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IS  バニシングトルーパー 046

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 イルムがグルンガストのハイパワーを活かして、力任せに振り下ろした実体剣「計都羅睺剣」を、アクセルは肘のスザクブレードを展開して受け止める。
 凄まじい速さで打ち合った黄金の剣と白銀の刀の間に火花が飛び散り、男二人は咆哮を喉から迸らせながら睨みあう。

 「そうだ! これこそ正しい闘争というもの!!」
 「何ッ……?!」 
 鍔迫り合いの中、殺気に満ちた顔をしているイルムに向かって、アクセルは幾分か亢奮しているような口調で言葉をかける。

 「貴様は強くなり、俺も強くなった! 正しいバランスがあるからこそ、我々は兵士として進化した! これがな!!」
 アークゲイン全身のレンズ状パーツがアクセルの言葉に応じるように赤く輝き、アクセルは腕にさらに力を爆発させ、グルンガストの計都羅睺剣を押し返していく。
 イルムのグルンガストとの死闘で蓄積したデータで、アクセルはアークゲインは確実に前より強くなった。
 だからこそ、こうして負けているパワー面でもアクセルの腕によってカバーできている。
 それを闘争による進化と言わずして、何と言う!

 「ほざけ!!」
 アクセルの闘争を正面から肯定する言葉は、イルムの怒りの火にさらに油を注いだ。
 闘争のために強くなり、強くなってまた闘争を。
 戦いの連鎖で動く世界なんて、誰が笑顔でいられる。誰が幸せになれる。
 そんなの世は、ただの生地獄だ!
 歯を食い縛り、イルムは計都羅睺剣にエネルギーを集中させ、光らせる。

 「勝手に……ライバル気取ってんじゃねえ!!」
 「何っ! スザクブレードが……!!」
 アークゲインのスザクブレードに、微かなヒビが走っていく。それに気付いたアクセルはすぐに距離を取ろうとするが、彼の意図を読めたイルムはそれを許せない。

 「貴様のようなやつを、俺は認めねえ!」
 「ば、馬鹿な……!!」
 計都羅睺剣が一閃して、アークゲインの右腕外部装甲が丸ごと潰され爆散した。金属の破片に刺され、焼かれたかのような痛みに歯噛みして、アクセルは顔に驚愕の色を隠せない。
 そこでイルムはさらにアクセルの腹部に蹴りを入れ、僅かな距離を取ってグルンガストの脚部側面にあるハッチを開けた。

 「行け! ビッグ・ミサイル!!」
 脚部に収納されている二枚のミサイルが飛び出して、アークゲインに直撃した。
 ただの二枚だが、本来は対重装甲IS用のもの、その威力は語るまでもない。

 「うわああっ!!」
 「まだまだ!!」
 爆発の火球から吹き飛ばされたアクセルに向かって、イルムは計都羅睺剣を横に構えて接近して、両拳を前へ突き出す。

 「喰らえ! ブースト・ナックル!!」
 グルンガストの肘部ブースターが大きな音を立てて火を噴き、計都羅睺剣を構えた両手が一斉に飛び出して、金色のエネルギーを纏った刃がアクセルへ襲い掛かる。

 「くううううっ!!」
 迫ってくる計都羅睺剣の斬撃に、辛うじて体勢を調整してもう片方のスザクブレードで受け止めようとしても一瞬で砕かれ、黄金の剣がアークゲインの胸部装甲に抉りこみ、アクセルを後方へ押して行く。
 一度味わったことのある痛楚が、再び体全身に疾走し、アクセルは歯噛みする。
 まだ、この男に敗北するというのか?
 あの男が戦場に居ないこの世界でも、俺は敗者でい続けなければならんというのか?
 そんなこと、あってたまるか! 

 「アークゲイン! 俺の魂を喰らえ!! そして、俺に……!!」
 「さかるか!!」
 痛みに顔を歪めたアクセルの気合を遮り、イルムはグルンガストの胸部パネルを跳ね上がらせ、そこに形成された荷電粒子砲のバレルが輝き始める。
 ――この一撃で、けりをつける!!     

 「ファイナルビィィィィィム!!」
 超闘士の胸部に搭載された粒子砲が雄々しき獅子のように咆哮し、アクセルに直撃してアークゲインを飲み込む。
 命中する直前に、アークゲインが眩しく光ったような気がした。
 しかし、既に光に飲み込まれた相手に、その光の意味を確認する術はない。

 「ここで落ちろおおおお!!」
 凶暴なビーム砲撃を浴びて、防御能力の限界を超えて爆散していくアークゲインに、イルムはさらにファイナルビームの出力を上げ、より高い破壊力を持つ激流を撃ちだす。
 高熱のエネルギーを吐き続けるグルンガストの胸部パーツが過熱して、形が歪んでいくが、それでも砲撃をやめない。
 このテロリストどもを確実に仕留めれば、始末書などいくらでも書いてやるさ。

 「うわあああああっ!!」
 ついに、粒子ビームの中でアークゲインが盛大な爆発を起こした。一瞬で膨らみあがった爆炎と黒煙の中から、鎧を失い体にも重傷を負ったたアクセルははじき出されて、重力に引かれて墜落していく。
 そしてそのまま呆気なく、穏やかな海の中へ落ちて、再び浮かび上がることはなかった。
 この高度から海面に落ちては、石板に叩き付けられたのと変わらん。普通の人間なら、これで生還する確率は極めて低いのだろう。

 ファイナルビーム発射直前にアクセルから離れたフーストナックルがグルンガスト本体に戻り、イルムは両拳を握り締めて、複雑そうな表情を浮べた。
 どんなやつでも、一人の人間の命を奪ったんだ。覚悟していたとはいえ、何とも思わないわけがない。
 確かにアクセルが言った通り、戦争によって世界は進化したことは認める。
 しかし、感情を麻痺して進化するためだけに戦争をしたら、その果てにあるのはきっと破滅だ。
 だから、誰かがこの連中を止めなければならないんだ。

 「……くだらん妄想なんぞ忘れて、成仏しな」
 淡々とした口調でそう呟き、イルムはアクセルが墜落した場所に背を向けたのだった。



 *



 クリスのヒュッケバインMK-III、開少佐の量産型ゲシュペンストMK-II改、そしてゼンガー少佐のグルンガスト参式。
 同時刻にもう一つの戦場で、IS学園の生徒たちの劣勢は、この三機の増援によって逆転されつつあった。

 「マルチトレースミサイル、行け!!」
 シャルとセシリアを苦しめた張本人――メキボスを標的としてセットし、高機動砲撃戦用パッケージ「AMガンナー」とドッキングしたヒュッケバインMK-IIIを駆けるクリスは背部マルチコンテナのハッチを開けた。
 ハッチの裏まで無駄なくみっちりと積み込まれた赤いマイクロミサイル弾頭が一気に発射され、海上の空を埋め尽くす。
 シャルとセシリアは既に下がらせてあるため、ヒュッケバインMK-IIIで思う存分に暴れられる。

 現在に解析できた全てのオーバーテクノロジーを惜しまなく投入して開発したヒュッケバインシリーズの最新型「ヒュッケバインMK-III」。機体自体のスペックの高さは言うまでもなく、何よりも特筆すべきなのはその新型動力炉「トロニウム・エンジン」である。