
高度を下げて、クリスは追ってくるメキボスの射撃を避けながら海の上にいるラーズアングリフ・レイブンへ疾行する。
見た目通り、その重そうな装甲と火器を抱えているラーズアングリフ・レイブンは機動性が低い。足部に無限軌道を使えない海上では、海面でホバー移動しながら攻撃をしている。
信頼性重視のために武器は実弾をメインとしているようだが、その分対応も簡単だ。
「そこっ!!」
ラーズアングリフ・レイブンに向けてトリガーを引き、マグナ・ビームライフルの銃口から幾筋の光線が吐き出される。
正面からくるミサイルの雨を爆炎と変え、乱射する粒子ビームは敵へ駆けて行き、何発かがその手に持つライフルに命中してそれを破壊した。
ビーム兵器と実弾兵器が衝突した時、大半の場合、勝つのはビーム兵器。そして突進スピードでは、こっちの方が遥かに上だ。
「覚悟しろよ!!」
何発かのマイクロミサイルが肩と足に直撃したが、ビルトシュバインの防御力なら十分に耐えられる。サークルザンバーを作動させ、クリスはただ標的へ突き進む。
足の遅いラーズアングリフ・レイブンは自分の射撃では相手を止められないと悟り、その分厚い実体シールドを前へ突き出した。
だが、サークルザンバーの切れ味を甘く見てもらっては、困るな!
「はああああっ!!」
右から左へ一文字を書くようにサークルザンバーを振り、そのシールドをバッサリを切断する。そしてクリスは跳躍して、ラーズアングリフ・レイブンの上を飛び越える。
その重装甲が仇になり、旋回速度の遅いラーズアングリフ・レイブンはビルトシュバインの動きについて来れない。敵の背後を取ったクリスはラーズアングリフ・レイブンのバックパックを、サークルザンバーで乱暴に破壊していく。
機翼を切り落とし、二門のカノンの砲身を切断し、バーニアを潰す。
相手の強力武装の大半は、この巨大なバックパックに固定されている。なら先ず破壊すべきなのは、このユニットだ。
「しまっ……!!」
慌てて振り返って、ブロンゾ27と呼ばれた操縦者はハサミ状のナイフを握り、刺してくるが、それを先読みしたクリスは体を屈めて右足を軸心に回転して相手の懐に飛び込み、サークルザンバーで操縦者の頭部を狙って逆袈裟斬りを放った。
「この一撃、かわせん!」
「こいつっ……!!」
距離を詰めて格闘戦に持ち込んだ以上、ここはビルトシュバインの独擅場だ。
凄まじい威力を誇る灼熱の戦輪が閃光を散らし、そのダメージはエネルギーシールドを貫通してラーズアングリフ・レイブンの装甲を凹ませ、ヘルメットにヒビを走らせたが、一発で致命傷というわけにはいかなかった。
「なら!!」
そこでクリスはさらに相手の装甲の薄い肩間接部に踵落としをかまし、ガラ空きの腹部に掌打を打ち込んだ後、一旦ラーズアングリフ・レイブンから距離を取った。
メキボスに捕捉される前に逃げないと不味い。
だが羽根つきの弓と、ラーズアングリフ・レイブンの武装の大半は破壊した。さっきの踵落としがパイロットの関節に上手くダメージを与えたのなら、手持ちの銃器の照準も多少の困難になる。
あとは、一番厄介なメキボスだ。
「くっ……!」
そんな時に、ラーズアングリフ・レイブンのパイロットのヘルメットはこの一連の衝撃で二つに割れ、海に落っこちた。
そこから現れたのは、十代の少女の顔だった。
綺麗に短く切り揃えた銀色の髪と、空のような明るい蒼の瞳。クリスと同じ年に見えるその可愛くて若々しい顔に、苦痛の色が見えた。
「ん? お前は……!」
「戦闘中に女に見とれてんじゃねえぞ!!」
「あっ……!!」
驚いて足を止めた一瞬の隙に、追ってきたメキボスの腹部砲口から青みの帯びた光柱が迸り出て、ビルトシュバインへ迫る。
完全回避はもう間に合わないだと分かり、クリスは防御体勢を取る。
過去に一回だけ味わったことのあるその威力は相変わらず凄まじく、クリスの視界を乱暴に白く塗りつぶし、文字通り彼を吹き飛ばす。
エネルギーシールドがなければ、一瞬で消滅されるところだった。だがこの一撃で、エネルギー残量もレッドゾーンまで突入した。
さらにその砲撃を凌げ、体勢を整えようとする時に、背後からの冷たい声がクリスの耳に届いた。
「アンジュルグ、フルドライブ!」
「いつの間に!?」
気配一つ察されずに、羽根つき――W17がアンジュルグと称呼したISは既に後ろから接近してきた。
レイピアの外見をしている非実体剣を握り、アンジュルグは目視出来ないほどのスピードでビルトシュバインへ突きを放つ。
「まだだっ!!」
体を斜めにして何とかサークルザンバーでそのビーム剣を捌き、逸らした攻撃は背後の反重力翼に命中し、先端の一部を抉り落とした。
だが、この突きを放った後、ビルトシュバインの横を通って行ったW17はまるで幻影だったように空気の中に姿が消えた。
「なっ……残像?!」
「受けろ」
その不可解な現象に目を丸くしている間に、後ろから既に冷たい声と次の攻撃が容赦なく襲ってきた。
さっきと同じ、アンジュルグのレイピアによる斬撃だった。その速度は前回よりさらに早く、もはやダメージを負ったビルトシュバインの回避を許さない。
「……ミラージュ・サイン!」
「くあああっ!!」
W17の落ち着いた叫び声に応じるように、白き天使は幻影となり、海上の空間に乱舞する。
クリスに鋭い斬撃を加えては空気の中に消え、すぐさまに別の方向からまた襲ってくる。
何回も、何十回も、ただ標的であるビルトジュバインを八つ裂きにしようと切り刻む。
その攻撃はただ凄絶の一言だった。剣戟の嵐に巻き込まれたクリスは抜け出すことが出来ず、ただ衝撃を感じるたびに顔を歪め、歯を食い縛る。
ビルトシュバインの表面装甲は次々と破壊されていき、クリスの体にも傷が増えていく。
作品名:IS バニシングトルーパー 043 作家名:こもも