IS バニシングトルーパー 046
数十メートルの空中からの自由落下、加えてあの重さ。その衝撃のダメージは想像もつかないほど激しいものなのだろう。
「ふんっ、顔を洗って出直して来い!」
地面に降りてきた開は、動けなくなったドルーキンを蔑むような目で睨みつけ、そんなセリフを口にしたのだった。
*
空中の方では、白式と赤椿との接触により放たれた眩しい輝きの中、一夏と箒は新たな力を手にした。
収まっていく閃光の中から、二次移行という名の進化を遂げて生まれ変わった白式が姿を現す。
よりシャープなフォルムをした各部装甲、更に大型化して四基の主翼に分裂したスラスターユニット、そして複合武装として再構成された左腕部ユニット「雪羅」。
白式と同様に、紅椿にも新しい力が発見されていた。
ワンオフ・アビリティー「絢爛舞踏」である。
エネルギーをほぼ無制限に増大させ、相手のISと触れるだけでエネルギー譲渡できるという、補給能力である。
これによって、進化した白式はエネルギー満タン状態でシルベルヴィントに挑むことができる。
「行くぞ。アギーハ」
雪片弐型の剣先をシルベルヴィントに向けて、一夏は自信溢れる表情で言う。
第二形態まで進んだこの白式で敵を倒し、自分はただの足手纏いでないことを証明してみせる。
「あれは……」
やっと納まったフラッシュから取り戻した明晰な視界にいきなり飛び込んだ白式の新しい姿に、アギーハは眉間にきつく皺を寄せた。
シカログのシグナルは健在だが、返事(テレパシー)が返ってこない。下の方で恐らく何か起きたのだろう。
ダーリンを置いていくわけにはいかない。しかし撤退にしても、まずは時間を稼がねばならん。
なら、しばらくこのクソガキの相手をするしかないだろう。そうすれば、ゼンガーとやらも手を出さないみたいだし。
「ふんっ、あたいも舐められたものだ。来な、ガキ」
シルベルヴィントのバーニアを吹かし、アギーハは鼻を鳴らした。それに応じるように、一夏はスラスターを展開して剣を構える。
箒のお蔭で、力が無限に湧き上がってくるようだ。
今なら勝てる。共に戦ってきた白式はそう言っている。
千冬姉を超えるために、自分で自分を認めるために、ゼンガー少佐の信用を裏切らないために。
さあ、行くぞ――!!
刹那、緑と白の機体が閃電と化して空を疾走する。
青白い光の尾を引いて孤を描き出しながらは衝突し、剣戟の音を響かせていく中、アギーハは驚愕する。
「ついて来ているだと?! このシルベルヴィントに?!」
さっきまで思うままに翻弄していた白いISが今では互角か、それ以上のスピードでシルベルヴィントを競い合っている。
それは愛機の機動力を自慢にしているアギーハにとって、我慢ならないことであった。
全推力を後方に集中して、シルベルヴィントはさらに加速する。その後を追って、一夏は強化されたスラスターの出力を限界ギリギリまで絞り出す。
白式とシルベルヴィントの高機動戦が、激化していく。
「今の白式を……甘く見るな!!」
一瞬だけ激突して、甲高い衝突音と共に二機の間に火花が散り、鋭い破片が飛散する。
その緑色の金属破片は、シルベルヴィントのものだった。
「調子に……乗るんじゃないよ!!」
愛機が傷付いたことに激怒し、アギーハは振り返って胸部のフォトンビーム砲を発射する。
その猛然と襲ってくるビームを勢いよく回転してかわし、一夏は相手が冷静さを失ったこのチャンスにシルベルヴィントへ接近する。
刀身がスライドして、そこから零落白夜の刃が現す。それを水平に構えて、一夏は一文字を書くように薙ぎ払う。
「これで!!」
「なッ!!」
シルベルヴィントの胴体部目掛けて斬りかかってくる攻撃を、アギーハは慌てて上半身を倒して回避する。
展開した胸部装甲とフォトンビーム砲の砲口が零落白夜の刃に削り落とされ、吹っ飛んでいく。
「このッ……!!」
「私のことを忘れてもらっては、困るな!」
なんとか一夏の攻撃を避けた矢先に、追いついてきた赤いISから光の矢が降り注ぎ、少女の声が響く。
白式とシルベルヴィントについていくのは無理だが、支援くらいなら問題ない。二本の刀を振り回し、箒はビームの刃を乱射する。
「この、くそガキが!!」
弾幕を潜り抜けて両手の高周波ソードを光らせ、シルベルヴィントは紅椿へ突進する。
アギーハを迎撃すると決めて、箒は刀を交差して構えて衝突を備える。
だが、その前に二人の前に真っ白なISが割り込む。
「お前の相手は、この俺だ!」
紅椿を庇うように立った白式の左手を前で突き出して、一夏は複合武装「雪羅」を展開する。
開かれた装甲が変形し、荷電粒子砲の砲口と化す。そこに粒子ビームのエネルギーが集中していき、輝きが増していく。
「なにっ!!」
初めて見た「雪羅」の機能に驚き、アギーハの顔が険しくなる。
しかしその距離では既に回避しきれない。
「喰らえぇぇえええ!!」
一夏の呼号が響いた次の瞬間、アギーハの視野が閃光によって埋め尽くされた。
まばゆい光の柱が空を貫いて雲を駆逐し、緑色のISを直撃して飲み込む。
「くうう……!!」
衝撃を受けて激しく動揺するシルベルヴィントの中、アギーハは歯を食い縛って激震を耐えつつ、心の中で焦慮する。
これじゃ時間稼ぎところか、やられてしまうではないか!
やがて荷電粒子砲の轟鳴が止み、シルベルヴィントの視野が晴れていく。
けれど真っ先にアギーハの視野に飛び込んだのは、両手で雪片弐型を振り翳す一夏の姿だった。
「うおおおおお!!」
一撃必殺の威力を持つ白式の剣を、一夏は力いっぱい振り下ろしていく。
*
一夏が勝負をかけた攻撃を放つ頃、海中から現れた新しい敵と交戦中のクリスの体は、鋭い痛みに襲われていた。
頭痛の方は少し治まってきたが、鎮痛剤の効果はとっくに切れていて、体中の傷口から血が滲み出ているのを感じる。
それでも気を緩めることなく、腕の中で気絶しているゼオラをしっかり掴みながら、ヒュッケバインガンナーを全速で飛ばす。
「ガルガウの咆哮を聞け!!」
暑苦しい男の叫び声と共に、凄まじいエネルギーの砲撃が一直線にクリスへ伸び、薙いで来る。
肩部の痛みに僅かに顔を歪め、クリスは操縦桿を捻り、ヒュッケバインガンナーを更に加速させて回避する。
そして急激な曲線を描いて回頭し、その攻撃の元を正面から捉えた。
尻尾を除いても全高十メートル以上という、破格な体型を持つその怪獣(モンスター)は、ガルガウという名で呼ばれていた。
まるで本物のゴジラみたいに首を回して口から火を噴き、胸部装甲を突き破るように出てくる大型ビーム砲口が大量の粒子ビームを吐き出す。
おそらく本来は地上の格闘戦をメインとしているのだろうけど、信じ難いことに、ガルガウは両腕部の大推力ブースターを使って何度も高速に突進して、ハサミのような大型クロー、鋭い鉤爪、そして強力な尻尾で接近戦を仕掛けてくる。
加えて、遠距離攻撃能力も低いわけではない。
作品名:IS バニシングトルーパー 046 作家名:こもも